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第4話

Author: 啓蟄
病院の院長が満面の笑みで入ってきた。彩葉を素通りし、真っ直ぐに蒼真と雫に歩み寄る。

「奥様、ご心配なさらず。息子さんは私が直々に当院の専門家たちと診察し、大事ないと確認しました。もう少し休めば退院できます」

人違いに気づいて、雫の頬が赤く染まった。だが、すぐには訂正しない。

そして背後の男も、冷淡なだけで、口を開こうとした時、彩葉が先手を打った。

「先生、氷室瞳真の母親はこの私です」

彼女は「氷室夫人」を名乗らなかった。なぜなら心の中では、すでにこの冷淡な男と何の関係もなかったからだ。

雰囲気が、どんどん気まずくなってきた。

院長は目を見開いて質素なスウェット姿の彩葉を見、また全身をブランド品で固めた雫を見て、頭が一瞬真っ白になり、慌てて謝罪した。

「も、申し訳ありません、大変失礼いたしました!息子さんは大丈夫です、ご安心ください!」

雫は伏し目がちに、唇を固く結んだ。

わずかな悔しさが滲む。

「瞳真は一体何が原因で喘息を起こしたんですか?」彩葉は真剣に尋ねた。

医師「お子さんは肺機能が弱く、先天性の喘息があります。日常の食事には特に注意が必要で、ナッツ類、海鮮類はすべて重度の喘息を引き起こします。幸い救急処置が間に合いました。でなければ危険でしたよ!」

蒼真は疑わしげに瞳真の蒼白い小さな顔を睨んだ。

「瞳真の日常の食事には特に注意していて、ナッツや海鮮には絶対触れさせない。学校の先生にも伝えてある。どうして食べてはいけないものを口にするんだ?」

そう言って、男は怨みを込めた目を冷たく彩葉に突き刺した。

「調べるのは、簡単よ」

彩葉の鋭い刃のような視線が、雫の可憐な顔に移った。

「氷室家の上から下まで、瞳真が喘息だと知らない者は一人もいない。瞳真におやつや体に悪いものを食べさせる者も一人もいない。今日、学校に行く前に瞳真が誰と接触したか分かれば、彼のアレルギーの原因が分かるわ」

一言も雫に触れていない。

だが、一言一言が彼女を指している!

雫は瞳真をしっかりと抱きしめたが、心臓は太鼓のように高鳴った。

「瞳真、何を食べたの?誰からもらったの?」彩葉は真剣に息子を見つめた。

瞳真が生まれた瞬間、彼は正真正銘の氷室家の後継者だった。

本来なら厳格に教育すべきなのに、蒼真は仕事に忙しく常に父親の役割を果たさず、義母は孫を天まで甘やかし、氷室家の使用人たちは皆、瞳真を皇帝のように扱った。

瞳真は小さい頃から、わがままで横暴に育てられ、まさに「魔王」だった。

そして一心に息子に尽くし、父親も母親も兼ねた彩葉は、息子の目には口うるさい煩わしい存在になってしまった。

「瞳真、一体どういうことだ?」蒼真の端正な顔が暗くなった。

瞳真の黒い瞳が泳ぎ、唇をきつく噛んだ。

彼は言えない。学校への道中、雫がピスタチオ味のアイスクリームを買ってくれたせいだとは。

そうしたら、雫がパパに叱られてしまう。

雫は自分にとても良くしてくれる。パパに叱られるようなことはさせたくない!

「ふ、古江のやつだよ!」

瞳真は早口で、顔を真っ赤にした。「アイスクリームは僕が買ってもらったんだ。アイスクリームが食べたかっただけ。中にナッツが入ってるなんて知らなかったんだもん!」

雫は相変わらず小さな手を優しく撫でているが、一言も発さなかった。

蒼真は眉間に深い溝を刻んだ。「……古江が?」

古江は氷室家で二十年も車を運転している。誠実で務めに忠実な男だ。氷室家の内情は、彼と山根執事が最も理解している。どうしてこんな規則を破る行動をする?

彩葉は信じられない思いで瞳真を見つめた。心の奥底から、じわりとした痛みが伝わってくる。

一瞬、彼女が苦労して育てた息子の顔が、次第に見知らぬものになった。

小さい頃から、彼女は息子に堂々と、誠実で信頼できる人間になるよう教えていた。何が起きても、絶対に嘘をついてはいけないと。

これが瞳真が物心ついて以来、初めての嘘だった。

それが、雫を守るためだった。

「古江さん!」彩葉は目に涙を浮かべ、呼んだ。

「はい、奥様!」

外で待っていた古江が病室に入り、恭しく蒼真に頭を下げた。「若旦那様」

瞳真がぎくりとした。

蒼真は訝しげに彩葉を見た。「古江を呼んで何をする?」

彩葉は男の不機嫌な顔を無視し、静かに言った。「古江さん、瞳真は今朝学校に行く途中でピスタチオアイスクリームを食べたと言ってるが、あなたが買ったの?」

古江は慌てて手を振った。「いえいえ奥様、奥様のご指示がなければ、どうして坊ちゃまに勝手なものを食べさせられますか!アイスクリームは実は……」

「わ……私よ!」雫の声が震え、ついに耐えられなくなった。

蒼真は呆然と目を見開き、女性の涙を浮かべた清麗な顔を凝視した。

瞳真は雫の手を掴み、心配でたまらない。「雫のせいじゃないよ!」

「蒼真さん、全部私が悪いの……」

雫の小さな鼻先が真っ赤になり、涙がぽろぽろと落ちてきた。「瞳真くんが道端のアイスクリームを見つめているのを見て、可哀想で、つい買ってあげてしまったの。ナッツアレルギーだって知らなくて……蒼真さん、瞳真くん……全部私のせいなの。ごめんなさい……」

