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第666話

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隼人は月子に嘘をつきたくなかった。

でも、なぜか今は言葉にできなかった。

性格のせいかもしれない。彼が完全に安心できるとき、例えば月子が本当に自分と結婚したいと思って、二人の関係がしっかり固まったとき、そのときに初めて話すつもりだった。

月子は本気で気になった。「本当に、教えてくれないの?」

隼人は聞き返した。「お前は、いつから俺のことが好きなんだ?」

月子はすぐに答えた。「あなたと知り合ったら、誰だって好きになるわ。ごく自然なことよ」

隼人は心の中でため息をついた。

これはつまり、三年前にもし自分が月子を助けていたら、彼女は運命的に自分を好きになっていたということだろうか?

月子、ずっと好きでいてくれよ。

隼人はそう願いながら、彼女の耳元にキスを落とした。「おやすみ」

月子はその答えが気になって仕方なかった。でも、彼が話してくれる日までこの気持ちを持ち続けるのも、なんだかロマンチックだと思った。

……

計画通り、月子と彩乃は、Lugi-Xのアップグレード版であるLugi-Mの開発で、目の回るような忙しさだった。

月子は以前、千里エンターテインメントにいることが多かった。でも今ではSYテクノロジーの社員はみんな知っている。この会社には社長が二人いることを。一人は表に立つ彩乃で、もう一人が中核技術を担う月子だということを。

技術開発部全体が、月子のチームだった。

そんな月子は毎日仕事や勉強に追われた。そしてようやく遅れていた専門知識も取り戻し、業界の最先端までたどり着いたのだ。そのうえ恋愛までして、副業に芸能プロダクションまで経営しているなんて……

まさにタイムマネジメントの達人といった多忙な生活を送っていたのだ。

月子は、技術部で研究に没頭していると、いつも母親の翠を思い出した。翠は仕事に情熱を燃やす女性だったから、自分はますます彼女に似てきたなと感じていた。

あんなに自分自身に厳しくて、理性的で強い母親が、本当に夫の浮気くらいで鬱になって、精神的に参ってしまったりするんだろうか。

月子にも、自分の母親を理解できないときはあった。

でも、二十年以上も騙され続けてきたんだ。きっと受け入れられなかったんだろうな。

とはいえ、そんな考えがよぎるのは時々だ。月子は、翠が大好きだった。厳しくも優しい母親。今、彼女のようになれていること
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