LOGIN「……俺の知っている優しいマリアリアはもう記憶の中だけの様だ」 ガルドリックは自嘲気味に呟くとマリアリアを無視して大扉の向こうに進もうとする。そんなガルドリックの行動がマリアリアには解らず「嘘じゃないわ! エリスフィーナさんは助からないし扉の向こうはもう危険なの!」 さっきと同じ話を繰り返すがガルドリックは深く深呼吸すると「……俺は嘘が顔に出ると言っただけで君の何が嘘のサインかは言ってない。でも君は同じ事を皆に話すのに仕草を明らかに変えてきた……それが答えだ」 ガルドリックは悲しそうな哀れみの目でマリアリアを見る。それは深い憐憫の情を込めたやるせない彼の偽らざる本心だった。そして「メルティーローズ、エリスを助ける。手を貸してくれ! クレスはマリアリアを見張っていてくれ!」 二人に指示を出し、扉の向こうへと戻っていくのだった。彼のその背中に「待って! それはたまたまなの! あなたの勘違いよ!」 マリアリアの叫ぶような懇願の声が投げかけられるがガルドリックがそれに応える事は無かった。「ガルドリック! 貴方はあのエルフに惑わされてるの! エルフは人を不幸にするって言われてるもの! 私の話を聞いて!」 マリアリアはさらにガルドリックに叫ぶがその声はただ洞窟内に響くのみだった。「く、うぅ……!」 瓦礫を手で掴み落下しないよう抵抗するエリスフィーナの体力も限界に近付いてきた。 その姿は上から覗き込んだガルドリックからもしっかり見える。ガルドリックはすぐ後ろに居るメルティーローズに「メルティーローズ、レビテーションは使えるが?」「出来るけど……ただゆっくり落下するだけよ? 飛べないわよ?」 レビテーションの魔法が使えるかを確認する。メルティーローズの答えにガルドリックは「それで良い。直ぐに俺達に掛けといてくれ」 そう言うとガルドリックは迷う事無く瓦礫を伝ってエリスフィーナの元へと降り始めた。「ちょっと……! まだ魔法掛けてないのに……!」 メルティーローズがガルドリックの行動に信じられないと言った態度で呆れつつも魔法の詠唱を始める。(ガルドリックさん……!) 必死に耐えるエリスフィーナの目にガルドリックの姿が映り、彼女の顔に初めて安堵の表情が生まれた。 終わりの無い苦痛は耐え難いが希望が一筋でも差せば話は全く変わってくる。 もう
最後の大扉の前で立ち往生しているパーティーの背後からは崩落が刻一刻と迫ってきていた。 扉の向こうに居るはずのキリヤ王子からの応答は無く、このままでは全員の奈落落ちは確定だった。「メル、貴女はレビテーションが使えたでしょう? 役に立つ時は今ですよ!」「あんなん、浮遊落下でしかないもの! 滑落死の先延ばしでしか無いわよ! そんならアンタこそソアーウィングでも使ったらどうなの?」 追い詰められたメルティーローズとクレスはなんとか魔法で打開できないかと口論を始めている。 もっとも口論している時間も手段を選んでいられる余裕も全く無いのだが……ーガラガラガラガラ……ー もう目と鼻の先まで通路が崩れてしまったその時「俺が大剣で扉を破壊する! お前達は伏せていろ!」 ガルドリックが物理的な打撃での大扉の破壊を宣言するが「伏せろってどうやってよ! もうギュウギュウだってば!」 足場は刻一刻と狭まっており全員が伏せて待つスペースすらもう無い。「仕方ありませんね。メル、私の上で横たわってかまいませんよ?」「じゃかしいわ! 気色悪い想像すんな! 変態眼鏡!」 割と余裕があるクレスとメルティーローズの二人。だがガルドリックはそんな二人に気を留める事も無く「マリアリア、ホーリーウォールを足場代わりに出来るが?」 神聖魔法の光の壁を一時的に足場とする方法をマリアリアに提案する。「え? ええ……。全能なる慈愛と豊穣女神……」 マリアリアは自身の役目を察したのかガルドリックの提案通りに魔法の詠唱を始める。そして「ホーリーウォール!」ーパアアアアアッ!ー マリアリアが唱えた光の壁は即席の足場となってパーティーの滑落を防いだ。ーピシイッ! ガラガラガラ!ー 次の瞬間にはこれまで足場だった場所が瓦礫となって落下していってしまった。「よし、皆伏せろ!」 大剣を抜いたガルドリックは大剣を構えるとそのまま横薙ぎに一閃ードカアッ!ー さらに回転の勢いそのままに逆斬り上げからの袈裟斬りを放ちードガガガアッ!ー 行く手を阻んでいた大扉を事も無げに破壊してしまうのだった。「よし、急げ! 脱出だ!」ガルドリックの指示にパーティーの皆が立ち上がり次々と壊れた大扉の隙間から出ていく。 エリスフィーナも脱出しようとするが、皆が一斉に通れる広さは無い。 メルテ
