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last update Last Updated: 2025-12-06 21:52:15

「食べたよ」

 彼はテーブルに頬をつけたまま、虚ろな目で答えた。

「ロケ弁も、差し入れの高級スイーツも、全部口に入れた」

「じゃあ……」

「でも、喉を通らないんだ」

 彼は自分の喉元を、忌々しそうにさする。

「飲み込んでも、砂利か灰を食ってるみたいで。……吐き気がする。実際、吐いた」

 心因性の味覚障害。あるいは、拒食に近い状態なのだろうか。極度のストレスと孤独感が、彼の生存本能にブレーキをかけている?

 アイドルなんて、ストレスが多い仕事だろう。

 想像するだけで、胃のあたりがキリキリと痛んだ。

「……お前の作ったアレだけが、食べ物に見えるんだ」

 彼が上目遣いで私を見る。その瞳は、「助けてくれ」と訴えていた。

 私は今朝、残されていたメモを思い出した。「助かった」あれには確かにそう書かれていた。

 彼にとっては助けだったのだと、改めて実感する。

(責任重大すぎる……!)

 プレッシャーで押しつぶされそうだ。でも同時に、心の奥底でふつふつと湧き上がるものがある。

 それは料理好きとしてのプライドと、謎の母性だ。「私の料理が世界一」と言われているに等しいではないか。彼の舌を、胃袋を、私が救ってみせる。

 定食屋の娘の本領発揮だ。

「分かりました」

 私は腕まくりをするフリをして、気合を入れた。

「すぐ作ります。待っていてください」

 キッチンに立った。時刻は22時30分を回っている。こんな時間に、胃腸が弱った人間に何を食べさせるべきか。消化が良く、身体が芯から温まり、かつ「食べた」という満足感があるもの。

 冷蔵庫を開けて、中身を確認した。大根、人参、ごぼうのささがき(冷凍しておいたもの)、豚こま切れ肉。よし、決まりだ。

「豚汁にしよう」

 小鍋にごま油をひき、具材を炒める。ジュワッ、という小気味よい音

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