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27.凜が残した傷跡と争う啓介と佳奈

last update Last Updated: 2025-06-07 20:03:15
「あの女性は誰なの?」

啓介の部屋に入ってすぐに、怒り混じった声で私は啓介に問いただした。

「誤解を与えてしょうがいない状況だったけれどやましいことは何もないよ」

「嘘。じゃあなんでキスなんかしていたのよ。あなたはやましい気持ちがなければ誰とでもキスをするの?」

啓介は何か話そうとしていたがその前に私が言葉をかぶせて喋らせようとしなかった。

「そんなことはしない。彼女は……昔付き合っていたんだ。」

「昔?昔の彼女にしては随分仲がいいのね。今も付き合っているみたいだったわ」

私の言葉に啓介は一瞬言葉を失ったようだった。彼の表情は、驚き、戸惑い、そしてほんの少しの罪悪感がないまぜになった複雑なものに変わった。彼は何かを言おうとしたが、私の鋭い視線に射抜かれ言葉を飲み込んだようだった。

乾いた笑いを漏らしながらさらに言葉を続けた。心臓が張り裂けそうなほど痛いのに涙は一滴も出てこない。ただ、彼の言葉を、彼の本心を、確かめなければならないという衝動に駆られていた。

「違う。そうじゃない。本当に誤解なんだ。彼女とはもう何年も会っていなかったし、ただ、偶然再会しただけで……」

啓介は必死に弁解しようとしたが、彼の言葉は私の耳には届かなかった。偶然?再会?そんな言葉で納得するはずがない。あの女性の挑発的な笑み、そしてキス。それらが、彼の言葉を全て嘘だと物語っているように思えた

「偶然?ふーん、偶然ね。偶然にしてはずいぶんと情熱的なキスだったじゃない。彼女、こっちを見て笑ってきてからキスしてたわよ。啓介は私のものとでも言ってみるみたいだった」

私の声は震えていた。それは、怒りなのか、悲しみなのか自分でも分からなかった。

「佳奈、落ち着いて聞いてくれ。確かにキスはした。でも、それは彼女が一方的に…」

「一方的に?じゃあ、あなたはあれでキスを拒否したって言うの?そんな風には見えなかった。本気で言っているの?」

私は、彼の言葉を信じることができなかった。あの時、彼は確かに驚いていた。そしてすぐに彼女をタクシーに押し込み走らせていた。それが、本当にキスされたことに対する驚きだけなのだろうか?ほんの少しでも、喜びや、懐かしさのような感情が混ざっていたとしたら?

「……」

「何も言えないってどういうことよ。久々に彼女にキスされて嬉しかった?懐かしくなって抱きたくなった?タクシーじゃな
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