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あのキスの行方 04

مؤلف: 市瀬雪
last update تاريخ النشر: 2025-09-04 06:00:32

「…………」

 やばい。

 その熱が飛び火したみたいに、俺まで顔が火照ほてってくる。

 ……おかしいな。

 俺の好みってこんな感じだったか?

 確かに俺は河原のことが気になっていて、多分これはもうなかったことにはできないところまで来ている。

 だけど、面食いなのは元々としても、少なくとも河原みたいに、どちらかと言えば天然? なタイプを好きになったことは……今まで一度もなかったはずだ。

「――明日、俺は仕事だけど……」

 ややして河原は再び口を開く。前方を見据えたまま、ぽつりと呟くように。

 反して俺は視線を落とし、ただ静かにその先を待った。

 ……そうだな。

 明日は俺は休みだけど、河原は仕事だ。

「なんだけどさ。……今日、ちょっとだけ、飲みたいな……って、思って」

「飲み……? 今日?」

 不意に強く吹いた風に、長めの髪が煽られる。目の前をちらつく前髪を掻き上げながら、俺は思わず彼を見た。

「そう、あの、休みの前の日に……時々やってたみたいに……。……だめかな」

「あー……そりゃまぁ、俺はいいけど……」

「ほんと? じゃあ、酒は俺が出すよ」

「……わかった。いいよ」

 もしかしたら、断られると思っていたのだろうか。俺が承諾すると、彼は見るからにほっとした顔をして、「やった」と笑顔でこぼしていた。

 酒は河原が出す――ということは、要するに河原の部屋で一緒に飲もうということだ。

 とにかく早く慣れてもらえたらと、この三ヶ月の間に何度かそういう――主に俺の部屋でだったが――宅飲みの機会を作ったことがあった。

 俺と河原は、会社から借り受けている部屋が同じマンション内にあったし、教育係をしている間はシフトがまったく同じに作られていたため、予定が合わせやすかったということもある。

 そして実際やってみると、思いの外彼の方もそれを気に入ってくれたらしく……考えてみればその誘いを断られたことは一度もなかった。

 俺に思ったより早く慣れてくれたのも、それが功を奏したのかもしれない。互いの呼び方が変わったのも、その回数が嵩むにつれてのことだった。

 ……ちなみに、それをきっかけに新たに知ったことだが、河原はとにかく朝が弱かった。意外にも寝穢いぎたないというか、一度眠るとなかなか起きないタイプだったのだ。

 酒が入るとそれが更に酷くなると、自覚はちゃんとあるようだったけれど、そのまま朝まで飲んで寝潰れてしまった時なんか、それこそへっちゃらで夜まで一度も目覚めなかった。

 なので正直、そこが心配ではあった。

 そのせいで少々、歯切れの悪い返答になってしまったのだ。

 俺だって本当は二つ返事で誘いに乗りたかった。できることなら、もっと一緒に飲みたいし、何ならお疲れ会だのなんだのとこっちからも理由をつけて誘いたいと思っていた。

 けれども、そうして迎えた翌日のありさまを知っていれば、二の足を踏んでしまうのも仕方ないだろう。

「これから、休みっていつかぶるかわからないし……」

 のんびりと夜空を眺めながら、河原は静かに言った。

「だから、何となくこの期間の最後に、一緒に飲みたかったんだ。……暮科と」

 部屋の階層は違うものの、同じマンション、共に通勤が徒歩であることもあり、自然と帰りはいつも一緒だった。その道中、彼はよくこんなふうに幸せそうに星空を仰いでいた。

 ……そんな表情かお微笑わらうなよ。

 俺が何も言わない――正しくは言えない――でいると、彼はそれをどう取ったのか、少し慌てたふうに付け足してきた。

「あ、明日は、ちゃんと起きるからっ……」

 俺は一つ瞬き、それから小さく肩を揺らした。

 間もなく顔を背けてしまったのは、それ以上に表情が緩んでしまいそうだったから。

「……まぁ、それは最悪、起こしてやるけど……」

 俺は誤魔化すようにポケットに手を入れ、煙草の箱を取り出した。

 やっぱり断るべきだろうか。

 考えないでもなかったが、今更それもできそうにない。

「とりあえず、軽くな、今日は」

 河原のシフトは明日から基本遅番だ。始業時刻は15時。

 それで遅刻でもされたら、俺まで怒られかねねぇし。

「うん、それでもいい」

「それでもって……そうじゃなきゃ困るのはお前だろ」

 揶揄めかして言いながら、取り出した一本を口端に添える。――添えたものの、改めてここが往来だと気付くと、結局火を点けることもできず、そっと箱に戻すしかなかったんだけど。

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