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1.正直すぎる嘘つき③

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-10-27 03:43:31

自分でもこんなことじゃよくないと思う。

でも直せないの。

そうして情にほだされやすい私は、強く求められて付き合ったはずの相手に、いつの間にか切なくなるくらいのめり込んでしまう。

愛情を注がれたら、その人の良いところばかりを探して、欠点を見られなくなる。

嫌なところに気付いても、見なかったことにして目を逸らしてしまう。

そう、きっと今回も――。

嬉しそうに「ありがとう」って笑う緒川さんに抱きしめられながら、そんな予感がした。

***

緒川おがわさんの38歳の誕生日に告白をされて、何だかよく分からないままに流されるように重ねてしまったデートも、今回で4度目。

1回だけなら気の迷いだと言えたと思う。

でも、2回、3回と続けてしまったら、それはもう立派に自分の意志、だよね。

あの日。

緒川さんは私に、彼の彼女になることをダメじゃないと言わせた後で、「――ただ、俺には妻と子供がいるんだ。妻に対して恋愛感情はないけれど家族としての情はある。それを分かって欲しいんだ」と言った。

私にはその詭弁にも聞こえる言葉の意味がサッパリ分からなくて。

「あ、あの……それはどう言う……?」

混乱する頭で何とかそう問いかけたら、「戸倉とくらさんと結婚することは出来ないって意味だよ」って悲しそうな顔をするの。

それは私に愛人になれ、と言っているってことなんでしょうか?

23歳で世間知らずの私にも、さすがに妻子ある男性との色恋は御法度ごはっとだと言うことは分かる。

「そ、れなら私――」

今の話はなかったことにして欲しい。

そう言いたかったのに。

「俺からのキスを受け入れた時点でもう後戻りは出来ないと思わない? それに……家族にはなれない代わりに、俺は戸倉とくらさんに恋人としての愛情は惜しみなく注ぐつもりだから」

そう畳みかけられて、今更御破産ごはさんには出来ないのだと示唆しさされてしまう。

ズルイ、って思った。

引き返すことも、未来を夢見ることも叶わないのだと宣言された恋に、何の意味があるのだろう?

「戸倉さんはまだ若い。キミが本気の恋をするって決めたら、その時は潔く身を引くから。――だからそれまでの間、キミの時間を俺にくれないか?」

緒川さんとお付き合いしていることが前提なのに、別の相手と巡り会うことを想定するなんて。それって……結婚相手を得るためならば、浮気も自由にしていいよ、ということですよね?

普通なら嫉妬をしてくれるであろう、他の男性をにおわせるシチュエーションも、「俺には怒る資格はないからね」って線引きされた、そんな恋。

私は人一倍結婚願望が強い。

そんな私にこんな提案あんまりだよ。

そう思って泣きそうな私の心も知らぬげに、「一緒にいる間は絶対に寂しい思いはさせないから」と緒川おがわさんが宣言する。

「私、彼氏には毎日……。それこそ四六時中何かあるたびに電話しちゃうような面倒くさい女なんです」

家にいらっしゃる時、電話してもちゃんと応じてくださるのですか?

おはよう。

行ってくるね。

今何してるの?

帰ったよ。

おやすみ。

そんな他愛たわいのないやりとりを、日々重ねられる相手じゃないと私は無理です。

恋人が出来ると、途端相手に対する依存度が高くなる私は、相手からの束縛をすごく好む。

付き合っている人には朝から晩まで私のことを縛っていて欲しい。

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