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4話

مؤلف: 東雲桃矢
last update تاريخ النشر: 2026-05-16 15:07:27

 ドアが閉まると、マリアネラはサイドテーブルへ駆け寄り、水差しにある水を一気に飲んだ。王女としてはしたない飲み方ではあるが、ひどく喉が渇いていたのだ。

 夕の国で出される水は、ゴミや虫が浮いており、飲めたものではない。朝と夜に1回ずつ、風呂の代わりに水をかけられる。その水は井戸水だった。だからマリアネラは、水をかけられる時に口を開け、少しでも水分を取ろうと必死になっていた。

 幸い、夕の国は雨が多い。マリアネラが入れられたボロ小屋には、ところどころ穴が空いているため、雨漏りが酷い。その雨漏りがマリアネラの命綱だった。

「ふぅ、お水って、こんなに美味しかったのね……」

 久しぶりに飲む綺麗な水に感動を覚える。戦争前のマリアネラは、水が苦手だった。味がないから、飲んでも美味しいと思えなかったのだ。そのため、よく冷やしたアイスティーを愛飲していた。

「極限状態で気づくなんてね……」

 自嘲し、改めて部屋を見回す。立派なベッド、空っぽの本棚、一人用の椅子とテーブル。ドレッサーにクローゼット。

 サイドテーブルの引き出しの中を見ると、ふわりと花の香りがした。中にはサシェが入っている。サシェとは乾燥した花やハーブを通気性のいい布製の袋に入れたもののことだ。リラックス効果のある花で作ったものを枕元に置いたり、殺虫効果のあるハーブなどを入れたものはクローゼットなどに入れ、防虫剤代わりにする。

 サイトデーブルに入っているサシェは、リラックス効果があるものだろう。この香りをかいでいると、心が落ち着いてくる。

 次にドレッサーを見ると、化粧品やケア用品、櫛やヘアオイルなどが入っていた。

 最後にクローゼットを見ると、紺色のドレスが1着のみ入っている。どれも美しいものではあったが、マリアネラの心を動かすことはできない。

「はぁ、これからどうなるのかしら……」

 椅子に座ってため息をつく。できることならベッドに横になりたいが、襤褸切れをまとっている今、綺麗なベッドに横になるのは憚られた。

 しばらくすると、チェセルの言う通り、サンドイッチとワインが運ばれてきた。使用人はテーブルの上にそれらを置くと、恭しく一礼して出ていく。

 使用人が退出すると、マリアネラは必死にかぶりつき、まともな食事に涙を流した。

 奴隷市場にいる頃に出された食事は、人が食べるものとは思えないほどひどいものばかりだった。悪臭を放つおかゆのようなものには、虫が混ざっていたし、夜に出されるスープも悪臭を放つ上に、泥のような見た目をしていた。

 乾燥した穀物を食べている家畜のほうが、よっぽどいいものを食べていた。

 少しでも食べなければならないと頭では分かっていたが、どうしても食べる気になれず、マリアネラはそれらを口にしなかった。

 少量の水でしのいできたマリアネラにとって、サンドイッチだけでは足りないが、この後夕飯もあると聞いた。それで更に食事を所望すのは恥ずかしいことだと思い、我慢した。

「水なら、いいわよね?」

 少しでも自分がいる場所を把握するための散策も兼ねて、水のおかわりをもらおうと、水差しを持って廊下を歩く。

「あら、マリアネラ様ですね?」

 小柄の愛らしい侍女に遭遇した。彼女は愛らしく笑いかけてくれる。

「私は侍女のメリーと申します。マリアネラ様のお世話を、チェセル王子から頼まれました。なんなりとお申し付けください」

「よろしく、メリー。早速なんだけど、お水をいただけるかしら? 喉が渇いて、飲み干してしまったの」

「えぇ、もちろんです」

 メリーは快く水差しを受け取ってくれる。

「もう少しでお風呂の準備ができますからね」

「それは楽しみね。ところで、この階には何があるの?」

「客室がほとんどです。あとはお風呂とトイレくらいです」

 メリーの説明に、少々腹を立てた。この階なら好きにしていいと言っておきながら、客室と水回りしかないのだから。

(でも、奴隷にしては厚遇だから、少しは感謝しないといけないのかも)

 考え直し、メリーと別れ、他の客室を見て回る。どの部屋も立派なものだったが、マリアネラの豪奢の部屋に比べると狭い部屋がほとんどだ。マリアネラの部屋と同じ大きさの部屋は、向かいの部屋のみだった。

 部屋に戻って今後のことを考えていると、メリーが水差しを持ってきた。

「お待たせしました。それと、お体を冷やしてはいけないので、良かったら紅茶もどうぞ」

 メリーはテーブルの上に紅茶と、数枚のクッキーが並べられた小皿を置いてくれた。

「ありがとう。とても嬉しいわ」

「喜んでもらえて、私も嬉しいです。何かあったら、ベルでお呼びくださいね」

「えぇ、ありがとう、メリー」

 メリーははにかむように笑うと、部屋を出ていった。

「少し、頭も休ませないといけないわね」

 マリアネラは、ずっと家族と民のことを考えていた。どうすれば彼らを救い出せるのか。その前に、どうやって居場所を特定するか。だが、疲れ切った頭では、答えは出ない。

 紅茶を飲み、クッキーをかじり、目を閉じる。優しい甘さのクッキーが満腹中枢を刺激し、マリアネラに安心感を与えてくれた。

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