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第531話

Author: 青ノ序
「ゆっくり休んで。会いに来たのは、何かを求めてるわけじゃない。ただ……ただね……

おやすみ、綾」

健吾は手を伸ばしかけたが、綾を怒らせるのが怖くて、力なくその手を下ろした。

ただ綾と一緒にいたいだけだった。たとえ毒づかれたとしても、それが嬉しかった。

綾は、静かに閉まったドアを見つめていた。ずるずると膝を抱えて、床に座り込んだ。

吐き出した言葉は諸刃の刃のように、健吾を傷つけると同時に、自分の心も深く切り刻んでいた。

研究データはうまく扱えるのに、複雑な感情はちっとも分からなかった。

幼い頃から今まで、普通の愛情を知っているのは両親の間だけだった。

でも両親がいなくなったのは、綾がまだ8歳のときだ。

当時の綾には、恋が何なのかさえ分からなかった。

その後、叔母の千佳に引き取られた半年間は、暗闇のような苦痛の毎日だった。

千佳は綾を叩くし、腹を立てれば叔父の透真までも罵り叩いた。

綾は、千佳が自分と同じように、透真のことも憎んでいるのだと思っていた。

なのに透真が亡くなったとき、千佳は一番ひどく泣き崩れたのだ。

和子に中野家に連れて行かれると、そこには和子と3
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