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第7話

Auteur: みそ煮
last update Date de publication: 2026-02-10 21:23:38

自室へ戻った香織は、急いで頬の手当てを始めた。

亮太は加減することなく香織を殴ったようで、彼の手の痕がくっきりと残っていた。

「ホンット、頭に血が上るとすぐに手を上げるんだから」

何故あのような男に恋をしていたのだろう。今ではよくわからなかった。

香織と亮太の初めての出会いは大学だった。入学したての一年生の夏、香織は羽川家の御曹司だった亮太と大学構内でたまたますれ違った。

学部も違えば、特に家同士でつながりがあったわけではなかった。香織に特に興味のない様子だった亮太とは違い、その美しい容姿に彼女はあっという間に虜になった。

それから香織は亮太のファンクラブに入り、少しでも自分を認識してもらえるようにと彼のあとを追いかけ続けた。

亮太が香織を疎ましく思うのも当然だったのかもしれない。

それから香織は父親に頼み込み、亮太との婚約を半ば強引に結んだ。

今思えば、何て愚かな行動だったのだろう。

『何故俺がお前と結婚しなければならないんだ。せめて、他の誰かだったら……』

婚約が決まった日、亮太はそれだけ言って香織の前から立ち去った。

亮太は香織を激しく嫌っていた。亮太にとって香織は、自身につきまとう煩わしい女でしかなかったのだ。

しかし香織は諦めなかった。

彼の身の回りの世話を全てこなし、仕事面においてもサポートをした。彼にほんの少しでも自分を見てほしい、というその一心で。

しかし彼は香織に気持ちを返すことはなく、自身が経営する会社の社員だった日菜乃と恋に落ちた。

日菜乃との間に子供まで作られたのだから、香織のプライドはズタズタだった。

香織はスマホを取り出し、ある場所に電話をかけた。

五日後には日菜乃の妊娠を祝うパーティーが開かれる。そのための準備をしなければならなかった。

「もしもし――店長」

「香織お嬢様?お久しぶりです!」

香織が電話をかけた先は彼女の行きつけの美容院の店長だった。

彼女が通っている美容院は都内でも有名人が多く通っていることで有名な場所だった。

「五日後、急遽パーティーに参加することになったの。準備をお願いしたいのだけれど」

「もちろんです!香織お嬢様にはいつもお世話になっていますから」

今やベテラン美容師となっている店長の彼は、開業するにあたって香織の父親の支援を多く受けた。

そのため、香織の父親に恩を感じ、彼女を特別な客として扱っているのだ。

「香織お嬢様、よろしければ当日は俺が会場まで車で送っていきますよ。羽川家の車は……使えないでしょうし」

「あら、そこまでしてくれるの?嬉しいわ」

「香織お嬢様は忠嗣様の大切な一人娘ですから」

「大切な一人娘……」

九条忠嗣(くじょうただつぐ)――香織の父親であり、九条グループのトップだった。

忠嗣は仕事人間だったため、香織は幼い頃からあまり父との接点がなかった。最後に話したのも香織が羽川家へ嫁ぐ前で、結婚後は一度も会っていない。

香織の父親の忠嗣は仕事面では優秀な人だったが、夫・父親として良い人だとはいえなかった。

好きでも嫌いでもない。ただ、母親よりはマシというだけ。

金銭面で何不自由なく育ててくれたことに感謝こそしているが、香織にとっては母親よりも遠い存在だった。

「そうね……お父さんはすごい人だもの……」

「香織お嬢様?」

「何でもないわ。とても大事な日だから、よろしく頼むわ」

「もちろんです、お嬢様!」

電話を切った香織はフゥと息を吐いた。

そして、部屋にあるクローゼットの一番奥に閉まってあった一着のドレスを引っ張り出した。

それは彼女にとって苦い思い出のあるドレスだった。

三年前、初めてこのドレスを着て亮太の前へ現れたとき、彼は冷たく吐き捨てた。

『なんて汚らわしいんだ!まるで売春婦のようだな!』

その言葉にショックを受けた香織は、すぐに着替え直し、二度とこのドレスを着ることはなかった。

しかしもったいなくて捨てることもできず、ずっとクローゼットの奥に閉まったままだったのだ。

「……でもやっぱり、このドレスが私に一番似合ってるのよね」

香織は鏡の前に立ち、ドレスを自身の身体に合わせて微笑んだ。

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