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last update Terakhir Diperbarui: 2025-09-01 17:10:40

 湖のほとりを沿うように、北へ向かって車は走っていく。ちょうど三、四十分ほど経ったころだろうか。風に乗って漂ってくるけものしゅうに、僕は気付いた。これは馬房ばぼうの独特な匂いだ。獣と、草と、土と、馬の糞の混ざった匂い。ふと見れば、湖のほとりには開けた草原と古い石垣が広がっていた。遠くに小さく、馬の姿がちらほら見える。

「さぁて、到着」

「ありがとうございます……」

 車はだだっ広い砂利じゃりの駐車場で停まった。

「すぐ事務所へ行こう。ついてきて」

 ライルさんはそう言うと、車のエンジンを切り、ドアをバタン、と閉めて、歩いていく。僕も慌てて車を降りた。周囲の景色を気にする余裕もなく、ライルさんの背中を追って、荷物を引きずりながら、彼の少し後ろを歩く。駐車場から砂利じゃり道を歩き、馬房ばぼうのすぐそばを通る。開いている窓のすき間から、ほんの一瞬、馬の背が見えて、胸が高鳴った。

 馬だ……。

「おーい、こっち! 早く」

「あっ、はい!」

 ライルさんに呼ばれ、返事をする。事務所はそのさらに先にあるようだった。ライルさんは小さな建物のドアを開けて、中へ入れ、と言うかのようにあごをしゃくっている。

 僕はおそるおそる、その扉の中へ足を踏み入れた。中にはふたつの黒い革のソファが向かい合って置かれ、その間には大きな木製のローテーブルが置かれている。大きな木の切り株を薄く切って、そのままテーブルに加工したような、しゃれたテーブルだ。

 その奥には小さなカウンターがあり、部屋の棚にはくらちゃく、それから数々の写真が飾られていた。写っているのは、美しい黒い馬と若い男性だ。どれもすっかり日に焼けてしまって色褪いろあせているが、その馬が美しいことは確かにわかる。写真立てには「名馬ゴールドティターニアとトーマス」と書かれていた。

「トーマス……」

 ぽつりと呟く。そうして、しばらく写真を見つめていると、不意にバタン! と音がした。直後、野太い声が耳に飛び込んでくる。

「やあやあ! ようこそ、ウィンダミアへ!」

「あ……っ」

「君がオリバーくんだね。よく来てくれた!」

 カウンターの奥からやってきたのは、鼻の下にちんまりしたひげを蓄えた、ふくよかな男性だった。チェックのシャツに土汚れのついたジーンズを穿き、足下は長靴で、それもまたずいぶんと土汚れがついている。彼は僕の手を取って、両手でぎゅっと握った。

「あ、あの――」

「私はトーマス・ウィリアムズ。このクラブのオーナーだよ」

「ウィリアムズさん……! あの、このたびは本当にありがとうございました。祖父がくれぐれもよろしくと――」

「あぁ、もう、そういうかたっ苦しいあいさつはなしなし!」

 僕の言葉をさえぎり、トーマスさんはかぶりを振った。話すたびに鼻の下のひげが、ひょこひょこと動くのが実にチャーミングだった。

「それからね、私のことはトーマス、でいいから」

「はい、トーマスさん……」

「ようし。それじゃ、遠路はるばるやって来て早々悪いんだが、すぐ仕事に取り掛かってもらおうか。うちは猫の手を借りても足りないくらい忙しいんだよ。おい、ライル!」

「……ここにいますよ」

 ライルさんは壁に寄り掛かり、腕を組みながら、あきれたような目でトーマスさんを見て言った。トーマスさんは、大きな体をくるりと返し、腕時計に目を落とす。

「あぁ、そこにいたか。まず、オリバーを宿舎に案内してやってくれ。部屋は二〇二号室だ」

「はい」

 ライルさんが返事をすると、トーマスさんはズボンのポケットを探り、鍵を投げた。それをライルさんはうまくキャッチする。ごく慣れたやり取りのようだ。

「それが終わったら、すぐに着替えて馬房ばぼうだ。さっきワイリーとフィリップが帰ってきたところだから、あいつらに昼メシをやってくれ。もうすっかり腹ペコらしい。まったく、行きはそこら辺の草を食ってばかりいるくせに、帰りはすたこら帰ってくるんだから。やんなっちゃうよ」

