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№07・嘆きのミセリコルデ・5

last update publish date: 2026-10-17 00:14:00

「とにかく、散開して森の中に潜んで! 道が狭いからまだ一体多数は避けられる!」

 メルランスの言葉に、三人は散って夜の森の中に駆け込んだ。

 とにかく何も見えないので、つまずきかけながらも走る。時折木にぶつかりながらできるだけ元の地点から離れないようにぐるぐる逃げ回った。

「男の方はあっちだ!」

「ちくしょう、ぶっ殺してやる!」

 背後から聞こえる怒声に背筋をビビらせながら、とにかく逃げ回った。

「きゃー!!」

 ほど近くからキーシャのものらしい悲鳴が聞こえる。次に聞こえたのは、ずん!と大地を揺るがすような衝撃だった。ぎゃー!!などと今度は山賊たちの悲鳴が聞こえる。

「来ないでー!!」

 ばん!ばん!と大爆発の音と上がる火の手の明かり。どうやらキーシャは恐慌状態に陥って魔法を乱発しているらしい。

 あの威力で連射されたら山の一角が焦土と化しそうだ。マズいと踏んだ南野は、急いで元の場所に戻った。

 戻ってきた掘立小屋は、もうそこにはなく、根こそぎ消し飛んでいた。あたりには負傷した山賊たちが呻きながら倒れ、残った数人の山賊たちもキーシャをなにか恐ろしいモンスターでも相手にしているかのように遠巻きに警戒している。

「キーシャ!」

 メルランスも状況を危ぶんだのか、すぐに戻ってきた。

「うわああああ!! 『第百五楽章の音色よ! 創生神ファルマントの加護のもと、巨人の鉄槌を大地に振り下ろすがごとき旋律を解き放て!』」

 印を切る手と呪文詠唱だけは正確なのは魔法学生らしいと言えるだろうか。どぉん!と音がして、不可視の重力波が地面をへこませた。

「やめなさい! これ以上は人死にが出る!」

「やめて来ないでええええ!!」

 完全にパニックに陥っているキーシャに、メルランスの言葉は届かない。

 どうすればいいか。南野が頭を悩ませていると、メルランスが駆け出す。

 疾風のような勢いでキーシャの懐に滑り込み……そのまま体当たりするように、ぎゅう、と彼女のからだを抱きしめた。

「大丈夫だから! 落ち着いて! 私たちがいるでしょ!」

「……あ、う……」

 突然の抱擁に呆気にとられたのか、キーシャはぽかんとして動きを止めた。ぱたり、魔法を乱発していた腕が落ちる。

「大丈夫。怖いことなんてなにもない。だから、落ち着いて」

「……あ、ああ……私、わたし……」

 次第に我に返っていくキーシャは、辺りの惨状を目にして青ざめた。

「なんてことを……」

「あんたのノーコンがさいわいして、死ぬほどの重傷者は出てないよ。掘立小屋はとその周りの木は消えてなくなったけど」

 とんとん、キーシャを抱きしめながらあやすように背中を叩くメルランス。緊張の糸が切れたのか、キーシャはぼろぼろと泣き始めた。

「うっ、うっ……ごめん、なさい……私、全然ダメですね……ごめんなさい……」

「いいから。結果的にはあんたの魔法に助けられたわけだし」

 言ってから、メルランスはようやくキーシャから離れた。そして、地面に這いつくばって呻く山賊たちを前に、ない胸を張って腰に手をやり言い放つ。

「痛いでしょ? あたしたちならその傷治してあげられる。それとも、このままずっと痛いままでいる?」

「治してくれ! お前ら魔法が使えるんだろう!?」

 すぐさま山賊のひとりが悲鳴をあげた。

 しかしメルランスは、ふふん、と笑って、

「そりゃもちろん。けどね、ものごとには交換条件っていうのがあるの。ふもとの別荘地を今後一切襲わないこと。この条件を飲むなら今すぐに治癒魔法で治してあげる。そうでなきゃ……もうひと暴れしてね、キーシャ?」