蒼真はしばらく沈黙し、軽くため息をついて、優しく言った。

「まあいい。お前は瞳真の状況を知らなかったんだ。わざとじゃない。次から気をつければいい」

雫は涙に濡れたまま、白い小顔を上げた。「蒼真さん……」

瞳真は一気に喜んだ。「良かった!パパは怒らないって分かってた。だってパパは雫が一番好きなんだもん!」

蒼真は表情を見せず、また何も言わなかった。

たとえ息子が言ったことが事実でも、彩葉はとっくにこの残酷な真実を黙って受け入れていた。

しかしこの瞬間、彼女は胸に悪寒が湧き上がり、全身の血が逆流するのを感じた。

彼女は以前のことを思い出した。書斎に入って蒼真にコーヒーを運んだ時のことを。

書類の邪魔をしないよう、彼女は靴まで脱いで、裸足で歩いていき、コーヒーを机の上に置いた。

ところが、蒼真はプロジェクトのことで苛立っていて、大きな手で一掃し、コーヒーが机一面にこぼれた。

「余計なことするな。出て行け!」

明らかに自分の不注意なのに、すべての怒りを彼女に向けた。

その夜、彼女はコーヒーカップを洗いながら、黙って長い間涙を流した。

今、雫に対して、蒼真は優しく忍耐強くて寛大だった。

目の前のこの女が、もう少しで彼の息子を殺すところだったというのに!

愛するか愛さないか、その差は火を見るより明らかだ!

彩葉は決然と身を翻し、足早に去った。

この光景をこれ以上目にするのも不愉快だった。

「蒼真さん。お姉ちゃん、機嫌が悪そう。外に様子を見に行くわ」

雫は急いで涙を拭い、立ち上がって後を追った。

彩葉はそう遠くまで行かないうちに、突然膝に痛みを感じ、体が虚脱し、足を止めた。

「お姉ちゃん」

雫は冷たい笑顔で彼女を呼び止めた。「お姉ちゃん、どうしてそんなに急ぐの?まるで蒼真さんと夫婦仲が険悪みたいじゃない」

明らかに、彼女の言葉を引き出そうとしている。

「林雫、そんなに誇らしいことなの?」

彩葉は真っ直ぐ彼女を見て、瞳が氷のように冷たかった。「五歳の子供を誘導してあなたのために嘘をつかせ、その心を全部他人の夫と子供に注ぎ込んで。

あなたがアイビーリーグ大学のコンピューターサイエンス学科卒業の秀才だと思う人が多いでしょうけど、知らない人に、どこの三流女学院から出てきたと思われるわよ……」

しかし、彩葉は良い教育を受けた人間だ。大勢の前で雫と激しくに争いたくない。

彼女は正直で、品位を重んじる。

雫の母娘のように、恥知らずに他人のものを奪い、それでいて当然という顔をすることなど、到底できない。

雫は十指を握りしめ、赤い唇を持ち上げた。

「あらお姉ちゃん、どうしてそんなに威圧的なの?瞳真くんが嘘をついたのは、母親として彼とのコミュニケーションが不足していて、教育がうまくいってないからよ。私と何の関係があるの?

『子は親の鏡』って言うわ。子供は真っ白な紙よ。親の育て方次第で、彼はどうとでもなるの。お姉ちゃん、普段から言動には気をつけないと」

「はっ……笑わせるわ。結婚も出産も未経験のくせに、私に母親論を説くおつもり?」

彩葉は怒るどころか笑った。以前のような口下手とは全く違う。「まだ子供も産んだことないのに、もう説教臭さ全開ね。あなたの蒼真さんに嫌われないか心配じゃない?」

雫の唇の端が引きつり、力強く息を吸った。

彩葉は体調が悪く、彼女とこれ以上言い争いたくなく、身を翻して去ろうとした。

しかし、屈辱を受けた雫は甘んじず、彼女の腕を掴んだ。

彩葉は呻き、滑らかな額に汗が滲んだ。雫が掴んだ場所は、ちょうど彼女がチップを救出するために怪我をした箇所で、今もガーゼが巻かれていた。

「離して!」彩葉は歯を食いしばり、振り払った。

「きゃあ!」

雫が驚きの声を上げ、華奢な体が後ろに仰け反った。

しかし、地面に倒れることはなかった。

なぜなら蒼真がいつの間にか駆けつけ、逞しい両腕を広げて、しっかりと彼女を抱き留めたからだ。
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おすがさま
いつものパターン! 早く別れればいいのに……読んでて辛いわ〜
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