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第十話

Auteur: 麻木香豆
last update Date de publication: 2025-11-05 08:14:29

 寧人の記憶は、まだ鮮やかに残っている。

 あの夜、寧人は一護に何度もキスをされた。互いの体温を確かめ合うように抱きしめ、名前を呼び合い、夢中で息を重ねた。

 触れられるたびに、胸の奥が熱くなり、自分の中に知らなかった感情が生まれていくのを感じた。

 風呂場でも、笑い合いながらお互いの髪や背中を流した。けれど――

 まだ童貞の寧人には、その先の一歩を踏み出す勇気がどうしても持てなかった。

 翌朝。

 カーテンの隙間から差し込む光が、シーツの上の一護を照らしていた。

「……おはよ、寧人」

「おはよう……」

 寝起きの声は掠れていて、どこか甘い。

 寝ぼけ眼の一護の表情に、寧人の心臓がどくんと跳ねた。

「シャワー、浴びてくるね」

 そう言って、軽く唇を寄せてくる。

 不意打ちのキスに、寧人は反射的に顔を赤らめた。

「ば、バカかっ……」

 しかしその言葉のあとに、自然とまた唇が重なった。

 昨夜よりもずっと穏やかで、やさしいキスだった。

 もう、抵抗する気はなかった。

「腹減ったな……」

「そうね。もうお昼の時間ですもの」

「……ん?」

 その言葉に寧人は反射的に時計を見た。

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