 山賊たちがざわめいた。どうやらトラウマになっている様子だ。

 これは、山賊たちにとって決して分のいい条件ではない。

 しかし魔法が使えない彼らにとって、何か月もかけて傷を癒さなければならないこと、また強力な魔法でアジトを荒らされることを考えると、うなずかざるをえない。

 案の定、カシラらしき人物が前に出て言った。

「……わかった。ふもとの別荘地はもう襲わない。だから早く傷を治してくれ」

「約束だよ。破ったらまた同じ目に遭わせるからね」

「ひっ……! わかった、絶対に守る。だから……」

「オッケー、交渉成立。キーシャ、重傷者から見てやって。さすがのあんたも治癒魔法は外しようがないでしょ」

「わ、わかりました」

 緊張の面持ちで片腕が火傷でひどいことになっている男の元へ行くキーシャ。メルランスは額から血を流している男の方へと歩いて行った。

 何もできない南野がしばらく見ている間に、山賊たちの傷はすべて癒えたようだった。キーシャも治癒魔法はマトモに使えるのか、今のところ問題はなさそうだ。

「これでよし。くれぐれも約束は守ってよね?」

「わかってらぁ。もう二度とこんな目はごめんだ……」

 つぶやく山賊の頭の顔には哀愁じみたものが浮かんでいた。

「よっし! 任務完了! 山賊どもが奪った財宝があればそれもいただこうと思ったけど、丸焦げだしね」

「それってカツアゲ……」

 言いかけた南野の言葉を遮るように、メルランスが、うーん、と伸びをする。

「もう明け方だし、早速屋敷の主人のところへ行こっか!」

「……そうしましょう」

 南野がうなずくと、一行はいまだに震え上がる山賊たちを置いて、ふもとへの道をたどるのだった。 

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  • 南野コレ式!~蒐集狂の無能営業、レアアイテムコンプするまで元の世界に帰れま100~   №07・嘆きのミセリコルデ・4

     話を変えよう。南野はふと思いついたことを口にしてみた。「そういえば、キーシャさんは魔法学を勉強してるんですよね?」「はい、教会学校で魔法について学んでいます」「じゃあ、俺にも魔法、教えてくれませんか?」 少しでも魔法が使えれば足手まといを脱却できるとの考えだった。果たして異世界人の自分に魔法が使えるのかどうかはわからないが、ダメ元だ。 キーシャは難しそうにうなると、「そうですね……魔法を使うには、まずは適性が必要になるんです。からだじゅうの魔力を形にするちからですね。信仰心はあんまり関係ないですけど、教会で加護を受けなければいけません。あとは精神修養に、魔力を具現化する構成力の訓練です。これは一週間でできるひともいれば数年かかるひともいます。だから、今すぐに使うことはできません」「そうですか……」 考えが甘かったらしい。一朝一夕で魔法が使えるなんて虫のいい話はないのだ。魔法を使うにも努力や修練は必要らしい。 少し落ち込んだ様子の南野をフォローするように、キーシャが付け加える。「あっ、でも! もしかしたら異世界のひとにしかない特別なちからとかあるのかも!」 慰めるようにかけられた言葉には、ひとつ思い当たることがあった。 『サバラの泉』で感じた、アイテムのちからを最大限以上に引き出すちから。 あれが勘違いでなければ、自分にだってできることはあるのかもしれない。 しかしあくまでも勘違いの可能性が高いので、キーシャには黙っておいた。 そのあとふたりはなんてことない世間話などをしながら休み、メルランスを待った。 彼女が帰ってきたのは日が沈んでからだった。帰ってくるなり水を飲みながら、分析の報告をする。つくづくタフな女の子だ。「あの主人が言った通りの戦力っぽいね。くっさそうな野郎どもが30人くらい。みんな武装してるけど、魔力の気配はない。この辺の地形なら奇襲は簡単だよ。あの掘立小屋もボロ屋だし、山賊どもが寝静まって、見張りのやつが数人出てきたらそっから片付けよう」 疲れを感じさせない調子でてきぱきと言うメルランスに、休んでいたふたりはうなずき返した。 それから携帯食で夕食を済ませ、言葉少なに体力を温存していると、やがて夜がやってきた。三日月が昇り、辺りは暗闇のしじまに沈む。「……出てきた」 掘立小屋から出てきて焚火を起こし、酒を飲み

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