LOGIN「……クラリス顧問が」 「進行中案件への影響照会があった」 グレゴールは、少しだけ目を細めた。 「君個人を守る文面ではなかった」 「はい」 「だから止まった」 エリオットは、その意味をゆっくり理解した。 もしクラリスが「エリオットを異動させないでほしい」と言ったなら、財務院は反発しただろう。 王宮筆頭実務顧問が財務院人事に介入したと。 自分も、さらに居づらくなったかもしれない。 だが、進行中案件への影響確認。 担当者、代替人員、日付、引き継ぎ。 その記録が、人事案を止めた。 「参事官」 「何だ」 「私は、この三件を続けてよろしいのでしょうか」 「
後から「そんな意味ではない」と言いづらい。 「クラリス顧問」 グレゴールは低く言った。 「あなたは、エリオット監査官を守ろうとしているのですか」 また、真正面から来た。 クラリスは、少しだけ間を置いた。 以前なら、ここで感情が出たかもしれない。 はい、守りたいです。 彼は必要な人材です。 不当に飛ばすべきではありません。 そう言いたい。 だが、今は違う答えが必要だった。 「私は、進行中の仕事を守ろうとしています」 クラリスは言った。 グレゴールは黙って見る。 「確認費基準草案、過去確認費相当支出一覧、北方慈善交易路共同調査。これらは、財務院だ
四、代替担当者。 未定。 クラリスは、そこで羽根ペンを置いた。 「未定」 オスカーが呟く。 「非常にまずいですね」 「ええ」 進行中案件が三つある。 しかも、そのどれもが改革の中核に近い。 それなのに代替担当者が未定。 経験付与という名目にしては、引き継ぎが雑すぎる。 五、本人への事前説明。 未実施。 イリスが静かに言った。 「これは、急いでおりますね」 「はい」 クラリスは二枚目の照会文を作った。 今度は、さらに具体的に。 追加照会 一、代替担当者未定のまま異動候補に入れた理由。 二、確認費基準草案の完成予定日への影響。
「まず、記録です」 クラリスは自分に言い聞かせるように言った。 イリスが頷く。 「はい」 オスカーは、すでに白紙を用意していた。 さすがだった。 「照会項目を整理します」 クラリスは椅子に座り直し、羽根ペンを取った。 まず、見出し。 財務院人事候補案に関する確認事項 一、異動案が作成された日付。 二、候補者選定の基準。 三、エリオット・グレイン監査官の現在担当案件。 四、確認費基準草案作成への関与状況。 五、北方慈善交易路共同調査案への担当予定。 六、異動後の代替担当者。 七、異動理由の詳細。 八、財務院内規における人事候補選定手
財務院の人事異動案は、いつも何気ない顔で回ってくる。 大きな封筒でもない。 赤い紐で縛られているわけでもない。 重大案件を示す封蝋が押されているわけでもない。 ただの薄い紙束。 表題も、淡々としている。 地方財務出張所配置候補者一覧 それだけだった。 だからこそ、恐ろしい。 人を遠ざける時、王宮は怒鳴らない。 処罰とも言わない。 左遷とも書かない。 経験を積ませる。 地方実務を学ばせる。 人員の均衡を図る。 将来のために幅を持たせる。 そういう、反論しづらい言葉で包む。 エリオット・グレインの名は、その一覧の三番目にあった。
「でしょうな」 それは、今日初めて少しだけ柔らかい声だった。 会議が終わった後、エリオットがクラリスへ近づいた。 「クラリス顧問」 「はい」 「先ほどの条件整理、助かりました。財務院側からも、交易利益と慈善物資を分ける理由が立ちます」 「あなたの発言があったからです」 エリオットは少しだけ目を伏せた。 「財務院内では、また嫌がられると思います」 「でしょうね」 「でも、財務院のためにも必要だと思います」 「はい」 クラリスは、少し声を低くした。 「無理をしすぎないでください」 エリオットは苦笑した。 「それは、クラリス顧問に言われると不思議です」 「最







