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第1014話

Author: かおる
正道は言った。

「なるべく早く、司馬家とのすべての提携を解消する。

株主の件についても、私が全責任をもって処理する。

お前が気にする必要はない。

どれほどの代償を払おうとも、必ず司馬家とは手を切る」

正道の腹の深さは、靖たち三兄弟とは、比べものにならなかった。

並の人間なら、この言葉にすっかり丸め込まれ、下手をすれば、感激すらしていただろう。

先ほどまで、靖と忠は、提携解消には大きな代償が必要だと言っていた。

それを受けて、正道は一言で結論を下した。

「どんな代償を払ってでも、解消する」と。

だが――

いつ解消するのか。

本当に解消できるのか。

それは、また別の話だった。

星は、もはや親情を渇望する、かつての少女ではない。

正道の言葉も、彼女にとっては、絵に描いた餅にすぎなかった。

星は、穏やかに微笑む。

「会社の内部問題は、確かに解決が難しいもの。

父さんがそこまで言ってくれるなら、私も無理は言わないわ」

一拍置いて、続けた。

「それではまず、雲井家として、対外的に声明を出しましょう。

司馬家とのすべての提携を解消する、という内容で。

その後のことは、時間をかけて考えればいい」

そして、にこやかなまま、念を押す。

「父さん。

娘が怜央に、あのようなことをされてなお、雲井家が司馬家と提携を続けたい、などということは......

ないよね?」

正道は即答した。

「あるはずがない。

ああいう人間は、決して許してはならない」

そう言って、怜央に冷たく、嫌悪のこもった視線を向ける。

「怜央。

さっきまで、認めようとしなかったな。

今、何か言うことはあるか?」

彩香は、眉をひそめた。

ここまで証拠が揃っている以上、弁解の余地など、どこにもない。

それでも、あえて問いかける必要があるのだろうか。

結局は、まだ彼に言い逃れの余地を与えたいだけではないのか。

彩香は、星のことを思うと、胸が冷え切るのを感じた。

娘の手が、ここまで壊されたというのに――

それでもなお、加害者に「言い分」を求めるとは。

彩香は、ふとスマホに視線を落とした。

画面では、ギフトのエフェクトとコメントが、目まぐるしく流れている。

その唇に、ごくわずかな笑みが浮かんだ。

助手の車に乗る前、彼女はすでに、「もうすぐ配信を切る」
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