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第790話

Author: 心温まるお言葉
沙耶香は霜村涼平がもう彼女を探しに来ることはないだろうと思っていたが、まさか彼がこんな偶然に、道の向こう側に現れるとは。

彼女は自分がどんな気持ちなのか言葉にできなかった。ただ自分に言い聞かせた、今の彼氏は柴田夏彦だと。

柴田夏彦は彼女をしばらく抱いた後、傘を彼女の頭上に差し、彼女を守るように車に乗せ、慣れた様子で彼女を別荘まで送った。

沙耶香は車を降り、別荘の前に立って柴田夏彦に手を振り、おやすみを告げて別荘に入ろうとしたが、柴田夏彦に呼び止められた。

「沙耶香……」

柴田夏彦は彼女を呼び止めた後、少し恥ずかしそうに彼女に一歩近づいた。

「どうしたの?」

沙耶香は顔を上げて彼を見た。いつもなら柴田夏彦は彼女を家まで送り、お互いにおやすみを言った後、すぐに立ち去るのに、今回はなぜ彼女を呼び止めたのだろう?

柴田夏彦は頭を下げ、沙耶香の艶やかな唇を見つめると、だんだん耳まで赤くなった。彼女にキスしたいという言葉が、どうしても口から出てこなかった。

大人の関係を経験したことがある二人だが、柴田夏彦の欲望に満ちた眼差し一つで、沙耶香は相手が何を考えているか理解できた。ただ……

彼女にはそれが少し早すぎるように感じた。もちろん、彼らは大人で、年齢も若くはないので、この進展は実際には遅いとも言える。

しかし、なぜか彼女にはそれが早く感じられ、心の障壁を越えて柴田夏彦とキスしたり、ベッドを共にしたりすることに抵抗があった。

柴田夏彦は沙耶香の心の内を知らず、ただ勇気を振り絞って、小さな声で沙耶香に尋ねた。

「キスしてもいい?」

彼の質問は直接的で、遠回しなところはなかったが、顔は元の表情が見えないほど赤くなっていた。

沙耶香は耳先まで赤くなった柴田夏彦をじっと見つめ、彼の心臓が喉元から飛び出しそうなほど激しく鼓動しているのがわかるようだった。

この若い頃にしか見られないような顔を赤らめる姿を、柴田夏彦は彼女の前でありのままに見せていた。

まるで大人の関係を一度も経験したことがないかのように、清潔で純粋で、まるで高校生のようだった……

そんな柴田夏彦を見つめながら、沙耶香は突然手のひらを強く握りしめた……

「先輩、あなたは私のことが好きなの?それとも単純に結婚に適していると思ってるだけ?」

お見合いで出会った相手は、ほとんどが結婚に適してい
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