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last update 게시일: 2025-12-01 18:27:10

 小夜子は最後の結論部分をもう一度見直し、表紙の体裁を整えて保存ボタンを押した。

 パソコンの画面には、論文の題名と『白河麗華』の名前が表示されている。

「はい。たった今、完成しました」

「遅い! グズね」

 麗華は小夜子の椅子を蹴るようにして退かせると、画面を覗き込んだ。

 だが、彼女の目が追っているのは文章の中身ではない。文字数と、それっぽい体裁になっているかだけだ。

「ふーん。まあ、分量は十分ね。フランス語の引用も多めに入ってる?」

「はい。注釈もつけておきました」

「余計なことしないでよ。教授に突っ込まれたら面倒じゃない」

(そこまで読んでくれる教授なら、一発で代筆だと見抜くでしょうけど)

 小夜子は心の中で毒づくが、表情には出さない。無表情を貫くことは、この家で生き抜くための処世術だ。

 麗華はUSBメモリをパソコンから引き抜くと、それを大事そうにポケットに入れた。

「確認するまでもないわね。私が提出するんだから、最高評価で当たり前よ。もし『可』なんてついたら、あんたのせいだからね」

 論文の中身――高度な語学力と経済理論の結晶――には一切の興味を示さない。彼女にとって重要なのは、それが「自分の手柄」になるという事実だけだ。

「承知いたしました」

 小夜子が頭を下げると、麗華はふんと鼻を鳴らした。

「あーあ、ここに来ただけでお肌が乾燥しちゃった。汚らしい部屋。風邪うつさないでよ?」

 そう言い捨てて、麗華は踵(きびす)を返す。ドアがバタンと閉まり、再び静寂と冷気が部屋を支配した。

 嵐のような襲来が去って、小夜子は大きく息を吐いた。白い息が長く伸びて、消えていく。机の上には、飲みかけの白湯が入ったマグカップが残されている。凍ってさえいないものの、すっかり冷めきっていた。

 小夜子はそのカップを両手で包み込んだ。陶器の冷たさが、手のひらに沁みる。

(また、奪われた)

 睡眠時間を削り、知識を総動員して書いた論文。それは小夜子の名前ではなく、「白河麗華」の著作として世に出る。

 小夜子の努力も、才能も、すべては姉の飾り物に過ぎない。胸の奥から、黒い泥のような虚しさがこみ上げてくる。喉が詰まり、視界がにじみそうになった時――。

 ――お嬢様。奪われることを嘆いてはなりません。

 脳裏に、あの温かい声が蘇った。

 今は亡き白河家の老執事、藤堂だ。幼い小夜子に隠れて勉強を教えてくれた、唯一の理解者。博識で厳しくも優しい人だった。

 シワだらけの手で小夜子の頭を撫でながら、彼は言ったものだ。

 ――ドレスや宝石は、奪うことができます。家や土地も、奪われることがあるでしょう。ですが、頭の中にある知識と知性だけは、誰にも奪うことはできないのですから。

(そう……そうよね、藤堂さん)

 小夜子は冷たい白湯を一口飲み下した。食道を通って胃に落ちる液体の冷たさが、かえって意識を覚醒させる。

 麗華が持ち去ったのは、ただのデータだ。それを書くために得た知識、思考のプロセス、そして磨かれたフランス語のスキル。それらはすべて、小夜子の血肉となって残っている。

 誰にも奪えない、私だけの財産。いつかこの知識が、私をここではないどこかへ連れ出してくれるかもしれない。

「……さてと」

 小夜子は椅子から立ち上がった。感傷に浸っている時間は終わりだ。

 小夜子は家政婦として使われる身。朝は忙しい。

 次は、山のような洗濯物とアイロンがけが待っている。小夜子は自分の頬をパンと叩き、気合を入れた。

「さあ、労働の時間よ」

 凍える指先をぎゅっと握りしめ、小夜子は冷え切った部屋を後にした。

 仕事はまだまだ山積みだ。

 次の作業を片付けるために、小夜子は歩いていく。その場所とは――。

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    last update최신 업데이트 : 2026-03-27
  • 名家の恥と捨てられた娘は、契約結婚先で花開く   105

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    last update최신 업데이트 : 2026-03-26
  • 名家の恥と捨てられた娘は、契約結婚先で花開く   111

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    last update최신 업데이트 : 2026-03-26
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    last update최신 업데이트 : 2026-03-26
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