LOGIN言った瞬間、エリオット自身が少し驚いた。 こんなふうに返すつもりはなかった。 ハルベルトも驚いたようだった。 すぐに表情を戻したが、目は冷えていた。 「若いですね」 「はい」 エリオットは、今度は逃げずに答えた。 「若いので、古い帳簿を疑うところから始めます」 記録室が静かになった。 数人がこちらを見ている。 ハルベルトは、しばらくエリオットを見下ろしていた。 「孤立しますよ」 低い声だった。 忠告にも、脅しにも聞こえる。 エリオットは赤字の入った帳簿を見た。 小さな赤い文字。 確認費相当。 それは、自分が財務院の慣例に初めて入れた赤
クラリスは羽根ペンを取った。 新しい紙に書く。 確認費相当支出の歴史的存在 その下に続ける。 問題点:名目分散により、制度上の必要経費として認識されず、削減・流用・無償化が容易になった。 オスカーが、横で感心したように頷いた。 「非常に明確です」 「エリオット監査官の資料が明確だからです」 クラリスがそう言うと、エリオットは一瞬返事に困った。 財務院では、こういう褒められ方をあまりされない。 少なくとも、古い帳簿に赤を入れたことを評価されることはない。 「ありがとうございます」 彼は少し遅れて答えた。 その時、イリスが茶を置いた。 「監査官様も、
慈善物資費。 孤児院支援費。 施療院冬季支援費。 社交界寄付品整理費。 雑費。 臨時謝礼。 輸送補助。 記録整理手当。 その中に、気になる項目があった。 孤児院冬物受領確認 馬車代・書記手当 エリオットは目を止めた。 確認費ではない。 だが、内容は確認費そのものだった。 孤児院へ冬物が届いたか確認するための馬車代と書記手当。 別の年にも、似た項目がある。 施療院包帯布現物確認 臨時女官手当 さらに別の帳簿。 寄付毛布受領先巡回 記録紙代 エリオットの指が、紙の上で止まった。 あった。 確認費は、昔からあったのだ。
財務院記録室には、朝から人の声が少なかった。 いや、正確には声そのものはある。 紙を運ぶ書記官の短い返事。 帳簿棚の鍵を求める係官の声。 数字を読み上げる監査補佐の低い声。 遠くで誰かが咳払いする音。 けれど、誰も余計なことを話さない。 昨日までなら聞こえていたはずの雑談が、今日は消えていた。 理由は分かっている。 確認費。 その言葉が、財務院の空気を悪くしていた。 エリオット・グレインは、古い帳簿を机の上に置いた。 若手監査官。 それが彼の肩書きである。 まだ財務院内では軽い立場だ。 意見を求められることはあっても、最終判断をする席
次に確認できる空欄は、よい空欄。 王宮筆頭実務顧問室でその報告を読んだクラリスは、小さく息を吐いた。 「ローゼン侯爵夫人らしい言葉ですね」 イリスが茶を置く。 「社交界向けとして、非常に強い言葉でございます」 「ええ」 クラリスは頷いた。 机の上には、今日の茶会で集まった試記入用紙の写しがある。 実際の書類ではない。 だが、練習記録として十分に価値がある。 どこで夫人たちがつまずいたか。 どの欄を嫌がったか。 どの言葉なら受け入れやすいか。 どの不安が強いか。 それが分かる。 「社交界標準様式の説明書を直しましょう」 クラリスは言った。
扇の動きが少し止まった。 屋敷の内情を見られる。 そう思えば嫌だ。 しかし、屋敷がきちんと動いていた証。 そう言われれば、受け止め方が変わる。 「もちろん、侍女の控えだけで誰かを責めることはありません。けれど、正式記録と違いがあった時、そこから確認できます。空欄があった時も同じです」 ホルスト伯爵夫人が、そこでわずかに反応した。 「空欄」 「ええ」 ローゼンは、彼女へ視線を向ける。 「空欄は恥ではありませんわ。確認できていないという事実です」 ホルスト伯爵夫人は、昨日の追加確認依頼を思い出しているのだろう。 彼女の表情には、不快感と納得が半分ずつ混じって







