Se connecter「そうなります。外にいた変態した人間たち……まるでASTERになったように口から触手を出していました」
燎は部下から受け取ったケースを開けると、ピンセットを手に取る。
「動画ではピンセットを入れる穴が樹脂製の蓋とシリコンの穴枠でした。
念の為、バイアル瓶に採取して……触手が出たりしないよう二重に……」神経質になる蓮花に燎は言われるがまま指示通りに従う。
『08-08』のヘッドライト横の溝にいた小さな生命体は3cm程の大きさになり黒紫色をしていた。
「旭飛で発見した時はこんな感じだったのか ? 」
「大きさは30cm程で、アメフラシのような見た目でした。でも、色はもっと鮮やかな青紫だったんです。……何らかの条件で、鈴峯研究所の個体は黒っぽくなってしまっていましたが……これも同じですね」
「鈴峯研究所の個体 ? 」
「実は、
蓮花が部屋へ戻ると、既に杏と茜はいなかった。「お義母さんは ? 」蓮花が窓辺に立つ透に訪ねると、しばらくの沈黙の後ようやく口を開いた。「母さんの部屋に行った」「そう。お構い出来なくて申し訳ないわね」蓮花が心にも無いことを呟くと、透が蓮花をダイニングテーブルへ手招きした。「少し話さないか ? 」妙に静かで冷静──しかしどこか緊迫感を感じる透の面持ち。だが蓮花もはっきりさせたいことは山積みだ。 大人しく従った。最初に透からでた話題は蓮花の斜め上の話題だった。「御影 燎とは知り合いなのか ? 」蓮花は目を丸くすると、首を振った。「まさか ! 」「じゃあなんでわざわざここへ会いに来る ? おかしいだろ」「あ……雨宮博士と今、連絡が取れないんですって。わたしはドレス選びにこないだショッピング中にお会いしたから、どこか行き先を知らないかって」「そんな嘘を信じられるか ! SHADOW FLARE GROUPのCEOが !? わざわざ自分の足で !? 一研究員を探すために、挙句研究所のフロントレディに会いに来た ! ? そんなわけないだろ ! 」「……」蓮花にはもう、自身が研究者だと言う話を打ち明ける気は全く残っていなかった。 パーティの前は揺れ動いていた隠し事も、今となっては透が自分にした仕打ちの方が余程の出来事だった。 仮に研究員、R.takigawaだと透が最初から知っていたら ? 透は杏を手放しただろうか ? 手放したとしても、それは女性としての立場ではなく、R.takigawaという所持品が欲しいだけなのだ。「あなたこそ。内緒にしてる事ってあるわよね ? 」「俺が ? 何も無いが ? 」「学生時代からずっと、杏さんが好きだった事よ」「あぁ、そんな青い時代もあったな。だが、今は今だろ ? 」「杏さんとは何も無いって言うの ? 」
「そうなります。外にいた変態した人間たち……まるでASTERになったように口から触手を出していました」燎は部下から受け取ったケースを開けると、ピンセットを手に取る。「動画ではピンセットを入れる穴が樹脂製の蓋とシリコンの穴枠でした。念の為、バイアル瓶に採取して……触手が出たりしないよう二重に……」神経質になる蓮花に燎は言われるがまま指示通りに従う。『08-08』のヘッドライト横の溝にいた小さな生命体は3cm程の大きさになり黒紫色をしていた。「旭飛で発見した時はこんな感じだったのか ? 」「大きさは30cm程で、アメフラシのような見た目でした。でも、色はもっと鮮やかな青紫だったんです。……何らかの条件で、鈴峯研究所の個体は黒っぽくなってしまっていましたが……これも同じですね」「鈴峯研究所の個体 ? 」「実は、雨宮博士が機転を利かせてくれて、発見時に採取を。