FAZER LOGIN数日前、ジョンレが手術した傷口の消毒を受けに病院へ行き、帰ってきてから話してくれた。ユ先生がカルビチムを本当においしく召し上がって、とても丁寧にお礼を言ってくださったのだと。幸い、彼はすっかり回復したようだった。あのメッセージには、結局返事ができなかった。スヨンの屈託のない笑顔が浮かぶたびに、未来は必死に彼を避けていた。そうして一週間が過ぎた、ある朝のことだった。五月半ばの青い空とまぶしい日差しが世界中に降り注ぐ、ひときわ澄み渡った日だった。未来は軽いスポーツウェア姿で、携帯電話も家に置いたまま、良才川沿いをゆっくりと走っていた。水面に砕け散る陽光を浴びながら息を整えていたとき、遠くから誰かが歩いてくるのが見えた。最初は、ただの通行人だと思った。けれど距離が縮まるにつれ、まっすぐな歩き方と頼もしい肩のラインが、見覚えのあるものに変わっていった。ユ・ジンヒだった。二人とも足を止めることなく、互いの距離を縮めていった。ついに向かい合ったとき、どちらも先に目をそらさなかった。長く絡み合う視線。言葉にすれば危険になってしまう想いを、ただ目だけで伝え合っているようだった。未来はその眼差しを受け止めながら、ふと胸の奥に奇妙な感覚を覚えた。数日前、ソンウンから短いメッセージが届いていた。予定が長引いたので、あと二週間滞在しなければならない、と。未来はそのメッセージを読んでも、特に何の感情も湧かなかった。あの男と、こんなにも長く、深く目を合わせた記憶など、遠い昔のことだった。関係が始まった頃のほんのわずかな時間を除けば、ソンウンの視線はいつも別のところに向いていたから。だから今、自分だけをまっすぐに映し出すこの眼差しが、ひときわ特別に感じられた。「お体はもう大丈夫ですか?」結局、先に口を開いたのは未来だった。できるだけ何でもないふりをして、いつもの穏やかな笑みを浮かべながら。「おばさんから、先生はもうすっかり回復されたって聞きましたけど、本当に元気になられたみたいですね。あのときは、やっぱり風邪でひどく体調を崩されていたんですよね? すごく心配したんです」口にしてから、しまったと思った。医者を相手に、風邪だったんですよね、だなんて。けれどジンヒは、そのぎこちない演技と無邪気な優しさがかわいくてたまらないというように、口元を
「お姉さん、もう叔父さんをゆっくり休ませて、私たちも出ましょう。雨がますますひどくなってきたわ」片づけを終えたスヨンが未来の肩を軽く叩き、バッグを手に取った。未来はぎこちなく体を起こした。玄関へ向かうその瞬間まで、背中に注がれるジンヒの視線が、背骨を伝って熱く流れ落ちていくようだった。玄関の扉が閉まって、ようやくあの熱病のような空間から抜け出すことができた。チン――。エレベーターが下降し始めた。四方を鏡に囲まれた空間で、先に沈黙を破ったのはスヨンだった。スヨンは未来の手を温かく握った。「お姉さん、今日は本当にありがとうございました。ドアを開けた途端に倒れる人を受け止めるなんて、どれほど驚いたでしょう。うちの叔父さんがすっかり元気になったら、近いうちにうちでワインでも飲みましょう。うちのジンスさんに、いいヴィンテージを選んでもらいますね」スヨンの明るい声が、鏡張りの壁にぶつかって細かく砕けた。「……いいえ、スヨン先生。当然のことをしただけですから」未来は懸命に微笑んだが、鏡に映った自分の顔は、どこかやつれて見えた。スヨンが優しければ優しいほど、胸を刺す罪悪感は鋭くなっていった。ワインだなんて。スヨンの前で、ジンヒと顔を合わせても、何事もなかったようにグラスを合わせられるだろうか。エレベーターの階数表示が変わるたびに、未来の胸はどきどきと沈んでいった。雨音の遮断された四角い空間の中で、未来は手首に残る彼の体温を、誰にも知られずに何度も思い返していた。豪雨の中を抜けて家に帰ると、リビングを行ったり来たりしていたジョンレが未来を迎えた。「奥様、どうしてこんなに遅くなったんですか? 先生にはお会いできましたか?」未来は濡れた傘の水を払い、呼吸を整えて、何でもないことのように話した。「先生、具合が悪くてご自宅にいらしたの。お渡しして帰ろうとしたら、私の目の前で突然倒れてしまって……今まで看病していたの。下の階のスヨン先生が来て点滴をしてくれたから、それを見届けて一緒に出てきたのよ」「あらまあ、大変! ユ先生が倒れられたんですか?」ジョンレは驚いて口を覆った。やがて、その顔に深い影が差した。「ああ、どうしましょう……全部、私のせいだわ。昨日、私が遅くまで先生を引き止めてしまったから、きっと体を壊されたんだわ。お医者様の体を、私が
