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第5話

Penulis: 列星安陳
その言葉に、会場全体がざわめいた。

「まさか......それは彼女が盗んだ成果だっていうのか?」

「そういえば前から不思議だった。

心理学の課程博士に、こんな複雑な装置が作れるのかって」

結衣は拳を固く握りしめ、爪が掌に食い込むのも構わず、必死に怒りを抑えた。

今は感情に呑まれている場合ではない。

冷静に言葉を整え、反論を準備する。

「澪さんの指摘には何の根拠もありません。

なので私が答える必要はありません」

マイクを握り、議論する専門家たちへ向き直った。

「夢装置は私ひとりのものではなく、チーム全体の成果です。

心理学を専門とする私のほかにも、多くの技術者が参加しています。

どうか私たちを信じてください」

「それに、開発の初期には夫である園田教授の助言も受けました。

彼なら必ず、皆さまの疑念を払拭してくれるはずです」

その瞬間、視線は一斉に清志へ注がれた。

結衣も息を詰めて、彼の言葉を待った。

――彼が口を開き、自分の正しさを証明してくれさえすれば。

業界における彼の影響力があれば、批判も和らぐはずだ。

「結衣は俺の妻だ」

清志は金縁の眼鏡を押し上げ、ゆっくりと口を開いた。

「だからこそ、彼女に肩入れすることはできないし、夢装置の研究について、俺たちは深く話し合ったことがない。

なので申し訳ないが、現時点で彼女を擁護することはできない」

「どういう意味だ、それは!」

「言外に盗作だと認めたも同然じゃないか!」

「夫婦なのに、突き放すなんて。

少しは体面を考えたらどうだ」

「そうか......だから園田教授は江口と距離を置いて、澪さんと一緒に入場してきたのか」

「寝食を共にした相手が盗作犯だなんて、さぞ失望しただろうな。

けど、澪さんが戻ってきたんだ。

まだやり直せる......」

会場のざわめきは雪崩のように押し寄せ、結衣の耳にはもう断片しか届かなかった。

視界が揺らぎ、足元が崩れそうになる。

――人生で最も大切な舞台で、夫が自ら嘘をつき、自分の五年の努力を踏みにじるなんて。

どうして?

彼女には理解できなかった。

たとえ愛がなくとも、二年間夫婦として過ごしてきたというのに......

耳鳴りが響く中、清志の低い声が落ちてきた。

「ただの歌手、だと?

結衣、俺は君のその尊大で、人を見下す態度が何より嫌いだ」

「彼女が私を不正を働いたと疑いをかけたのよ!

反論して当然でしょう!」

結衣は歯を食いしばり、清志の目を射抜くように見返した。

「澪は俺にとって妹同然だ。

彼女が軽く言ったことに、なぜそこまで目くじらを立てるんだ?」

彼はうんざりしたように手を振った。

「澪を敵に回した君が悪い。

今回は助けない。

それで身の振り方を学べ」

それ以上の言葉は、もう記憶に残っていない。

結衣は朦朧とした意識のまま会場を出て、街をさまよった。

帰ろうとしたとき、ふと気づいた。

――帰る場所など、もうないのだ。

清志と築いた家庭は、跡形もなく消えていた。

やがて、幼なじみの桐谷和也(きりたに かずや)が慌てて会場に駆けつけ、魂の半分を失った結衣を自宅へ連れ帰った。

「結衣、あんな男にこだわることない。

どうせもうすぐA国へ行くんだ......」

和也は生姜湯を差し出し、静かに慰めた。

その言葉で、結衣はようやく思い出した。

――ビザとパスポートはすでに自宅へ郵送されている。

結局、一度は帰らなければならないのだ。
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