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37.自由な結婚の真意

last update Last Updated: 2025-06-09 16:46:39

土曜の朝、隣で寝息を立てている佳奈を起こさないよう啓介はそっとベッドから出た。

実は、昨日の夜に佳奈に言っていないことが一つだけあった。それをいうことで佳奈との関係にも影響を与えると考えての事だった。リビングでコーヒーを飲みながら凜の言葉を思い出す。

『啓介が結婚するって聞いてご両親がどう思っているか知りたかった。それとなく聞いたら結婚の気配がなくて心配していると言っていたわ。まだ親に紹介すらしていない関係なら、私にも勝算があると思っているの』

前回会った際に啓介は母と食事に行くことを伝えたが「楽しんできてね」と自分は行く気がない素振りをした佳奈を見て一緒に来るよう誘うのをやめた。

そして、佳奈がプロポーズの時に言っていた『自由のための結婚・余計なお世話から開放』という言葉が引っかかっていた。

(もし佳奈が俺の両親と逢うこと自体を嫌がって自由のための結婚だから嫌と拒んで来たら……?)

今後も自分の親とは他人のように接するのかと思ったら今までの親たちの愛情を急に思い返して切なくなったのだった。凜の行動も恐怖を感じたが嬉しそうに談笑する母の顔を見てほんの少しだけ微笑ましくもなった。

(佳奈は本音で俺にぶつかってきている。俺も佳奈の本当の気持ちを確か

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