「はい。……あれは、どうしました?」

「あれ?」

「スノーケルピーです」

「あぁ……、あいつはだめだ。あんなのを新人に任せたら殺されちまうよ。ライル、当分はお前さんとオークリーで分担して世話してくれ」

「はい」

 そう言うと、トーマスさんは「それじゃ」と言い残し、カウンター奥の扉の向こうへ消えていった。まるで嵐が過ぎ去ったあとのように静かになった部屋の中で、僕は呆気あっけに取られ、扉の向こうを見つめる。それから、ふと思い出して、棚に飾られた写真に目をやった。そこに映っている若い男性、トーマスというのは、おそらく彼だ。それを肯定こうていするように、ライルが言う。

「同一人物だよ。昔はせてたんだってさ」

「へえ……」

せわしないけど、あの人はいつもあんな感じなんだ」

「そうなんですか……」

「行こう。宿舎に案内するよ」

 ライルさんはそう言って、再びあごをしゃくり、部屋を出るように僕をうながした。

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  • 君と風のリズム   4-2

    「僕にはお金はありません……。でも、スノーケルピーが言うんです……。僕のことだけは、その――怖くないって……」「へえ?」「それに、彼はリーさんに脅されていたとも言ってました。言うことを聞いたら、迎えに来てやるけど、そうでなけりゃ、肉に……するって……」「おいおい、嘘だろ……」「本当なんです……! だからスノーケルピーは暴れるんです。彼は、リーさんのところに戻るのも、肉にされるのもどっちも嫌で、でも、どうしたらいいのかきっとわからなくて……、きっと怖くて……」「参ったな、こりゃ……」 ライルさんは髪を掻き上げて、呆れかえったように僕を見つめた。まだ新米厩務員の僕が、暴れ馬と名高いスノーケルピーの担当を申し出て、しかもスノーケルピーの声を聞いたなんて言い出したのだから無理もない。ただし、どうやらスノーケルピー、つまりハーヴィーの馬主、デクスター・リー氏が、良質ではなかったということだけは、彼も知っているようだった。「実をいうと、リーさんのところにいた馬は、みんな性格が荒れるって噂があるんだ。これまで彼は、スノーケルピーのほかにも何頭か馬を持っていたらしいけど、みんな折り合いがついていない。それなのに、思うように動かない馬をすぐどこかへ売り飛ばしちゃあ、また買うんだってさ」「そうなんですか……。それでその――売り飛ばされた馬たちはどこへ行ったんです?」「さあ……、そこまでは……。知り合いに安く売ったって話もあるみたいだけど……。まさかな……」 ごくり――と僕は唾を飲み込む。もしかしたら、食用に売られて、食べられてしまったのかもしれない。もちろん馬を食べる文化は、世界的に見てもいくつも存在する。食文化である以上は仕方がないことだ。だが、イギリスでは皆無。羊や鶏を食べても、犬や馬は絶対に食べない。この国で彼らを食すということは、友達を食べることと変わらないのだ。「どれも聞いた話ばかりだから、オレは信ぴょう性はないと思っていたし、なにより彼は金持ちだからね。妬みやっかみで悪い噂を流されがちなんじゃないかと思ってたんだけど……やっぱり、本当なのかな……」「僕も、この目で真実を見たわけじゃありません。でも、スノーケルピーがどんなに暴れ馬でも、嘘を吐くような子じゃないと思うんです」