「ガルドリックさん! キリヤ王子は通路を破壊して私達を見捨てるつもりです!」 エリスフィーナは半信半疑ながら、自身が見た未来の結末をガルドリックに叫ぶ。さらに「私が弓矢で彼の気を引きますからガルドリックさんは駆け続けて下さい!」 何をすれば良いが確証は無いが、とりあえず今すぐにでもキリヤ王子は止めなければガルドリックが助からない。 エリスフィーナは弓矢を手にするとキリヤ王子に向けて狙いを定める。 一方のガルドリックもお姫様抱っこで抱えていたエリスフィーナを持ち上げ、彼女が弓矢を引き絞れる位にまで腕の自由が利く体制へと変える。(キリヤ王子を止めるには……!) 今のエリスフィーナには彼の暴挙を止められるだけの警告となる正確な一撃を撃たなければならない使命が与えられていた。(どうしよう……?) 印象最悪とは言ってもキリヤ王子は同じパーティーの仲間である。 まだ犯罪に手を染めていない人間に矢を射掛けるのは若干の抵抗がある。 だが、エリスフィーナが逡巡している間にもキリヤ王子の手は双剣の柄に伸びていく。(神様……!)ーピュン!ー エリスフィーナは引き絞っていた矢をキリヤ王子に向けて放つ。ーガツッ! ビイィィィン……ー エリスフィーナが放った矢はキリヤ王子の双剣の片方の柄を正確に射抜いていた。 「な、なにをしやがる!」 今まさに双剣の柄を掴もうと伸ばしていた手を掠める様に射られた矢にキリヤ王子は狼狽してエリスフィーナを怒鳴り散らしてきた。 しかし、エリスフィーナはそれに答えず「メルさん! クレスさん! キリヤ王子を止めて下さい! 彼が通路を壊そうとしているんです!」 一度目はキリヤ王子が何をするのかなど分からなかったから何も出来なかったが、先が分かっていればいくらでも止めようはある。 既に今の時点でガルドリックが一度目で落とされた地点は越える事が出来ていた。「くそが! ことごとく俺の邪魔をしやがって!」 キリヤ王子は自身を抑えに掛かろうとしてきたクレスとメルティーローズを振り払い一人でさっさと両扉の向こうへと消えてしまった。ーガシャン!ー 両開きの大扉が勢いよく閉められる。キリヤ王子の行動はクレスもメルティーローズも唖然とさせていた。そこに「皆、さっさと脱出するぞ。のんびりしている余裕は無い」 エリスフィーナを担いだガル
長い一本道の通路の先にようやく出口となる両開きの扉が見えてきた。 先頭を走っていたクレスとメルティーローズは振り返って後続の皆が到着するのを今か今かとやきもきしながら待っている。そしてマリアリア、キリヤ王子の二人も無事に到達した。 残るはエリスフィーナを抱えたガルドリックだが、彼等の後ろから足場が崩れながら迫っており、ほんの一瞬の油断も許されない状況だ。 だが、ようやくガルドリックがキリヤ王子の目の前まで到達しようかとなったその時「絶・破裂斬!」ードガアアアッ!ー キリヤ王子が双剣を抜き迷いなくガルドリック達との間の足場を斬りつけたのだった。「キリヤ王子! 何を……!」 ガルドリックがキリヤ王子に叫ぶも「何もクソもねーよ。足場が崩れるのを止めるにはこうするしかねーんでね。わりぃな」ードガアアアッ!ー キリヤ王子がさらに剣で足場を攻撃し自分の所からガルドリック達を切り離すとーボゴオッ! トガアッ!ー ガルドリック達が駆けている足場は限界を迎えるようにその場で崩壊を始めた。「これで魔王を倒した英雄の称号は俺のモンだ。現地人が転生者様を差し置いて目立つなんざ百年はえーよ」 キリヤ王子は落下していくガルドリック達に向けて吐き捨てる様に自分の願望を口にする。「くそっ!」ーダンッ!ー 一方のガルドリック落ちる瓦礫を足場には思いっきり跳んだがそれでもキリヤ王子の場所まではとても届かず、ガルドリックの身体は瓦礫となった足場と共に奈落へと落下していくのだった。その時「エリス、歯を食いしばれ」「え……?」 ガルドリックが抱えているエリスフィーナに声を掛け彼女が言葉の意味を理解する前に「うおおらああああっ!」ーブオンッ!ー ガルドリックはエリスフィーナの身体を力任せに思い切りキリヤ王子達の方に向けて放り投げた。「ガルドリックさん……!」 エリスフィーナが手を伸ばした時にはガルドリックは瓦礫と共に奈落へと落ちていくところだった。 しかし、エリスフィーナもまだ助かった訳では無く、ガルドリックに投げられた勢いは徐々に弱まっていく。このままでは届かないかと思われたがードシャアッ!ー「うあっ!」 エリスフィーナはキリヤ王子達が居る足場の縁にどうにか着地し手で掴む事が出来た。「く……くぅ……!」 しかし、指先だけで身体の全重量を支え
