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1.正直すぎる嘘つき④

Author: 鷹槻れん
last update Huling Na-update: 2025-10-28 02:53:24

「結婚なさっている緒川さんには、とてもじゃないけど手に負えませんよね?」

言って、抱きしめられたままの身体をそっと引き剥がしたら、

「なんだ、そんなこと」

ってクスリと笑われて。

「むしろ俺、そういうのが好きなんだけど、関係が関係だしセーブしなきゃって思ってたんだ。そんなこと言ってたら俺、〝菜乃香なのか〟のこと、ホントにがんじがらめにしちゃうけど、いいの?」

いきなり呼び名を〝戸倉とくらさん〟から〝菜乃香なのか〟に変えてきたのはきっとわざとですよね?

私が本気の恋をしたらすぐに手を引くと言ったのと同じ口で、そんなことを聞いてくるなんて。

あなたの本心は、一体どこですか?

***

前回までは日中に街へ出て買い物をしたり、動物園に2人で行ったり、あてもなくドライブをしてみたり。

まるで学生同士のデートみたいなお出かけだったのが、4度目のデートに当たる今日は、初めて夕方に待ち合わせをしてディナーを一緒に、ということになって。

日没後に待ち合わせというだけで、何だか一気に大人な雰囲気になった気がして、正直戸惑ってしまった。

私たちの関係はなんだろう?

お付き合い……している、って言えるの?

行ったことのないようなコース料理の振る舞われるイタリアンレストランには、グランドピアノの生演奏が流れていた。

その雰囲気に飲まれたみたいに、私はフラフラになるまでお酒を飲んでしまった。

私の横、緒川おがわさんは落ち着いた様子で食事とともに白ワインをゆっくりとたしなんでいらして。

その横顔に大人の余裕を感じながら、私は甘めのスパークリングワインをいそいそと口に運ぶ。

緒川さんは年齢――私の15歳上の38歳――より遥かに若く見える。

少しふわりとした印象の髪の毛は、天然パーマらしい。

白いもののほぼないツーブロックのその髪の毛は、いつも綺麗に手入れがされていて寝癖がついているところなんて見たことがない。

それすら大人の余裕に感じられて、何もかもに余裕のない私にはうらやましくさえ思えて。

私、今日は肩よりほんの少し長めのゆるふわウェーブの髪の毛を、ハーフアップの要領で両サイドからゆるりと編み込んで、真ん中で合流させてバレッタ留めにしていた。

けれどそれにしたって、実は寝癖を誤魔化すために他ならないの。

跳ねたりしていなかったら、綺麗にブローしてどこも結んだりしないでこの場に臨んはずだ。

4回も2人きりで出かけていると言うのに、私はまだ彼と何を話したらいいのかよく分からない。

会話をしていても、彼の言葉はいつも私が思うよりワンテンポ遅れて返ってくるから余計に話しづらい。

質問したのに答えてもらえない気持ちになって、どうしよう? 聞こえなかった?って思い始めた頃にポツリと返事がある感じ。

そのテンポのズレが何だか落ち着かなくて……一緒にいても、いつもソワソワと居心地が悪かった。

それは今日も一緒で――。

何となく、その間が怖くて私からは言葉を発せられないでいる。

***

菜乃香なのか、もしかして……俺といるの、まだ緊張する?」

テーブルにのせたまま所在なくモジモジさせていた私の手を、さり気なく握ってくる緒川おがわさんに、私は小さくうなずいた。

緒川さんって、言葉は少ないし、返事は基本ものすごい熟考型のくせに、行動だけはいつも迷いがなくて素早い。

握られた手から緒川さんの温かな熱が伝わってきて、心臓がバクバク跳ねる。

正直そんなに好みの顔ではない彼なのに、何故か一緒にいる時間が長くなればなるほど、少しずつ異性として意識してしまう割合が高くなっている。

ダメだって思うのに、ズルズルと彼に引き摺られているうちに求められると答えたくなる私の悪い虫が徐々に頭角を現してきて。

ずるい男だと分かっているくせに、少しずつでも仲良くなりたいって思うようになってきてしまっている。

でも、その糸口がつかめなくて凄くもどかしい。

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