  • 君と風のリズム   4 従順な暴れ馬

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  • 君と風のリズム   3-7

     ライルさんでも――いや、むしろその方がいい。僕が担当になるよりも、現在スノーケルピーを担当しているのはライルさんやオークリーさんなわけで、ベテランである彼らに任せる方がずっと手っ取り早いのだ。 ライルさんやオークリーさんの方が、馬については詳しいし、経験もある。なにより僕には自信がなかった。まだろくに乗馬経験もなく、世話をするのがやっと。調教なんて夢のまた夢。それなのに、その役目を担うとすれば、僕はできるだけ早く、乗馬や調教の技術を学ばなければならない。その上で、ハーヴィーの秘密を守り抜き、彼をうまくこのウィンダミア乗馬クラブに留めておける技量や強さが絶対に必要になるのだ。それは思いだけ強くても、ついてはこない。きっとそんな重い役目も、ライルさんならすぐに、難なくできてしまうだろう。けれど、ハーヴィーは引かなかった。「でも、本当のぼくを知ってるのはオリバー、君だけだ。それに、ぼくは君が好きなんだよ。覚えてる? 初めて出会ったとき、君は優しくぼくに笑いかけてくれた」「うん……」「今まで君みたいな人はいなかったんだ。みんな、ぼくを暴れ馬だとか、悪魔だって言って……鞭を打つ。ぼくは怖くて堪らなくて、人間をどんどん嫌いになった。でも、君は――……君だけは、ぼくに優しくしてくれるって言ってくれた。大丈夫だよって、そう言ってくれたんだ」「そりゃ、まぁ、そうだけど……」「なによりも、ぼくは君ともっと一緒にいたい。こうしてさわったり、一緒におしゃべりをしたい。この世界にひとりぼっちでも、君と一緒ならいいって、初めてそう思えたんだよ。オリバーはぼくが嫌い?」「まさか。好きだよ……」 訊ねられて、すぐにかぶりを振る。僕だって、ハーヴィーが好きだ。スノーケルピーとして出会ったころはもちろんだが、彼が妖精だという真実を知った今は、もっと好きだと思えた。もっとハーヴィーと仲良くなって、彼を深く知りたい。僕は目を閉じて、想像した。 いつか彼の背に乗って、ひとつになって、草原を駆け抜けることができたら。デクスター・リー氏の手から、彼を救えたら――。しかし、そう思えば思うほど、不安もまた消えなかった。もし、ハーヴィーの担当になってもうまくいかなかったら。自分の力不足のせいで、未熟さのせいで、ハーヴィーを助けられずに、彼を失った

  • 君と風のリズム   3-6

    「そんな……」 絶句した。リーさんはこの乗馬クラブにハーヴィーを預け、更生を待っている。それ自体に不思議はない。馬を預ける馬主としては、自然なことだろう。 普通、馬を調教するのは、まず人間のためでもあるが、人の暮らしの中で、使役させられるという役割を持つ馬のためでもある。馬は人間がくれるイエス、ノーといった指示や、その約束ごとを理解しようとする生き物であり、意思の疎通を量ろうとするからだ。彼らとその約束ごとを決め、教え、確認し合う。それが調教なのである。 つまり、馬と心を通わせるため、互いのバランスを取るために、調教はある。しかし、ハーヴィーの話を聞く限りでは、リーさんには馬を思いやる気持ちは微塵にもなさそうだった。更生する見込みがないとすれば、飼っているだけでは穀潰しも同然。食用にでもしてどこかへ売り飛ばす。本当にそう考えているなら、彼はあくまでも馬を――いや、スノーケルピーを、そこらで拾った『物』や『道具』としか考えていないのだろう。「でもさ、だったらなおさら、ライルさんたちの言うことを聞かなきゃ。君は肉にされちゃうじゃないか。ライルさんやオークリーさんは優しいだろ?」 肉にされてしまうなら、悪質な馬主であっても生きのびられる方がずっといい。少なくともこの乗馬クラブにいれば、意地悪をされるということはないわけだから、絶対に言うことを聞いた方がいい。僕は疑いなくそう思ったが、ハーヴィーはやはり、かぶりを振った。「あの人たちのことは嫌いじゃないよ。でも、言うことを聞いても聞かなくても、ぼくは妖精の世界に帰ることもできずに、どの道、あの意地悪なおじさんのところへ戻らなくちゃいけないんだ。なにをしたって、地獄行きさ……」「ハーヴィー……」 あぁ、と僕はため息を吐く。ハーヴィーは途方に暮れ、絶望の中でどうしたらいいのかわからずに、暴れるしかなくなっているのだ。リーさんは、ハーヴィーを更生させたくて、この乗馬クラブに預けているが、彼を手放したわけではない。たぶん、そういう気もないだろう。 ハーヴィーが更生したと聞けば、きっと喜んで乗りにやって来て、いずれは連れて帰りたがるはずだ。そうすれば、ハーヴィーは再び彼の管理下に置かれ、苦しい生活を強いられる。ここで大人しくしていても、暴

