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第12話

Author: わかば
「月森遥です」

遥は丁寧に自己紹介した。

その背後に立てられた画板に目をとめた桜井が、「画家さんですか?」と声をかけてくる。

「いえ、以前はジュエリーデザイナーでした。今は……趣味で描いているだけなんです」

画家と呼ばれたのは初めてだった。遥は慌てて手を振り、否定した。

桜井がさらに何か言おうとしたその時、遠くから足音が駆け寄ってきて、老婦人の叫ぶ声が響いた。

「大変だ、大変だ!菜々子ちゃんのおばあさんが、車にはねられたんだよ!」

衝撃に目を見合わせる遥と桜井。すぐに、これは菜々子には知らせない方がいいと、無言でうなずき合った。

「僕が様子を見てきます。遥さんは家で、菜々子を落ち着かせていてください」

桜井はそう言うなり、長い足で素早く歩き出し、玄関を飛び出していった。

遥は胸がざわつくのを抑えきれず、菜々子のそばに付き添いながら、日が暮れるまで桜井の帰りを待ち続けた。

ようやく戻ってきた桜井と目が合う。彼はほんの少し、首を横に振った。

その瞬間、遥の目に涙が滲んだ。

ここに来てからというもの、菜々子の祖母は遥にもよくしてくれていた。あの穏やかで優しい人が、ど
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