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第12話

Auteur: ハルエ
人がすっかり帰ったあと、リビングには散らかり放題の跡と、ソファにもたれて目を閉じている修司だけが残った。

翔平はスタッフに水と温かい味噌汁を用意させた。

運ばれてきた頃には、修司はもう眠りに落ちかけていた。

「起きろ。飲んでから寝ろ」

修司は動かなかった。

翔平は彼の隣に腰を下ろし、水と温かい味噌汁をローテーブルに置いた。

しばらく黙ったあと、口を開く。

「修司」

彼は言った。

「ひとつ、話しておきたいことがある」

修司は返事をしなかった。

けれど眠ってはいない。睫毛がかすかに震えた。聞いている証拠だった。

「昔、俺のことをすごく好きでいてくれた子がいた」

翔平の声は静かだった。

少し間を置いた。言葉を選んでいるようでもあり、遠い昔を思い返しているようでもあった。

「本当に、よくしてくれたんだ。よくしてくれすぎて、いつの間にかそれが当たり前になっていた。

何か食べたいと言われれば、自分で買ってくればいいと言った。具合が悪いと言われれば、温かいものでも飲んで寝ろと言った。メッセージが来ても、読んだあと、急ぎじゃないと思って返さなかった。

俺は、あの子が離
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    蓮が、私の後ろに立っていた。「どうして来たの?こういう場は面倒だって言ってたのに」「来るつもりはなかった」彼は酒をひと口飲み、私に視線を落とした。「でも、お前ひとりでこれだけの相手をするのは、疲れるだろうと思って」「それで来たの?」「うん」私は彼を見て、ふいに笑ってしまった。「何を笑ってる?」「あなたを」私は言った。「人を気遣うのまで、そんなに不器用なんだなって」彼は片眉を上げただけで、否定はしなかった。二秒ほど沈黙してから、彼がふいに口を開いた。「さっき、バルコニーであの男と何を話していた?」私は一瞬固まった。それから気づいた。彼は、私と修司がバルコニーにいたところを見ていたのだ。「見てたの?」「うん」彼は言った。「二階の個室から」私は何も言わなかった。窓の外から夜風が入り、彼の額にかかる髪を揺らした。彼は私の前に立っていた。宴会場の灯りを受けて、全身にやわらかな金色の光をまとっていた。現実の人ではないみたいに、きれいだった。宴会場の灯りが、一つ、また一つと消えていき、人々も散っていった。蓮は私をホテルまで送ってくれた。車がホテルの前に停まると、彼はポケットから何かを取り出し、私に差し出した。小さなベルベットの箱だった。「開けてみて」私は開いた。中に入っていたのは、ブローチだった。小さな金木犀の枝をかたどったもので、銀と細かなダイヤで作られている。信じられないほど繊細だった。「お前の庭の金木犀」彼は言った。「今年、咲いた」私は顔を上げて彼を見た。「帰る頃には、まだ散っていないはずだ」私はその箱を握りしめ、急に目の奥が熱くなった。悲しかったからではない。ようやく分かったからだ。本当に大切にされるというのが、どういうことなのか。静かに、確かに、毎日少しずつ。後ろで見守ってくれて、待っていてくれる。必要なときにはそばにいて、そうでないときは、少し離れた場所で見守ってくれる。私は顔を上げ、車窓の外に広がる浜都の夜空を見た。星はなかった。けれど、数えきれないほどの灯りがあった。その灯りの一つ一つの下で、誰かが誰かの帰りを待っている。「蓮」私は言った。「うん」「帰

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  • 十年の恋を捨てて、私は海の向こうで咲く   第16話

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  • 十年の恋を捨てて、私は海の向こうで咲く   第4話

    私は修司をじっと見つめた。その言葉が彼の口から出たものだなんて、どうしても信じられなかった。あの年、彼に連れ出されてからしばらく、私はずっと現実感のないまま生きていた。目の前で両親が炎に吞まれていったことが、私にとってどれほど越えられない傷になったのか、彼はよく知っていたはずだ。あの頃、彼は私を無理に慰めようとはしなかった。ただ毎日、黙って霊園まで付き添ってくれた。当時、世間では両親を「自業自得」だとする噂がひどく広まっていた。父が会社の金を不正に流用したとか、母が違法な実験に関わっていたとか。私は何度も壊れそうになった。その言葉は両親を侮辱するだけではなく

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    私は振り返り、伊織をまっすぐ見た。彼女はビリヤード台にもたれ、首をかしげてこちらを見ていた。口元には、いつもの笑みが浮かんでいる。その笑顔を、私はもう何度も見てきた。私と修司の間がぎくしゃくしたときも、言い争ったときも、もう終わりだと思うほどこじれたときも、彼女はいつもその顔をしていた。「夏希、いつもそうでしょう」そんな軽いひと言で、私の悔しさも、苦しさも、全部ただの笑い話にされてしまう。視線がぶつかった。彼女は目をそらさなかった。それどころか、ほんの少し顎を上げた。大事に甘やかされて育った人間だけが持つ、余裕と気高さを全身にまとっていた。修司が身をずらし、伊織

  • 十年の恋を捨てて、私は海の向こうで咲く   第2話

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  • 十年の恋を捨てて、私は海の向こうで咲く   第1話

    第520便が着陸した。これまで一度も迎えになんて来たことのない恋人、高城修司(たかしろ しゅうじ)が、空港で私・藤原夏希(ふじわら なつき)を待っていた。彼は空輸で取り寄せたブルースローズの花束を抱え、ベルベットの箱の中ではダイヤの指輪がきらきらと輝いている。彼が膝をついた瞬間、周囲から信じられないというように息をのむ音が上がった。付き合って十年。彼が私と結婚したいと言ったのは、これが初めてだった。私は平静を装いながら、指輪をはめてもらい、震える声で言った。「修司、私たち……」けれど彼は、ふっと笑った。そしてそばにいる誰かへ視線を向け、軽く眉を上げる。「言っただろ。

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