  • 君と風のリズム   3-5

     悲しそうにハーヴィーはため息を吐き、自分の手の平をじっと見つめている。彼の様子には僕も胸を痛めたが、かといって、なんの力にもなれない。それでもどうにか元気になってほしくて、僕はハーヴィーに訊ねた。「どんな場所なの? その――妖精の国って……」 すると、ハーヴィーはキラキラと瞳を輝かせ、笑みを見せた。「とても綺麗な場所だよ。ハーブとお花がいっぱいで、そこら中でいい匂いがしていて、太陽はいつもキラキラしてる。お城じゃ音楽が鳴ってさ、毎日パーティーが開かれるんだ」「毎日?」「そう。妖精たちはみんなお茶会が大好きだからね。父さんはいつもお客さんをお城に呼んじゃあ、パーティーを開いていたよ」「へえ……。君のお父さん、お城に住んでるの……?」「うん、そうだよ」「すごいね。王様みたいだ」「みたい、じゃなくて、ぼくの父さんは王様だよ。ケルピーの王様」「ケルピーの……。それじゃあ、君はつまり……王子様ってこと?」「もちろん」 僕は隣に座るハーヴィーをじっと見つめ、眉を上げる。目の前に妖精の王子様がいるなんて信じられないが、これが夢でなければ認めるしかない。 尖った耳介も、尻の辺りから生えたふさふさしたしっぽも、奇妙な身なりも、左右で色の違う、まるで宝石のような瞳も、すべて彼が妖精だと裏づけるための証拠だと、思わざるを得ない。そしてなによりも、妖精の王子にふさわしいだけの美しさを、彼は持っていた。「じゃあ、君のお父さんも魔法を使えるの?」「うん。父さんは妖精界でも、五本の指に入るくらい、特に強い魔力を持っているんだよ」「だったら、助けを呼んでみたら――」「それは、無理だと思う……」 魔法なんてこれまで信じたこともなければ、どんなものなのかも想像できない。それでも、妖精界で一番強い魔力を持っているのなら、ハーヴィーを迎えに来ることなど、たやすいのではないか――と、僕は当然のごとく考えた。だが、ハーヴィーは力なく項垂れて、かぶりを振っている。「さすがに扉が開かないんじゃ、どうしようもないんだ……」「そっか……」「少し前まではこうじゃなかったのに。いつの間にかこの世界は孤立してしまったんだ。この世界に住む人間はみんな、物質的なものに支配されてさ、誰もがそれ以外を信じようとしない。動物たちや木や水や、風の声を

  • 君と風のリズム   3-4

    「いったた……。オリバー、どう? わかってくれた?」 青年はなおも僕に近づき、じっと見つめて訊ねる。僕は、はあ、はあ、と息を切らしながら、目の前に立つ青年を上から下まで確認する。そして、訊き返した。「スノーケルピー……? まさか……君なの?」「うん……!」 青年は返事をして笑みを浮かべると、僕の手を取った。それからあっという間に抱き寄せたのだ。僕は驚いて声も出ない。これがどういうことなのか、現実なのか、夢でも見ているのか、その判別すらもつかなかった。スノーケルピーは葦毛のサラブレッド――だったはずなのに、今、ここにいるのはおかしな青年だ。見たこともない不思議な容姿の、裸足の青年。しかし――。「あぁ、オリバー……。やっと君に触れたよ……!」 僕は思い出していた。彼の声は、いつか聞いたあの声と同じ。スノーケルピーと目が合った瞬間に僕の名前を呼んだ、あの声と全く同じだったのである。 ひとまず、僕は不思議な青年を連れて馬房を出て、自分の部屋へ戻った。大きい音を立てないように、そうっと宿舎の階段を上がり、暗い廊下で彼が転ばないように、しっかり手を握る。そうして部屋に戻り、彼を椅子に座らせてから、ベッドに腰掛ける。ところが、青年はなにを思ったのか、僕の隣に移動して、ぴったりと寄り添ってきた。 ん……? もしかしたら、彼はベッドに座りたいのかもしれない。僕は無言で腰を上げ、椅子に座り直す。だが、青年はとても悲しそうな顔をして、立ち上がった。「オリバー、隣にいて……」「隣?」「うん……」 青年は頷き、自分のすぐ隣を手の平でさすっている。まるで子どものようにねだるその仕草に、呆れて眉を上げるが、この青年が本当にスノーケルピーだとすれば、それも不思議と納得してしまって、僕は仕方なくベッドの上――青年の隣に座り直した。僕が座ると、彼は目をキラキラさせて、たちまち嬉しそうな表情を見せる。「それで、ええっと――……。君は……」「ハーヴィー」「ハーヴィー?」「うん、そう。それが、ぼくの本当の名前」 どうやら、彼を呼ぶときは、ハーヴィーという名が正しいようだ。僕はひとまず頷く。「ハーヴィー。君は、本当にあの、スノーケルピーなの?」「うん」「でも、スノーケルピーは馬だよ? 君は見たと

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