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5.両親を味方につけて外堀から固めてやる

last update Last Updated: 2025-05-14 19:07:43

日曜日、穏やかな春の陽光が差し込む中、私は緊張した面持ちで啓介の母が主宰する料理教室に参加していた。エプロンを身につけた参加者たちが和やかに談笑している。私は、自分が啓介の知人、しかも元恋人だということは悟られないように控えめな笑顔で受付を済ませた。

教室では旬の野菜を使った家庭料理がテーマだった。

私は熱心に講師である啓介の母の説明に耳を傾け、手際の良い調理を見よう見まねでこなしていく。周りの参加者たちとも積極的に会話を交わし、和やかな雰囲気を作り出すことに努めた。

啓介の母は、物腰が柔らかく参加者一人ひとりに丁寧に話しかけていた。私は、さりげなく彼女の近くに立ち料理のコツなどを質問することで少しずつ距離を縮めていった。

料理教室が終わり、参加者が帰っていったタイミングを見計らって私は啓介の母に話しかけた。

「先生、今日の鶏肉の照り焼き、味がしっかり染みていて本当に美味しかったです!」

「あら、嬉しい。良かったらまた来てくださいね」

「はい、これからも色々と教えてください。先生のお料理が毎日食べられるなんてご家族の方は幸せですね。」

「ふふふ、ありがとうございます。でも、もう息子も大きくなって夫と二人だから普段はここでやるような料理はしないのよ。料理を教えているのにこんなこと言っちゃだめね」

そう言って悪戯っぽく笑う姿はとてもチャーミングだった。その後も会話が続き、料理のこと、家族のこと、趣味のこと。そして、啓介の母がふと息子の話をし始めた時、私はすかさず用意していた言葉を口にした。

「息子さん成人されて今は遠くにいらっしゃるんですか?」

「立川ってところにいるわ、ここから電車で30~40分ほどのところなの」

「え、本当ですか?私その近くに住んでいます。」

「まあ、そうなんですか?わざわざ来てくださってありがとうございます。」

「とんでもないです。楽しみにしていましたしあっという間に着きました。」

「あら、息子もそう言って頻繁に帰ってきてくれたらいいのに。」

啓介の母はそう言って笑っていた。啓介の話をしていると自然と笑みが零れており愛されて育ったのだろうと感じられる。

私は先程の趣味の話から満を持して切り出した。

「そう言えば再来週、啓介さんの住んでいる近くのホールで先生が先程お好きと言っていた作家の展覧会があるんです。私も興味があって行ってみようと思っていて…
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  • 永遠の愛は誓わない秘密の結婚生活   2.自由のための結婚

    「婚前契約書……?」「婚前契約書って言うのはね、入籍をする前に今後のルールを決めていくの。財産分与やハラスメント・浮気とかが多いけれど内容は自分たちで自由に決めていいの。海外では資産家や芸能人が当たり前のように結んでいるわ。」「婚前契約書というのは分かったよ。でも、著名人でもない俺たちがわざわざ契約書を作成、締結にする意図は何かな?」「著名人の場合は、金銭面の対策だけれど私たちは違うわ。『自由』のための契約。お互いが親族や社会から色眼鏡で見られたり、『余計なお世話』と思うことから開放されるための契約なの。」「余計なお世話からの開放……。」「啓介も長男だから結婚して跡取りが欲しいとかご両親からよく連絡くるでしょ?でもそれって親の都合だと思わない?そこに啓介の意思はないじゃない。意思がないのにこれから何十年も一緒にいる相手を選べっておかしな話だと思わない?」この言葉は啓介に響いたようで、考え事をするように真剣な目つきになっていた。以前、啓介の両親が縁談の話を勝手に進めていたそうだ。興味がないのに女性と会うことに気が引けたのと万が一自分以外が結婚に前向きになったらと考え会うこと自体を丁重に断ったそうだが、気が重かったと話していた。私の言葉にただ丸め込まれるのではなく、一方的に無理だと否定するわけでもなく、冷静に物事を考え慎重に事を進めようとするところも私は好きだ。自由とは言ってもリスクは伴う。様々な角度から物事を捉えようとする啓介だからこそ私はこの話を持ち出したのだ。「確かに魅力的だね。結婚したら今度は会うたびに子どもってうるさそうだけど……。」「だから、その煩わしいことを止めるの。親戚づきあいはどうするとかお互いが楽しく暮らせるために話し合って契約書を作っていこう!とりあえずやってみようよ。」「……。」啓介はしばらく黙り込んでいた。私は、啓介から発せられる言葉を緊張した面持ちで待っていたが、あまりに長いので目の前にあるティラミスを堪能することにした。(はああ~さすが人気店のティラミス。コンビニも十分美味しいけれど別格。口に入れた瞬間のマスカルポーネも滑らかさも上にかかっているコーヒーの香りも主張し過ぎなくて最高。)私がティラミスに舌鼓を打ち微笑んでいると、啓介も小さく笑いだした。「ふふふ、こんな話を持ち出しておいて自分はティラミスを楽しんでい

  • 永遠の愛は誓わない秘密の結婚生活   1.プロポーズは突然に

    「ねえ啓介?私たち、結婚しよう」週末の日曜日、予約が取れない人気のフレンチレストランで食事をしながら彼氏の啓介にプロポーズをした。「え、佳奈?どうしたの?急に?」啓介はティラミスを食べる手を止めて、驚いた顔をして私を見ている。「啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」ーーーーーーーーーー時を遡ること、3分前。「啓介。私のこと、好き?」「ん?どうしたの急に。」女性の扱いに慣れている啓介は私の手に自分の手を重ねてきた。「好きか嫌いかで言ったら好き?」「え、もちろん。佳奈のことが好きだよ。だから付き合っているんじゃないか。」「良かった。私も啓介が好き。だから、私たち結婚しよう」私は宣言するように声を張って言った。「え、今、なんて?」聞こえていないはずはないのだが、啓介は聞き返す。「だから、結婚。啓介、結婚しよう。」「え、佳奈?どうしたの?急に?」啓介は目を丸くして驚いている。先程までの優しい微笑みは姿を消し困惑とどのような返答をしようか考えているようだった。「佳奈、なんでそうなったか聞かせてもらえないかな。この前、同僚が結婚したと話をした時に君は結婚の意味が分からないって否定的なことを言ってたよね。それが今日は急に結婚しようだなんて。言っていることが矛盾していると思うんだ。」啓介は手を額に当てて厄介なことになったと言う顔でこちらを見ている。彼は結婚願望がない。『結婚できない男』ではなく『結婚したくない男』だった。しかし、そんなことは気にせずに私は続けた。「結婚の意味が分からないのは今でもそうだよ。啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」「……ごめん、意味が分からない」「啓介はなんで結婚したくないんだっけ?」「それは……別に一人の生活に不自由もないし困っていないからだよ。一人でも生活できるスキルはあるし好きなことも出来る。」周りから結婚して金銭面や時間の面で自由がなくなったと聞いていて、今の生活を楽しみたい啓介は否定的らしい。「そう、私もなの!仕事が好きでこれからもっと上に行きたい。遊びやプライベートも充実させたいけど一番したいことは出世。出世してお金を稼いで自分の好きなこともして自由を手に入れたいの。」「それなら今の関係のままで良くない

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