未来はその手を振りほどけないまま、今にも泣き出しそうな顔でささやいた。「先生、もしかして何かのウイルスに感染しているんじゃないですか? やっぱり私と一緒に、大きな病院へ行ったほうが……」手首を包み込む彼の指先があまりにも熱くて、ますます気が焦っていた。そんな未来を見上げていたジンヒの唇に、小さな笑みが浮かんだ。「風邪だって、ウイルスですから」ジンヒは低くかすれた声でささやきながら、未来の目を見つめた。熱を帯びた眼差しが、彼女の顔をゆっくりとなぞっていった。毎晩、夢の中でしか会えなかった女性を……自分の家の、自分の部屋で、こんなふうに心ゆくまで見つめていてもいいのだろうか。高熱に苦しみながらも、ジンヒは目の前の彼女が夢ではないことに安堵していた。この女性が愛おしくて、どうにかなってしまいそうだった。今すぐにでも、その華奢な体を腕の中に抱きしめたかった。雨音とランプの明かりの下、二人きりで閉じ込められたこの瞬間が、永遠に止まってほしかった。一方、未来の胸は切なく痛んでいた。病院では誰よりも頼もしく、完璧だった男が、自分の目の前でこんなにも弱り、ただ「行かないでください」と引き止めるなんて。これは単に、体がつらくて甘えているだけなのだろうか。それとも……勝手に想像してはいけない、私が考えているような理由なのだろうか。頭の中は罪悪感でいっぱいだった。それでも、一人で病に苦しむ彼を置いて、どうしても帰ることができなかった。それなのに……どうして私の心臓は、こんなに激しく鳴っているの。オレンジ色の明かりの下、二人の視線が空中で濃密に絡み合った。ピリリッ、ピリリッ、ピピッ――。ドアロックの暗証番号を押す電子音が、静かな家の中に鋭く響いた。続いて玄関の扉が開く音とともに、聞き慣れた声がリビングから流れ込んできた。「叔父さーん! いる?」キム・スヨンだった。未来は一瞬で全身の血が凍りついた。見つかってしまうという恐怖に襲われ、未来はつかまれた手首を引き抜こうと慌てた。けれど、ジンヒは違った。足音が寝室へ近づいてくる、その危うい瞬間にも、彼は手を離さなかった。むしろ、慌てふためく未来の手首を自分のほうへ引き寄せた。そして、二人の手をそのまま布団の中へ滑り込ませた。バランスを崩した未来が、ベッドの端にどさりと腰を下ろした。
「先生!」未来は手に持っていたバッグを床に落とすと、本能的に彼の体を抱きとめた。思っていたより、ずっと重かった。未来は両足に力を込めて踏ん張った。片腕で彼の腰をしっかりと抱き寄せ、もう片方の手で彼の腕を自分の肩に回した。「先生、しっかりしてください。少しだけ、少しだけ歩いてください」ジンヒはかろうじて目を開け、足を踏み出した。意識が半ば朦朧としたまま、全身の重みを未来の肩に預けていた。彼が一歩進むたびに、熱い吐息が未来の首筋に触れた。シャツ越しに伝わる体温は、火傷しそうなほど熱かった。寝室までの距離が、いつもの何倍も遠く感じられた。ようやく彼をベッドに寝かせた。未来は震える手を伸ばし、そっと彼の額に当ててみた。火傷しそうなほど熱かった。「先生。聞こえますか?」返事はなかった。高熱に苦しむ荒い息遣いだけが、部屋の中を満たしていた。未来はしばらくその場に立ち、部屋を見渡した。飾りすぎず、それでいて自分の好みがはっきりと表れている人の空間だった。けれど不思議なことに、この空間が少しも見知らぬ場所には感じられなかった。雨が降ったあの日、あの玄関の向こうにある小さなロビーのソファに座り、彼を待っていた。あのときは、扉一枚を隔てていた。今は、その扉の内側に立っていた。初めて入る家なのに、以前にも来たことがあるような奇妙な感覚だった。エレベーターで出会うずっと前から、どこか別の場所で、似たようなものを好み、似た感性を持って生きてきた人のように思えた。だから、あれほど短い時間で、この人の前では心が安らぐようになったのだろうか。まずは水が必要だった。キッチンへ行き、大きめの器とタオルを探した。見知らぬ家なのに、手は素早く動いた。器に冷たい水をたっぷり入れ、清潔なタオルを持って寝室に戻った。そのときだった。窓の外が目に見えて暗くなったかと思うと、空に穴が開いたように雨が降り始めた。激しい豪雨が真昼の太陽をのみ込み、部屋の中は一瞬にして夜のように真っ暗になった。未来はリビングの背の高いフロアスタンドをつけ、ベッド脇のランプを一つ灯した。淡いオレンジ色の光が、青みがかった暗闇を優しく照らした。外は激しい雨音で満ちていたが、明かりを灯した寝室の中は、不思議なほど居心地がよく、静かだった。ジンヒは相変わらず、高熱に囚われたま
