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地味令嬢と蔑まれた私、実は天才魔導具師でした
地味令嬢と蔑まれた私、実は天才魔導具師でした
Auteur: 黒兎みかづき

1:裏切りの夜

last update Dernière mise à jour: 2025-06-01 15:22:07

 きらびやかなシャンデリアが煌めき、優雅な音楽が流れる王宮の夜会。色とりどりのドレスを纏った令嬢たちが、将来有望な貴公子たちと談笑に花を咲かせている。

 しかし、その華やかな輪から少し離れた壁際に、ひっそりと佇む一人の少女がいた。

 アリア・フォン・クライネルト侯爵令嬢。

 彼女は高位貴族の娘でありながら、派手さのない濃紺のドレスに身を包みんでいた。豊かな栗色の髪も控えめにまとめているだけで、まるで夜会の背景に溶け込んでいるかのよう。

 周囲の華やかな令嬢たちとは対照的に、彼女に声をかける者は誰もいない。向けられるのは好奇と嘲りを含んだ視線ばかり。

(また、陰口を叩かれているわね……地味だとか、侯爵家の出来損ないだとか)

 アリアは小さくため息をついた。そんな陰口にはもう慣れっこだった。彼女の趣味は令嬢らしい刺繍でもなく、詩作でもなく、ましてや流行のダンスでもない。

 古い書物を読み解き、屋敷の隅の物置同然の部屋で、がらくたにしか見えない金属片や歯車をいじくり回す「魔導具の研究と製作」。そんなものは淑女の嗜みではないと実の両親や兄弟からも疎まれて、社交界では奇異の目で見られていた。

 不意に会場の音楽が止み、ざわめきが静まった。中央に立つのはこの国の第一王子であり、アリアの婚約者であるエドワードだった。金色の髪を輝かせ、自信に満ちた笑みを浮かべた彼は、朗々と声を張り上げた。

「皆、静粛に! 本日は、我が人生における大きな決断を報告させてもらう!」

 視線が一斉にエドワード王子に集まる。アリアもまた、胸騒ぎを覚えながら彼を見つめた。エドワードはアリアを一瞥すると、挑戦的な笑みを浮かべ、隣に寄り添う愛らしい令嬢の肩を抱いた。清楚な白のドレスを纏い、勝ち誇ったような笑みを浮かべているのは男爵令嬢のメアリー・ド・ロシュフォールだった。

「俺は、アリア・フォン・クライネルトとの婚約を破棄し、新たに、ここにいるメアリー・フォン・ロシュフォール嬢を婚約者として迎えることを宣言する!」

 一瞬の静寂の後、会場は大きな驚きの声とそしてすぐにヒソヒソとした噂話に包まれる。エドワードはアリアに向き直り、冷酷な声で言い放った。

「アリア、君のような地味で取り柄のない女は、次期国王の妃にふさわしくない。俺の隣には、美しく聡明で、愛らしくも華やかなメアリー嬢こそが相応しい! 私は真実の愛を見つけたのだ!」

 メアリーはアリアを見下ろし、唇の端を歪めて嘲笑を浮かべた。周囲の貴族たちも同情するどころか、面白がるような、あるいは侮蔑するような視線をアリアに突き刺してくる。

(ああ、やっぱり……)

 アリアは込み上げてくる屈辱と悲しみを必死に押し殺し、ただ黙ってその言葉を受け止めた。抵抗する気力も意味もないことを知っていたからだ。彼女にとってこの婚約は政略的なものでしかなく、エドワード王子から愛情を注がれたことなど一度もなかったのだから。

 そう、政略だ。だからこの結婚は双方の家――王家と侯爵家――が深く関わっている。本来であれば王子といえど一人の決断でどうこうできるものではない。

 けれどアリアは知っていた。エドワード王子のわがままとも言える主張が通るであろうことを。

「……承知、いたしました。王子殿下のお幸せを、心よりお祈り申し上げます」

 かろうじてそれだけを絞り出す。深々と一礼すると、アリアは逃げるように夜会の会場を後にした。背後でエドワードとメアリーを祝福する声と、自分への嘲笑が聞こえてくるような気がした。

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  • 地味令嬢と蔑まれた私、実は天才魔導具師でした   16:故郷からの手紙

     その頃、アリアの故国アストレア王国はまさに阿鼻叫喚の地獄と化していた。「月の光」の恩恵に浴するヴァルハイトとは対照的に、アストレアでは飢えた民衆による暴動が王都の随所で頻発し、騎士団による鎮圧もままならない状態だった。商店は襲撃され、貴族の屋敷は焼き討ちに遭い、かつての華やかな王都の面影はどこにもなかった。 エドワード王子は連日のように続く凶報に、執務室で頭を抱えていた。彼の顔には憔悴の色が濃く、かつての傲慢な自信は見る影もない。(なぜだ! なぜこんなことに……俺が何か間違っていたというのか……?) 彼はヴァルハイトで「月の聖女」とまで呼ばれ、国を救うほどの活躍をしているアリアの噂を苦々しい思いで耳にしていた。自分が足蹴にし価値がないと断じた女が、今や隣国で英雄視されている。その事実は彼のプライドをズタズタにした。そして何よりも、自分が犯した取り返しのつかない過ちの大きさを突きつけてられていたのである。(もし……もしアリアが、今もこの国にいてくれたなら……いや、俺が彼女の才能を正しく評価し、支えていたなら、こんなことには……) 後悔の念が、黒い霧のように彼の心を蝕んでいく。 そんなエドワードの苛立ちをさらに増幅させるのが、婚約者であるメアリーの存在だった。国の危機的状況を全く理解せず、彼女は未だに自分の贅沢な生活を維持することしか頭になかった。「エドワード様、またそんな暗い顔をして。それより、わたくしの新しいドレスを見てくださる? 今度の夜会のために新調したのよ。ヴァルハイトの流行を取り入れてみたのだけれど……」「夜会だと!? この国が滅びかけているというのに、まだそんなことを考えているのか!」 ついにエドワードの怒りが爆発した。「お前のような愚かで自己中心的な女は、もはや俺の妃にはふさわしくない! 出ていけ! 二度と私の前に顔を見せるな!」 エドワードはメアリーを突き飛ばし、彼女の部屋から全ての贅沢品を運び

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