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第2話

作者: ツイてる人
綾は、この「写真展」の裏にある汚い企みを全部知っていたはず。それなのに、彼女は白々しく涙を流しているのだ。

彼女は悠斗の残酷さを責めていた。しかし、自分の優柔不断な態度が、同じように私を裏切る鋭い一撃になっていることには、まるで気が付いていないようだ。

その時、私は目を開けることも、表情を作ることもできず、ただ、込み上げてくる冷たい涙が流れていくのを感じて、心の底でも、嘲笑いだけがこみ上げてくるのだった。

今さら善人ぶって、何なの?

そもそも、私をあの「アングラ写真展」とかいう場所に騙して連れて行ったのは、どこの誰だったかしら?

私はゆっくりと目を開けた。涙が頬を伝って枕に吸い込まれ、音も立てずに消えていく中、胸の奥で、憎しみが芽生え始めていた。

彼らに、代償を払わせてやる。

そう思っていると悠斗が、突然壁に拳を叩きつけた。

「クソっ!あの獣どもめ!

日和(ひより)にこんなことをするなんて……あいつら、絶対にただじゃおかない!

幸い……あいつらはお前に本当に手を出したわけじゃない……世界で一番腕の立つカウンセラーの先生も呼んである。きっと、心の傷を癒してくれるはずだ。

でも、菜々子の写真展がもうすぐ始まる……彼女が長年かけて準備してきたものを、こんなくだらないことで台無しにするわけにはいかない……

日和、大丈夫だ……俺はそんなこと気にしないから。お前は何も悪くない」

何なのよ、それ?

なんでこの人は、こんなにあっさりと、この話を終わらせられるの?

まさか、そんな口先だけの言葉で、私がこの5日間受けた地獄のような仕打ちを帳消しにできるとでも思っているの?

そう思うと怒りで、私は体の奥から湧き上がる震えが止まらなかった。

私は歯を食いしばり、まだ体の中に残っている薬の作用に、ありったけの力で抵抗した。

そして、全身の隅々から込み上げる怒りと悔しさを声に出して叫びあげたかった。

こうしてやっとのことで、乾ききった喉から、一言だけ絞り出した。

「黒幕は……見つかったの?」

すると、悠斗は視線をそらし、少し声を低くした。

「日和、余計なことは考えるな。今はただ、ゆっくり休んで、体を治すことだけを考えろ。

安心しろ。お前を傷つけたやつらは、俺が絶対に許さないから」

彼の目は赤く充血していて、喉を動かし、言葉を詰まらせていた。

いつもは自信満々なこの男が、珍しく罪悪感をにじませた顔をしていた。

一方で、綾も私の手をぎゅっと握りしめ、体を震わせながら泣いていた。

「おばさん……安心して……私はまだ子供だけど、ちゃんと成長して強くなるから……

強くなったら……おばさんをいじめた人たち、一人残らずやっつけるから!

ほんとだよ……約束する……これからは、私がおばさんの前に立つから……もう誰にも、おばさんを傷つけさせないから……」

その言葉、どこかで聞いたことがある。

5年前に私が悠斗と結婚したとき、綾はまだ2歳だった。

悠斗の元妻である山本菜々子(やまもと ななこ)は、アートのためと言って、出産から1ヶ月も経たないうちに離婚し、どこかへ行ってしまった。

あの時私は綾を自分の子供のように思い、昼も夜も彼女の面倒を見てきた。そして、彼女に完璧な愛情を与えるために、自分の子供を産むことさえ諦めたのだ。

そして悠斗もあの時はよく私を抱きしめて、こう言っていた。

「日和、お前は俺たちにとって、何よりも大切な人だ。この先ずっと、俺と綾が必ずお前を守るからな」

綾もいつも、あどけない顔を上げて相槌を打った。

「おばさんは世界で一番優しい人!大きくなったら、私もパパみたいにおばさんを守ってあげるんだ!」

私はずっと信じていた。この何年もの間、すべてを捧げてきたことで、私たちはとっくに血のつながった本当の家族になれたのだと思っていた。

だが、まさか、今、私を一番深く傷つけているのが、かつて私を守ると誓ったこの親子だったなんて。

耳に残るあの時の誓いの言葉が、今では私の心を突き刺す鋭い刃物のように感じて止まないのだ。

彼らにとって、私は菜々子の居場所を奪い、本来彼女が手にするはずだったすべてを横取りした女なのだ……

でも、私がいったい何をしたっていうの?

私は、彼らが離婚した後に悠斗と出会って、心から愛を注いで、いい妻、いい母親になろうとして一生懸命やってきただけなのに。

すべてを捧げた結果が、これ。まるで、笑いものじゃない。

これまで悔やむことなくすべてを捧げてきた私は、一体誰に償ってもらえばいいの?

そう思うと、胸を鈍いナイフで何度も切りつけられているみたいだった。そして、鼓動を打つたびに、引き裂かれるような痛みが走ったのだった。

目の前にある彼らの偽物の涙とちっぽけな罪悪感は、展示台の上で向けられたむき出しの視線なんかよりも、ずっと吐き気がするように感じたから。

もう、遅すぎた……

この世で一番つらいのは、知らない人に傷つけられることじゃない。一番信じていた人に、どん底へ突き落とされることなんだ。

さらにその相手があたかも、偽善者かのように助けの手を差し伸べてくるのだから、余計に傷つくのだ。

そう感じて、私は体を支える力がすべて抜けていくようだった。

意識が闇に沈む、その最後の瞬間。頭の中に、一つの考えだけが残っていた。

どうせ、みんな私が菜々子の居場所を奪ったって言うのなら――

じゃあ……全部、彼女に返してあげる。
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