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第6話

Author: みそ煮
last update Last Updated: 2026-02-10 20:18:13

「奥様、お帰りなさい。どちらへ出かけていたんですか?」

「……」

帰宅した香織は、たまたま邸宅の前で日菜乃と遭遇した。美佐子に会っただけでもひどく疲れたのに、逃げた先で日菜乃にまで遭遇してしまうとは。

今日は何てツイてないんだろう。

「……ちょっと用事があったのよ」

「そうだったんですね!言ってくれたら、私が運転手に頼んで送ってさしあげたのに」

「……」

羽川家の人間からことごとく嫌われている香織は、正式な妻となったにもかかわらず、羽川家の所有する車に未だに乗ったことが無かった。

これまで開かれたパーティーも亮太は先に一人で車に乗って行ってしまうため、残された香織は徒歩か公共交通機関を使って移動するほかなかった。

一方、愛人である日菜乃は既に羽川家の女主人のような扱いだった。人目を気にすることなく亮太と常に行動を共にし、まるで彼の妻であるかのように振舞っていたのだ。

香織は惨めな気持ちを抑えきれなかった。

「奥様、何だか目元が赤いですよ、どうかなさったのですか?」

「……何でもないわ」

香織は顔を背けた。

日菜乃は心配そうに香織を見つめ、彼女の顔に手を伸ばした。

「もしかして、泣いていたんですか?奥様、一体何が――」

「何でもないって言ってるでしょう!」

「キャアッ!」

香織が日菜乃の手を振り払うと、彼女は後ろに倒れこんだ。

「ッ……!」

母親に会ったあとで心に余裕のなかった香織は、力の加減ができなかったのだ。

まずい、こんなところ、誰かに見られでもしたら――

そう思ったのも束の間、突然後ろから強い力で肩を掴まれた。

強引に振り向かされた香織は、相手の顔を見る前に強い衝撃を受け、わけもわからないまま吹き飛んだ。

それと同時に頬に鈍い痛みが走った。

「あ……」

顔を上げた香織の視界に、見慣れた顔が映った。

冷たい目で彼女を見下ろしていたのは亮太だった。

「お前、日菜乃に何をしているんだ」

「亮太……」

彼は倒れこんだ香織をさらに痛めつけようと、再び手を振り上げた。

――「社長、やめてください!私が先に奥様に失礼なことをしたんです!」

それを慌てて止めに入ったのは日菜乃だった。

「日菜乃……」

彼は自身にしがみついて懇願する日菜乃を視界に入れると、すぐにいつもの顔に戻った。

「奥様は……ただちょっとイラついてただけですよ。本当は優しい方だということ、私は知ってますから!」

「しかし、今のでお腹の子に何かあったら……」

「大丈夫ですよ、私たちの子ですから!きっと元気に生まれてくるはずです!」

「……そうだな、俺が心配性になりすぎていたようだ」

亮太は日菜乃を優しく腕に抱きしめた。香織にとってそれは、前世で見慣れた光景だった。

香織が日菜乃に苦言を呈すたびに、彼女は目に涙をためて亮太に泣きついていた。

本当は誰よりも強かな女であるにもかかわらず、好きな男の前ではか弱い女の子であるかのように振舞う。前世の経験から、彼女のやり口は嫌というほど理解していた。

「……茶番ね、別に止めなくてよかったのに」

「奥様……?」

香織の言葉に、亮太は顔を真っ赤にして彼女の胸倉をつかんだ。

「日菜乃に助けられたというのに、なんという言い草だ!」

「私は助けてなんて言ってないわよ」

「何だと?相変わらず性根の腐った女だ!」

「社長やめて、奥様は素直になれないだけよ!」

日菜乃は香織の胸倉をつかんでいる亮太の腕にそっと手を置いた。

亮太の手の力が弱まったその隙に、香織は彼の腕を振り払った。

これ以上日菜乃に助けられるという屈辱に耐えられなかったのだ。

立ち上がり、スカートの埃をさっさと払うと、香織は亮太を見下ろした。

「亮太、あなたは昔から視野が狭いわね」

「……何だと?」

「自己中心的で、絶対に自分が正しいと信じて疑わない。そこがあなたの欠点よ」

「お前に何がわかるんだ!」

亮太は声を荒らげた。

今にも香織にとびかかろうとする亮太を、日菜乃がおさえ込んだ。

「今回のことは忘れないわ。あなたが私を殴ったこと、一生恨ませてもらうから」

「好きにしろ、先に手を出したのはお前のほうだろう」

一部始終を全て見ていたわけでもないのに、双方の話も聞かずに香織が悪だと決めつけるのは前世から変わっていなかった。

香織は未だに座り込んだままの二人を置いて屋敷へと入っていった。

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