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光を映さぬ水晶

مؤلف: 中岡 始
last update آخر تحديث: 2025-09-04 15:50:28

静寂に沈む寝台の上で、青年は目を閉じていた。天井まで届く金の格子が、ゆるやかな弧を描き、外の世界とこの部屋を柔らかくも冷たく隔てている。格子の間から差し込む光は細く、真昼でさえ床に淡い模様を落とすのみ。壁には花の透かし彫りが刻まれ、そこからゆるやかに甘い香が流れ出していた。乳香とも、蜜ともつかぬその香りは、夜ごとに青年の夢と現の境を曖昧にする。

寝台は絹で覆われ、柔らかく冷たい。だがその柔らかさは安らぎのためではなかった。触れるたび、そこに在る自分がどこかに吸い込まれていく。体温が、部屋の空気の一部として溶けていく気がする。青年は、何をしても名を呼ばれることはなかった。侍者たちは淡々と世話をし、時に肌を撫で、髪を梳かす。だがその指先には執着も愛しさもない。ただ“与えるため”にそこにある。

金の格子はきらきらと輝いていたが、その内側の沈黙はあまりに深い。青年は時折、部屋の隅に置かれた水晶の杯を手に取る。透きとおるその器に何も注がれていなくても、唇を寄せてみたくなる。そこに残るのは、誰のものでもない自分の気配だけだった。

王は、アミールの語るその部屋の情景に、奇妙な居心地の悪さを感じていた。金の格子、美しさに囲まれた孤独。外側から見れば贅沢な牢獄だ。だが内側にいる者の静けさには、肌がじりじりと焼けるような感覚が付きまとって離れなかった。

「この部屋は楽園です。けれど、出ることはできません」

アミールは静かにそう語った。語りの間にも香が流れる。王はその香が、なぜか自分の手から立ちのぼっているような錯覚を覚えた。

物語の中の青年は、与えられるままに過ごす日々に慣れきってしまっていた。侍者が新たな衣を持ってくると、微笑みを返して受け入れる。水で濡らした布で肌を拭われ、指先に蜜をのせられる。その一連の行為のすべてが、青年の名を奪うための儀式のように繰り返されていた。

王は、ふとアミールの唇に目を落とした。物語を紡ぐその声が、寝台の冷たさや金の格子の輝きを纏い、王の胸の奥に沈んでいく。アミールのまなざしは静かだった。だが、その静けさの奥に、何かが眠っているようだった。

「与えられ続けると、人は自分の名を忘れてしまうものです」

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  • 千夜一夜に囚われて~語りの檻と王の夜明け   王の物語、始まりの声

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  • 千夜一夜に囚われて~語りの檻と王の夜明け   物語の書き換え

    朝焼けが王宮の窓辺を淡い紅に染めていた。長い夜の余韻を残したまま、王の部屋には静けさが広がっている。アミールは椅子に腰かけ、窓から射し込む光に手を伸ばしていた。その掌の先に、サリームがそっと近づく。手紙を胸に抱いた王は、ゆっくりとアミールの前に腰を下ろした。「アミール」サリームは静かに語りかける。その声には、これまでのどの夜とも違う透明な響きがあった。「私は、ずっと恐れていた。愛すれば、必ず失われる。そう信じることで、自分自身を罰してきた。でも…」サリームは手のひらをそっと広げ、自分の手首を見つめる。そこにはまだ、淡く痣が残っていた。しかし、その痛みもどこか遠いものになっている。「ザイードが遺した言葉を、今夜ようやく受け入れられた気がする。私は私自身を、どこかで赦したかったのかもしれない」アミールは黙って耳を傾けていた。王の声が朝の空気に溶けていく。「呪いは、本当は私の内にあった。誰にも与えられてなどいなかった。私は“愛すれば死ぬ”と物語にして、自分を閉じ込めてきた」サリームはゆっくりとアミールの手を取る。ふたりの指が重なり、手の温もりが過去の冷たい影をゆっくりと溶かしていく。「私は、これからは違う物語を生きたい。“愛することで生き直す”物語を。君と一緒に、新しく歩き始めたい」アミールの胸が静かに震える。その震えは、喜びにも似ていた。「あなたがそう言ってくれて嬉しい」小さな声だったが、確かな決意が込められていた。窓の外では、朝焼けが宮殿の塔を赤く染めている。ふたりの影が床に並び、これまでのどんな夜よりも長く、温かな形を描いていた。「私の人生が物語であるなら、私は今日からその語り手になる」サリームはそう言って、アミールの目をまっすぐに見つめる。「君と共に語り、共に生きる物語を選び直したい」アミールは、そっと王の手を引き寄せ、軽く額を触れ合わせる。「私も、あなたと歩む新しい物語を生きていきたい」ふたりの間に、

  • 千夜一夜に囚われて~語りの檻と王の夜明け   赦しの手紙

    夜が更け、王宮の空気がひときわ静まりかえる。アミールの語りが終わり、ふたりの間には穏やかな沈黙が流れていた。蝋燭の灯が小さく揺れ、サリームの頬に影を落としている。その横顔はどこか安らぎを帯びていたが、瞳の奥にまだ癒えぬ痛みの色が残っていた。サリームはふと、机の奥にしまい込んでいた小さな箱の存在を思い出す。長いあいだ開けることのなかった箱。その中には、かつてザイードから託された手紙が一通だけ、封も切られぬままに眠っていた。立ち上がると、サリームは無言で箱を手に取り、机の前に座り直した。アミールはそっと王の動きを見守っていた。その瞳には、静かな祈りのようなものが浮かんでいる。封蝋を剥がし、そっと手紙を取り出す。紙は時の重みに少し黄ばんでいる。インクの染みが、ザイードの震える手の跡を思わせた。ゆっくりと広げる。ザイードの筆跡が、王の名を優しく呼びかけている。「サリームへ」その一行だけで、胸の奥が熱くなる。サリームは指先を震わせながら、静かに文を追った。「私は、君を裏切ったことはない。君の前で何も語れなかったのは、恐れと、愛のせいだった。君がもしも私を赦してくれる日が来たなら、それだけで私は満たされるだろう。君が誰かを、再び心から愛し、生きる日が来ることを願っている。呪いなどどこにもない。ただ、君自身が君を許してほしい。私もまた、君を愛している。誰よりも深く」インクの染みが、いくつもの涙の跡のように広がっている。サリームは目の奥に熱いものがこみあげるのを抑えきれず、声もなく涙を流す。長いあいだ、手紙の存在ごと心の奥底に封じ込めていた感情。ザイードの言葉は、静かにサリームの胸の檻を開いていく。「赦してくれ…私は、君を守りたかっただけだった」つぶやくように、ザイードの手紙は続いている。「どうか、愛することを怖れないでほしい。私は君の生を望んでいる。君は君のために生きてほしい。…それが、私の最後の祈りです」涙がぽたりと手紙に落ち、インクの文字をかすかに滲ませる。サリームは手で顔を覆い、しばし声を殺して泣いた。アミールはそっとその背

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