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last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-01 18:26:29

(埃をかぶったまま、蔵の奥で忘れ去られた日本人形。……今の私は、そんなところね)

 もしこの髪に椿油を塗り、きちんとメイクを施して、上質な服を身につけたなら。ガラスの中の娘は、誰もが息を飲むような美女へと変貌するかもしれない。

 けれどそんな予感を抱かせる素材の良さこそが、義姉や義母の癇に障るのだろう。

 彼女たちは小夜子が飾ることを許さず、また小夜子自身も、己を磨く気力などとうに奪われていた。小夜子は視線をガラスから外し、再び手元へ落とした。

(私が書いているのは「最高のおもてなし」について。さあ、最後まで書き上げなくては)

 凍えるような寒さは体だけでなく、心を蝕んでいく。けれど休んでいる時間はない。納期は今日の朝食の時間までだ。

 つまり、あと2時間もない。義姉の麗華(れいか)が起き出してくるまでに、この論文を完璧に仕上げなければならないのだ。

 小夜子は思考を加速させる。脳内のデータベースから、かつて老執事・藤堂(とうどう)に叩き込まれた知識を引き出して、文章を構築していく。

 この論文は、麗華の大学の卒業論文となる予定のものだ。本来なら麗華自身が書くべきものだが、彼女は「ネイルが傷つくから」という理由で、当然のように小夜子に丸投げした。

 麗華の大学生活は、小夜子に全てのレポートを丸投げすることで成立していた。友人に代返を頼み、リアルタイムの試験がある科目は可能な限り避けてしのいできたのだ。

 麗華自身に卒論を書き上げるだけの知識も技量もあるはずがない。

 しかしそのおかげで、小夜子は麗華が大学で学ぶはずだった知識と教養のほとんどを身に着けていた。

 小夜子の指が動いて、論文の最後の一行を書き上げた。エンターキーを叩いた瞬間、背後のドアが乱暴に開かれる。

「寒っ! 何よここ、冷蔵庫?」

 外の冷気とともに、甘ったるい香水の匂いが流れ込んでくる。

 小夜子は振り返らずに手を動かし続けた。本文は既に完成した。あとは奥付や表紙の体裁を整えるだけだ。

「おはようございます、お義姉(ねえ)様。冷蔵庫よりは少しマシですよ。昨夜の残りの白湯も凍っていませんから」

「減らず口を叩かないで。……で? できたの?」

 麗華がヒールの音を響かせて近づいてくる。最高級シルクのパジャマの上に、見るからに暖かそうなカシミヤのガウンを羽織っていた。

 手にはホットミルクが入ったマグカップを持っている。立ち上る湯気を見て、小夜子は思わず喉を動かしそうになった。あれを両手で持てば、さぞ温かいだろう。

 けれどそんな態度は少しも表に出さない。物欲しそうな目をすれば、馬鹿にされるのが分かりきっていたからだ。

 だから小夜子は心を殺した。いつもどおりに。

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