わたしたちはASTER - 0と呼んでます。そちらもまだ生きていて、仮死状態の継続に成功しています。変色もありません。けれど、鈴峯研究所の個体は変色し、触手まで出した……」燎は小さな生命体を瓶に入れると更に分厚いケースに入れ金具をバチンと閉めた。「『11-11』の車も同じだ。フロントに動いてるのが何匹かいる」「ASTER - 1に似てます……」「旭飛研究所のASTER - 0はそのままなのに、鈴峯研究所のASTERだけが変化したのか……。君や雨宮博士の見解を聞きたい」「そうですね。実物を見ていないのであくまで仮説にも程遠いのですが、変色の原因は不明としか。酸欠によるチアノーゼかと思いましたが、雨宮博士はASTERが呼吸に必要なのは酸素とは限らないと言いまして、わたしも納得しました。あとは──外にいる変態した方々をASTER体と呼称しますね。
駐車場へ続く自動ドアのそばに、燎の部下が一人立っていた。「防護服です、どうぞ」蓮花にも手渡される。白衣をその部下に預け、白い防護服とマスク、ゴーグルを手早く装着していく。燎は手馴れた様子の蓮花を見下ろすと、ゴーグルの奥の鋭い瞳に強い意志を感じた。「ふ……」「なんです ? 」緊張の糸がプツリと切れる。蓮花は不思議そうに燎を見上げる。「いや、失礼かもしれないけれど。今の君の方が綺麗だ。ドレスよりもね」「失礼ですよ」そう怒って見せるが、蓮花は肩の力が抜けていくのが自分でも分かった。(──不思議な人)燎の発言は軽々しく出るような台詞が多い。しかし、先程の会話でも自分と透や茜の状況を見て合わせる賢さもある。「もしかして、褒めてます ? 」「ああ。ドレスを着るだけで価値が上がる女性を『素敵』だとは思わない性分でね」そう言い電源を切った自動ドアを指で開け放つ。目の前には、マンション住人のものではない見慣れない車が一台、乗り付けられていた。「……これ、御影社長の車ですか ? 」「リョウ、でいい。これからは対等でいこう。チームワークは大切だ」黒のランドクルーザーだ。「懐かしいっていうか……なんて言うか……。これ、今の型 ? 父がランクルとはランドローバーが好きだったの」「奇遇だね。急ごしらえにバンパーにスカートを付けた。もし轢いても踏み付けたら意味が無いからね」蓮花はバンパーに触れる。綺麗に拭い去られていて、何も痕跡がない物の凹みや傷はまだ無かった。「意味が無いって、どういう意味 ? 」「助かるものも助からなくなるだろう ? もし治療薬が出来ても、死因が『事故死』になる」蓮花は燎を振り返ると、本気で言っているのかとまじまじと顔を見つめた。「治療薬なんて、そんな
「社長! 」蓮花は慌てて立ち上がると、頭を下げた。「すみません、お忙しいところ……」「いいんだ。こちらのマダムは?綺麗な方だ」これでご機嫌が取れるなら苦労はしないのだが、茜はすぐに燎が自分とは格の違う人間だと嗅ぎ分ける。「あら、嬉しいわ。蓮花さんは息子のお嫁ちゃんですの」「それじゃあ、鈴峯社長のお母様ですか。お会いできて光栄です。素晴らしい成長を遂げていますね。目を見張るものがあります。見習わないと。丁度今、駐車場で鈴峯社長をお見かけしましたよ」「え!?」これには蓮花も顔色が変わった。まっすぐエントランスからエレベーターで自宅へ向かってくれればいいのだが──「やだ、蓮花さん〜」「蓮花……何をしてるんだ、そんな格好で」杏を連れた透がフリースペースへ登ってきた。「これは……その……」白衣を慌てて脱ぐと、隣にいた燎の手に押し込んだ。「お借りしたの! 一度着てみたくて ! 」蓮花の引き攣った笑みと何か言いたげな燎。たった今、蓮花を脅したばかりの茜も、これには緊張が走る。だが当然、その青年を見上げた透の顔色が豹変した。「あ……え…… ? まさか……貴方は……」たじろぐ透に杏が絡みつく。「何 ? このコスプレお兄さん誰〜 ? 」「ば、馬鹿…… ! 」透が杏の手を振りほどく間もなく、燎は杏に微笑むと会釈をした。「おはようございます。少し蓮花さんにお話を伺っていまして」「はは ! うちの妻に何を。聞くことなんか何も無いですよ、研究者じゃあるまいし」透の言葉に燎は微笑んだままだったが、確実に全てを理解し小さく頷いた。
