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第15話「消えた足音の余韻」

Author: ちばぢぃ
last update Petsa ng paglalathala: 2026-03-18 20:30:55

朝のホームルームが終わった直後、1年2組の教室に小さなざわめきが広がった。

シュウは窓際の席で、事件ノートを閉じようとした指を止めた。隣のタクミが、スマホの画面を睨んでいる。

タクミ「…おい、シュウ。これ見てみろ」

画面には、学校の非公式掲示板のスレッドが開かれていた。タイトルはシンプルで、ぞっとするほど直接的。

『新校舎3階、夜中に足音が聞こえるんだけど』

書き込みは昨夜の深夜から始まっていた。

1: 名無しさん 3日前 23:47

歩いてる音がする。ドスドスって。でも誰もいない。廊下の端から端まで、ずっと。

2: 名無しさん 3日前 23:51

俺も聞いた。3階の端の空き教室の前で止まって、また戻っていく。まるで誰かが巡回してるみたい

5: 名無しさん 今日 00:12

チャイム鳴った後、泣き声が混じってた。女の子の声。助けてって言ってる気がした

シュウの指が、画面をスクロールするたびに少しずつ冷たくなった。

タクミ「高槻は病院だろ。装置は壊したはずなのに……」

シュウは静かにスマホをタクミに返した。

シュウ「装置は壊した。でも、記憶の断片は消えていない。誰かが、それを拾い上げてるのかもしれない」

タクミの眉が寄った。

タクミ「誰かって……高槻の仲間か?」

シュウは窓の外を見た。校庭ではサッカー部の朝練が続いている。ケンタの背番号が、遠くでボールを追いかけているのが見えた。

シュウ「わからない。でも、足音が『巡回』してるという書き込みが気になる。まるで……管理人が、校舎を監視してるみたいだ」

放課後。二人は新校舎の3階へ向かった。夕陽がガラス壁を赤く染め、廊下に長い影を落としている。

空き教室の前で立ち止まった。ドアは半開き。鍵はかかっていない。

シュウはそっとドアを押し開けた。

中は埃っぽく、使われていない机が乱雑に並んでいる。黒板には、誰かがチョークで書いた文字が残っていた。

『ここを通るな』

文字の下に、小さな足跡のイラスト。子供の靴のサイズくらいの、赤いチョークで描かれたもの。

タクミが息を飲んだ。

タクミ「これ……最近描かれたな。チョークの粉、まだ落ちてねえ」

シュウは床に膝をつき、足跡の近くを指でなぞった。埃の中に、確かに小さな靴底の跡が残っている。だが、跡は教室の中央でぴたりと止まっていた。まるで、そこから消えたように。

シュウ「歩いてきた足跡が……ここで途切れてる」

タクミが周囲を見回した。

タクミ「窓は閉まってる。換気口も小さい。どうやって消えたんだ?」

シュウは立ち上がり、黒板の文字をじっと見た。

シュウ「消えたんじゃない。……『通らない』ように、足跡を残したんだ」

タクミ「意味わかんねえ」

シュウはポケットから事件ノートを取り出し、新しいページを開いた。

シュウ「これは、警告だ。『ここを通るな』って書いてある。でも、足跡はここで止まってる。つまり……この教室の先には、何かがある。入ってはいけない場所が」

二人は教室を出て、廊下の端を見た。突き当たりに、古い非常階段のドアがある。普段は使われていないはずのドア。

タクミがドアノブに手を伸ばした。

タクミ「開くか?」

シュウ「待て」

シュウはドアの隙間から、下を覗き込んだ。階段は暗く、埃が積もっている。だが、一段ごとに、かすかな足跡が続いていた。小さな靴底の跡。赤いチョークではなく、本物の埃に残った足跡。

シュウ「下に……降りてる」

タクミの喉が鳴った。

タクミ「地下?」

シュウは頷いた。

シュウ「旧軍施設の痕跡。父さんの手帳にあった、封鎖された通路……まだ、繋がってる可能性がある」

二人は顔を見合わせた。

タクミ「今、降りるか?」

シュウは少し考えて、首を振った。

シュウ「今日は帰る。準備が必要だ。懐中電灯、予備の電池、地図……そして、ケンタたちに」

タクミの目がわずかに見開かれた。

タクミ「ケンタたちに……? でも、みんな自分の生活に戻ったって」

シュウは静かに言った。

シュウ「だからこそ、伝える。『本当にヤバい』って。昨夜のリナみたいに、忘れていた記憶がまた動き出してる。俺たちだけで止められるかどうかわからない」

タクミは深く息を吐いた。

タクミ「わかった。……俺が連絡する。お前は手帳をもう一度読み直せ」

二人は階段を後にした。背後で、非常階段のドアが、ゆっくりと閉まる音がした。

カチリ、という小さな音。

だが、その音の後に、かすかな足音が続いた。

ドス……ドス……。

誰かが、階段を下りていく。

二人は振り返らなかった。

ただ、足を速めた。

夕陽が沈み、校舎全体が赤から紫へ変わっていく。

どこかで、泣き声が混じった足音が、静かに響き続けていた。

それは、まるで……待ちきれなくなった誰かの、足音だった。

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