LOGIN会議室の視線が、ミレーヌに集まった。 かつて「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言った少女。 その彼女が今、布の用途を分け、補填対象を説明している。 クラリスは、黙って聞いた。 助け舟は出さない。 今は、ミレーヌの仕事だ。 ミレーヌは一度言葉に詰まりかけた。 その時、リーナが隣で小さく資料を指した。 ミレーヌはそれを見て、頷き、続けた。 「また、再仕立て品については、元の寄付品、回収者、再仕立て業者、最終受領先を別欄にしました。途中で消えないようにするためです」 国王が静かに言った。 「よく整理されている」 ミレーヌの目が大きくなる。 「ありがと
セルゲイは静かに頷いた。 「承知しました」 短い返答。 だが、その一言で、会議室の空気が少しだけ変わった。 相手国へ責任を押しつけない。 こちらの問題として引き受ける。 その姿勢は、外交上も必要だった。 第三章。 最も重い部分だった。 「本件を可能にした制度的欠陥について報告します」 クラリスは、一度だけ息を整えた。 「王妃執務院では、王妃陛下のご体調悪化後、月次確認が季節ごとの一括確認へ移行しました。その結果、未着や品質違いが早期に発見されにくくなりました」 王妃エレオノーラは、静かに頷いた。 逃げない。 自分の執務院の弱体化も、記録として受
支えるためのお金と物が、本当に支える先へ届いたか確認する。 クラリスは、その一文を見て頷いた。 「持っていきます」 ミレーヌの顔が明るくなる。 けれど、すぐに引き締めた。 「はい。お願いします」 「あなたも同席します」 「え?」 ミレーヌが目を見開いた。 「でも、私は」 「第六章の様式案作成者です。必要があれば説明してください」 「私が、陛下の前で?」 声が裏返りかけた。 クラリスは少しだけ微笑む。 「一人ではありません。わたくしも、オスカー様も、リーナもいます」 ミレーヌは不安そうに紙を握りしめかけ、慌てて力を緩めた。 それから、深く息を吸う。
報告書は、朝の光の中で見ると、昨夜よりも重く見えた。 王宮臨時顧問室の机に置かれたそれは、一冊の本のような厚みになっていた。 表紙には、濃い黒の文字でこう記されている。 慈善物資流通不正および非公式業務搾取に関する調査報告 ――王太子妃教育関連支出、社交界慈善記録、ならびに受領確認制度の欠陥について 題名だけで、王宮の傷口を開くようだった。 クラリスは、その表紙にそっと手を置いた。 紙は冷たい。 だが、その中には熱がある。 南施療院で震えた人々の夜。 孤児院に届かなかった冬服。 見習い令嬢エルシアの小さな覚書。 ミレーヌの五欄様式。 ローゼン
部屋が静かになった。 ジュリアスは自分で書き換えた。 王太子府における署名確認の形骸化。 クラリスは、その文字を見た。 重い。 だが、正しい。 「よろしいのですか」 オスカーが確認する。 ジュリアスは苦く笑った。 「よくはない。だが、弱く書けば、また同じことをする」 レオンハルトが静かに頷いた。 「それでよい」 兄弟の間に、短い沈黙があった。 以前なら刺々しくなっていたかもしれない。 だが今日は違った。 ジュリアスは自分の責任を見ている。 レオンハルトはそれを見届けている。 少しずつだ。 全員が、少しずつ変わっている。 夜が
「疲れたお嬢様が百二十七枚を確認するより、皆様で分担した方が、見つかる間違いは多いでしょう」 「……そうね」 「そして、もし残ったら直せばよろしいのです」 クラリスは、茶の水面を見つめた。 もし残ったら直す。 その考え方を、自分は長く持てなかった。 間違ってはいけない。 抜けてはいけない。 自分が防がなければいけない。 そう思っていた。 でも、報告書自体が教えている。 完璧な人間に頼る制度は壊れる。 間違いを見つけて直す仕組みが必要なのだ。 「イリス」 「はい」 「あなたがいてくれてよかった」 イリスは一瞬だけ動きを止めた。 それから、







