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第366話

Author: かおる
彼は慌ててこのことを祖母に告げた。

だが祖母は公正を守るどころか、逆に母が宴の席で神谷家の顔を潰したと責め立て、母を激しく叱責した。

父が知ったときも、ただ勇を少し咎めただけで、結局うやむやになった。

あのとき、母は涙をこらえ、唇を強く噛みしめて耐えていた。

その姿を見て、翔太は胸が痛んだ。

母があまりにも哀れに思えた。

慰めに行きたかった。

けれど周囲の嘲笑する視線が、針のように突き刺さり、身動きがとれなかった。

どうすればいいのか分からず、誰も答えを教えてはくれなかった。

――その思考を、綾子の冷ややかな声が断ち切った。

「わざとだろうと偶然だろうと、どっちでもいいわ。

あなた星の味方になるの?

相手はみんな、あなたの親友の連中よ。

本当に星を大事に思うなら、勇の友人たちが彼女をいじめたりするわけないじゃない。

それに勇本人だって、会えば必ず彼女を皮肉るでしょう?

幼稚園の子どもにまで笑われたことだって、あなたの責任じゃないの?

大体、あなたが清子と堂々といちゃつくから、誰もが妻は寵愛されていないと知っている。

そんな状況で、星を侮るなというほうが無理よ。

夫としての務めを果たさなかったのはあなた。

なのに責任を私に押し付ける気?

そんなもの、私が背負う義理はないわ!」

綾子の饒舌に、雅臣は言葉を失った。

彼の目にはかすかな茫然が浮かぶ。

――もしかして、自分は本当に、これまで星を軽んじすぎていたのだろうか。

翌日。

勇の取り巻き数人が、再びネットを炎上させた。

高級車を乗り回す若者たち。

交通ルールを無視して人をはねたにもかかわらず、傲慢な態度を隠そうともしない。

「酒気帯び運転だと?

ああ、そうだよ!

たとえ本当にお前を轢き殺したって、俺は責任なんか負わない!

なぜかって?

俺の親父が誰か知ってるか?

俺の兄弟分が誰か分かってんのか?

神谷雅臣を知ってるだろ?

あいつが俺たちの兄貴分なんだ!

俺に法がない?

俺こそが法なんだよ!」

この動画が拡散されるやいなや、瞬く間に全ネットで大炎上となった。

朝早くから、雅臣のもとに勇から電話が入った。

「雅臣、まずい!

あの連中の動画、下で抑えられなかったんだ。

もうトレンドのトップに上がってる!

ネット中が大騒ぎだ!」

雅臣は電話
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Comments (7)
goodnovel comment avatar
おすがさま
この2人はどうして結婚したのか……わからない…… 最初は、雅臣も星を好きだったのかな~
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美桜
今回はさすがに清子も出番がなかった。影斗様々だね!毎日更新が楽しみです〜。
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美桜
夫として罪深いですよね。
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