「勇者ガルドリックよ……。お前との剣戦、悪くは無かったが……勝負はお預けだ……ぐふっ!」 魔王は勝負に負けた悔しさは顔に滲ませる事は無く自身の敗北を受け入れている。「は……ハイエルフの娘を助けるのなら急ぐのだな……。我の力は……ここ……まで……だ」ーダンッ!ー 魔王アスモデウスはそう言うと自身の胸に刺さった大剣から抜け出る様にして後方へと跳躍し円形の広場から地下深くへと落下していく。 落下していく魔王アスモデウスの言葉が終わると同時に「きゃああああっ!」 磔にされていたエリスフィーナの悲鳴がガルドリックの後方から聞こえてきた。 磔にされていたエリスフィーナの両手首足首から黒いリングが消え去り、拘束から解放されたエリスフィーナは広場へと落下を始めていた。 十字架の体勢で長時間拘束されていたエリスフィーナは着地姿勢を取る事も受け身を取る事も出来ないまま広場に頭から叩き付けられようとしていた。 シルフに風による上昇気流での衝撃緩和をお願いしたくても自然風や物理的な現象から来る空気の流れに乏しい地下空間ではエリスフィーナの力でシルフに話し掛ける事すら出来ない。「くっ!」 目前に迫る地面への衝撃にエリスフィーナが思わず目を閉じた瞬間ーガシイッ!ー エリスフィーナの身体は地面に叩き付けられる事なく何者かに受け止められていた。彼女が恐る恐る目を開けると「あ……!」 自分を抱えて走るガルドリックの顔を下から見上げる形で彼を見る事になった。一心不乱に走り続けている彼にエリスフィーナが「あ、あの……ありがとうございました。私……走れますから……」 礼を言ってお姫様抱っこの体勢から脱しようとするが「今はそれどころじゃなくてな。少し我慢してくれ」 走り続けているガルドリックからの返事が返ってきた。いつもの彼からは考え辛い余裕の無さにエリスフィーナがふと周りの景色を見回すとーゴゴゴゴゴ……ー 地下空間そのものが大きく揺れ始めておりードガアッ! ガラガラガラ……ー 足場である広場すら振動し崩れ始めている光景があった。勇者パーティーのメンバーは一目散に地下空洞の出口を目指して駆けている真っ最中であり、上からの落石だけではなく崩れていく足場からも逃げなければならない状況だった。 そんな状況なのだからエリスフィーナを降ろして走れるか確認した上で急い
「な、馬鹿な……! 貴方、魔導拘束具はどうしたのですか!」 賢者クレスが取り付けていたハズの拘束具を付けていないキリヤ王子に驚愕の表情を向けながら問うが「あんなモンで俺を抑え込もうなんざ十年はえーんだよ」 黒髪をボリボリ掻きながら面倒そうにキリヤ王子は答える。「で、要は魔王を倒してやりゃ良いんだろ? 俺が綺麗さっぱり終わらせてやるよ」 キリヤ王子は皆の前に立つと無造作に魔力を高め始める。ーシュウウウ……ー キリヤ王子の周囲には魔力の波動が集まり周囲に緑色の渦と光を纏い始めている。「お待ちなさい! 今は一騎打ちの最中……手出しは無用です!」 賢者クレスがキリヤ王子を制止しようとするが「うぜーんだよ。要は勝てば良いんだよ、勝・て・ば!」ーキュイイイィッ!ー キリヤは存分に溜めた魔力を前に翳した右腕に集中させていく。「愚かな……! 魔王は……?」 賢者クレスは魔王の動向を確認する。彼がガルドリックの大剣を悠々といなしながら明確にキリヤ王子の様子を視認しているのが確認出来た。「魔王は何かの策を用意しています! 今、魔法を撃つのは危険です!」 賢者クレスが再度キリヤ王子に叫ぶ。普段冷静沈着な彼からしてみれば珍しい程の感情の現れだった。「ギガンティック・エクスプロージョン! 吹っ飛びやがれぇーっ!」ーバシュウウウーッー キリヤ王子はクレスの静止も聞かず極大破壊魔法を魔王目掛けて放った。キリヤ王子の右手から放たれた小さな光点は一直線に魔王へと向かっていくのだった。 ガルドリックとの剣戦の最中、キリヤ王子が魔法を撃とうとしている事に気付いた魔王アスモデウスは「残念だがお前と遊ぶのはここまでだ。恨むのなら無能な仲間を恨むが良い」ーガギイィィン!ー 魔王アスモデウスはガルドリックが打ち込んだ大剣を大きく振り払うと大きく後ろに飛び退いた。そして「魔王に横槍など通用せんぞ! ダークリフレクション!」 魔王が左手を向かってきた光点そしてキリヤ王子に向けて翳すとーシュウウウ……ー 魔王の前面に光沢を放つ漆黒の壁が現れた。そしてその壁にキリヤ王子の放った光点が触れるとードドオオオオォォォン!ー 凄まじい爆発が魔王の展開した黒い壁の逆方向に向けて襲い掛かった。 そこには魔王と打ち合っていたガルドリック、そして広場の上空で磔にされているエ