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12.啓介の回想ー結婚したい女たちー

last update Last Updated: 2025-05-21 18:46:43
凛との思いがけない再会に、啓介は過去の彼女たちのことを思い出していた。

「ねえ、いつになったら結婚してくれるの?私じゃダメ?」

20代後半になってから付き合っていた彼女たちから幾度となく言われたこの台詞。

そのたびに『結婚願望がないだけで君が悪いわけではない』と伝えてきたがいつも愛想を尽かされて破局するのだった。結婚したくないための言い訳ではなく、本当に彼女たちは個々に魅力的だと思っていた。

真面目で努力家な人、周りへの気遣いや配慮が抜群な人、仕事や趣味に夢中な人、苦手なことを克服しようと頑張る人など、一緒にいると刺激を貰うことが多かった。

そんな頑張り屋な彼女たちだからこそ『君のせいではない』と言っても、本当は何か私に足りないものがあるのではないかと思わせてしまっていたようだ。自分で自分を追い詰めてしまう彼女たちは別れ際は少し疲れて切なそうな顔をしている。

そうなる前に感謝の意を述べたり、愛の言葉をささやいたりするのだが、『結婚』というゴールに向かっていないことへの失望は他の言葉や行動では満たされないらしい。何人かと結婚が理由で別れてからは、結婚願望がないと事前に伝えたうえで付き合っていた。結婚願望があるのに俺といたら時間の無駄だ。事前に伝えることは、結婚願望がない身としてのせめてものマナーだと思っている。

しかし、中には結婚願望があることを隠していて『付き合ったら変わるかもしれない』という淡い期待を持っているケースもあった。それが凛だった。

「結婚は当人たちがしたければすればいいし、焦ってするものではないよね。」

そう笑っていっていたが交際してしばらく経つと過去の彼女たちのように結婚について言及してきた。

「付き合ったら啓介も変わってくれるかもと信じていたのに。」と泣きわめかれた時は自分が詐欺師にでもなったかのような気分だった。

(結婚に興味がないという言葉を鵜呑みにしてはダメだ。本心で言っている相手でないと傷つけてしまう……。相手にも申し訳ないし貴重な時間を奪ってはいけない。)

それ以降、付き合う人は本心を見極めてからでないといけないと思い、より慎重に選ぶようになっていた。
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