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第4話

Penulis: 小川
「隼人には関係ない」

澪はキャリーケースを引き戻そうとした。けれど、びくともしない。

隼人はキャリーケースを押さえたまま、澪の目をまっすぐ見つめた。「昨夜のことは……俺が悪かった」

一瞬だけ言葉を切ってから、続ける。

「でも、お前だって瑠奈を殴っただろ。だから、これでおあいこってことにしないか?」

――ああ、やっぱり、まだ覚えていたのか。

隼人は昔から身内には甘い。恋人である瑠奈が殴られたのを、何もなかったことにするはずがないと思っていた。

あの山で自分を置き去りにしたのも、最初から報復のつもりだったのだろう。

澪は自嘲するように口元を歪めた。

「おあいこになったなら、私の荷物を放して」

澪は冷たく言った。

「もう、隼人と瑠奈のことには関わりたくない。今日の食事会に、私が行く理由もない」

隼人はわずかに目を見開いた。

澪とは、物心ついた頃からの付き合いだった。

加賀家の食事会に、澪が顔を出さなかったことは一度もない。

そもそも今日、隼人が澪を誘いに来たのも、昨夜のことを許してもらうためだった。

澪を山に置き去りにしたのは、さすがにやりすぎた。

そう思った隼人は、昨夜、瑠奈を家まで送り届けたあと、菅野家の前で一晩中、澪が出てくるのを待っていた。

「……瑠奈は孤児だろ」隼人は何かを思いついたように、すぐに言った。「いきなり家に連れて行ったら、親父たちがどう思うか分からない。瑠奈を紹介するのは、また別の機会にする。だから今日の食事会は、今までどおり俺とお前で行こう」

「だから、行かないって――」

澪が言い終える前に、隼人は彼女のキャリーケースを庭の中へ押し戻し、彼女の手を取った。

澪の言葉を聞く気もないまま、隼人は彼女の手を引いて車へ向かった。

……

加賀家の食事会でも、隼人の母・加賀裕子(かが ゆうこ)は相変わらず澪を気に入らない様子だった。

「澪さん。今のあなたでは、もう隼人とは釣り合わないの。それでも隼人があなたと一緒にいたいって言うから、私たちが許しただけよ。それにしても……5年も一緒にいたのに、どうして子供の一人もできないのかしら」

澪は口元に薄い笑みを浮かべた。

――できるはずがない。隼人は毎回、きちんと避妊していた。

唯一の例外は、瑠奈が同窓会に出席すると知ったあの夜だけだった。その晩の隼人は避妊する余裕もなく、まるで自制が利かなくなったように澪を何度も抱いた。

そこまで考えると、澪の顔から、すっと血の気が引いた。あの夜、自分は避妊薬を飲んでいなかった。

震える手が、無意識に下腹部へ触れる。

――もし、妊娠していたら?

その可能性を考えた途端、最悪の事態ばかりが頭をよぎった。

澪の顔色が急に悪くなったのを見て、隼人は母親の言葉に傷ついたのだと思ったのだろう。何も言わずに彼女の前へ温かいスープを置くと、裕子を見た。

「母さん、澪を責めないでくれ。子どもを作らないって決めたのは、俺だ」

「何ですって?」裕子が目を見開いた。

その隣では、隼人の父・慎一郎(しんいちろう)まで眉をひそめている。「何を馬鹿なことを言ってる!」

鋭い視線が、隼人へ向けられた。「もう30歳だろう。子どもを持つことも真剣に考えないと」

隼人が反論しようとしたときだった。

玄関のほうから、急に騒がしい声が聞こえてきた。

何事かと一同が視線を向ける。

すると――

瑠奈が姿を現した。

澪と隼人が並んで座っている姿を目にした瞬間、瑠奈の瞳がみるみるうちに潤んでいく。

「隼人……私と結婚するって言ったのに、どうして澪を連れて家族の食事会に出てるの……?」

瑠奈の言葉に、裕子と慎一郎は一瞬、何を言われたのか理解できなかったようだった。そして、彼らの表情がみるみる険しくなる。

「隼人!」慎一郎が、テーブルを強く叩いた。「愛人を連れて帰るなんて、何を考えているんだ!」

そして、今度は瑠奈の後ろにいた執事へ鋭い視線を向けた。「それからお前も!得体の知れない人間を勝手に屋敷に入れるな!」

「申し訳ございません」執事は困惑した様子で答えた。「警備の者には止めるよう指示しました。しかし、この方が加賀家の家宝であるエメラルドのブレスレットをお持ちで……どうしても坊ちゃんにお目通りしたいと」

その言葉を聞くと、瑠奈は待っていたかのように手首を持ち上げた。

白い手首に光っていたのは――間違いなく、加賀家に代々伝わるエメラルドのブレスレットだった。

「……っ!」

裕子が胸元を押さえ、小さく息をのむ。

そして、信じられないものを見るように隼人を振り返った。

「隼人……5年前、私からあのブレスレットを譲ってほしいと言ったのは……澪さんに渡すためじゃなかったの?」

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