エレベーターの中、鏡に写る自分の姿を見る。そこには蓮花自身が慣れ親しんだ、白衣とカジュアルなラインのスキニーを履いた姿が存在していた。ポケットに入れっぱなしだったシュシュを外し、長い髪をサッと纏める。夜が明ける。急速に広まったASTERの恐怖。今まで状況に無頓着だった者たちも、街の混乱を今日から知ることになるだろう。あのカプセルを打ち上げた旭飛研究所の自分たちのせいなのか、ASTER - 1を強欲に独り占めしようとした夫の鈴峯研究所のせいなのか。今となっては責任のなすりつけあいは価値のないことだ。ポーン……♪エレベーターが開き、蓮花が一歩踏み出そうとした時だった。「お義母さん ! 」「あらぁ ? あんたどこに……なにその格好は……」「お義母さんこそ……今お帰りだったんですね……。どうしてここに ? 」「デデのおやつが無くなったのよ。買い置きあったでしょ ? 」義母の茜が丁度パーティから帰宅し、蓮花の部屋へ転がり込むところだった。「あんた何で白衣なんか……『旭飛……主席研究員……R.TAKIGAWA』?」ネームタグを見た茜がギロリと蓮花を見上げた。蓮花はバッとタグを外し、スキニーの中にねじ込む。だがもう遅かった。「まさか……あんた。へぇ……よくもわたしたちに隠して……。じゃあ、あんた透の事を下に見てたわけ ?『世界の滝川』。桐生杏が鈴峯研究所を立ち上げる時に血眼になって探していた研究者……」「いえ、下に見るとかそういう訳じゃ……。後で説明します。今、予定が立て込んでて…&helli
「少し休みましょうか。お茶を入れるから」キッチンに向かう蓮花を何か言いたげに翠は頷いた。ソファに座り、テレビをつける。『山のように !! 積み上がっています !! 全部群がってる、これ、全部人です !! 』ヘリに乗ったバンキシャがパニックになっていた。映像で映し出されたのは一軒家の屋根で救助を待つ家族に、あの狂人達が群がっている姿だった。別のチャンネルに変えていく。二つのチャンネルは待機画面。他は街中を徘徊する者たちをビル窓から撮影した映像。これは恐らく録画で、永遠に同じ映像を垂れ流しにしているようだった。その上に『まもなく総理官邸から中継との文字』。「まずいわ……」テレビを見て固まっている翠のそばに蓮花が戻る。「落ち着いて。どうぞ。お砂糖いくつ入れます ? 」「あんた……滝川 蓮でしょ…… ? 」「え ? 」「研究者が ! よく落ち着いて居られるねって言ってんの !!見てよ ! この騒ぎ ! 他人事じゃないのよ !? 」「分かっているわ」「分かってないわよ…… ! 雨宮博士に聞いたけど、これが本当ならあんたの旦那のせいじゃない !! 」「……っ。それは……」「政府なんて何も話しゃしないわよ !わたしの娘は ! 今もバリケードなんか無いボロい保育園にいるの !東京もいつ封鎖されるか……。お茶なんか飲んでる場合じゃない ! 」ガシャンと音を立ててティーカップは翠に叩き落とされた。「ごめんなさい。わたし、何もかも半端で……」「はぁ……」翠はしゃがみこみ、感情に任せて落としてしまったティーカップ