翌朝のことだった。未来が目を覚ましてキッチンへ出てみると、ジョンレは不自由な手でカルビチムとイチゴジャム、イチゴシロップをすべて作り終えていた。「おばさん、私と一緒にやればいいのに。いつ作ったの?」「昨日、病院から帰って早く寝たら、ずいぶん早く目が覚めちゃってね。全部作っておいたのよ」「手を大事にしなきゃいけないのに、どうして作るの?」「仕事が残ってると、私は休めないの。休むために全部終わらせたのよ」ジョンレは甘い香りが漂う食卓の上で、透明な保存容器を整理しながら、遠慮がちに言った。「このカルビチムとイチゴジャム、イチゴシロップ、それから春に漬けた生姜シロップを少し、昨日のユ・ジンヒ先生に差し上げてもいいかしら? 材料費は私が出すから」ジョンレはいつもこうして、他人に借りを作らないよう、お金のことにはきっちりしていた。「もういいの、おばさん。おばさんが材料費の話をするたびに、私、悲しくなるわ」「申し訳ないからよ」「おばさん、そんなこと気にしないで、けがだけはしないでね。昨日は本当にびっくりしたんだから」未来はジョンレが心を込めて包んでくれたイチゴジャムとイチゴシロップ、生姜シロップの瓶、そしてまだ温もりの残るカルビチムの保温容器をバッグに詰め、病院へ向かった。ところが受付に着くと、スタッフが困ったような顔で言った。「先生は今日、お休みなんです」「あ……」未来は手に持った重いバッグを見下ろした。「カルビチム、どうしよう……」「お姉さん?」背後から聞き慣れた声がした。出勤してきたキム・スヨンだった。「あら、お姉さん、どうしてここに?」未来が昨夜の出来事を手短に説明すると、スヨンは目を丸くした。「ええっ、おばさまは大丈夫ですか? 叔父さんが縫ってくれたんですね。でも叔父さん、今日は休診で家にいるんです」スヨンは気の毒そうに舌を鳴らした。「朝、電話したら、声がもう死にそうだったんですよ。風邪で体中が痛いって、『もう死ぬ、死ぬ』なんて言ってて。相当ひどい風邪をひいたみたいです」スヨンは未来のバッグをちらりと見ると、目を輝かせた。「ちょうどよかった。お姉さん、これ、叔父さんに届けてあげてください。具合が悪いときにこんなものをもらったら、すごく喜ぶと思いますよ。独り暮らしだから、病気になっても面倒を見てくれる人がいないんです
救急外来の待合室は騒がしかった。人々がひっきりなしに出入りしているのに、ジョンレの名前が呼ばれることはなかった。もう三時間が経っていた。椅子にもたれ、負傷した手を支えているジョンレは、次第に口数が少なくなっていた。止血のために重ねたガーゼは、すぐにまた赤く染まっていった。焦りを募らせた未来は携帯電話を取り出した。知り合いの美容外科に何軒か電話をかけたが、今すぐ縫合するのは難しいという返事ばかりだった。最後に、ソユンの友達であるジミンの母親に電話をかけた。「ジミンのお母さん、うちのおばさんが手に大けがをしてしまって、セブランス病院でずっと待っているんです。もしかして、ジミンのお父さんの病院で縫っていただくことはできませんか?」「あらまあ。うちのジミンのパパ、今、中国に出張していて、明日まで病院にいないのよ。ワールドベストスキンって、皮膚科の専門医がたくさんいるでしょう? そこに電話してみたら?」電話を切って初めて、未来の頭に稲妻のようにユ・ジンヒの顔が浮かんだ。藁にもすがる思いで、ワールドベストスキンに電話をかけた。スタッフが少し確認したあと、今すぐ来てくださいと言った。未来は再びジョンレを立たせ、体を支えた。車まで移動する間、かなり血を失ったせいなのか、ジョンレの足取りは目に見えて遅くなっていた。診療時間を終えたワールドベストスキンの院内は、静まり返っていた。けれど、ユ・ジンヒは白衣を着たまま、診察室の中を落ち着きなく歩き回っていた。少し前、受付から伝えられた言葉のせいだった。アン・ミレ様からお電話です。手に大けがをされて、今、救急外来にいらっしゃるそうです。縫合していただけないかと。未来さんがけがをしたのか。どれほど深く切ったら、救急外来に行くことになるんだ。「手」という言葉に囚われたジンヒの頭の中は、すでに最悪の事態でいっぱいになっていた。普段の冷静さは、どこかへ消え失せていた。時計を見るたびに心臓が激しく鳴り、一分一秒が果てしなく長く感じられた。唇がからからに乾いたまま、病院の入口を食い入るように見つめていた、そのときだった。ついに扉が開き、未来が入ってきた。ジンヒは思わず勢いよく立ち上がった。未来の手は無事だった。彼女が支えていたのは、年配の女性だった。未来ではなかったという安堵。そして、血に染まったガー







