LOGINミレーヌは両手で杯を受け取った。 夕方、王弟府からレオンハルトが顧問室を訪れた。 彼は現物保全報告の写しを読み、表情を変えなかった。 だが、目だけは鋭かった。 「一梱だけか」 「現時点では」 「端印が違う」 「はい」 「封印は保たれていた」 「港湾到着時、倉庫搬入時、仕立て場到着時、すべて破損なしです」 「なら、封印前だな」 「その可能性が高いです」 レオンハルトは資料を机に置いた。 「王弟府は、ギデオン・マースとハーゲン補助官の足跡と並行して、NVT-S-007の梱包前経路を確認する」 「リーヴェ商会も?」 「もちろんだ」 クラリスは頷いた。 「た
「あり得ます。港では似た荷が並ぶこともある。だが、今回は封印が保たれていた。港と倉庫で外装に問題はなかった」 「つまり」 エリオットが続ける。 「中身の違いは、封印前に起きていた可能性が高い」 セリアが表情を硬くした。 「輸出元か、商会引渡後か」 「はい」 「ノルヴァルト側への照会も必要ですね」 「必要です」 クラリスは頷いた。 「輸出元記録、商会引渡書、梱包時確認者、端印確認、同日発送の別等級布。この五点を照会します」 オスカーがすぐに書き取る。 ミレーヌも、自分の控えに同じ項目を書いた。 その手は、さっきより少し落ち着いている。 クラリスは、それを
王弟府調査官カレルが、静かに一歩進み出た。 「現物保全袋を用意しています」 彼の声は淡々としている。 王弟府の人間は、こういう時に余計な感情を挟まない。 それがありがたい時もあれば、少し怖い時もある。 布は、折り目を変えないよう慎重に畳まれ、端印が見える形で保全袋に入れられた。 袋には番号が振られる。 現物不一致一号。 その文字を見た瞬間、ミレーヌの喉が少し鳴った。 一号。 つまり、これから二号、三号が出る可能性もある。 クラリスは、その視線に気づいた。 「現時点では一号です」 静かに言う。 「増えるかどうかは、調査しなければ分かりません」
違う布は、黙ってそこにあった。 王妃執務院指定仕立て場の長机の上。 ほかの十一梱から出された北方厚織毛布地と並べられていると、その一枚だけが、妙に心もとなく見えた。 色は近い。 灰色に、わずかな青み。 遠目には同じ北方毛織物に見える。 だが、指で押すと違う。 厚みが足りない。 布の目が少し甘い。 毛の詰まりも浅い。 何より、端印が違った。 ノルヴァルト公認商会の鹿角印ではなく、簡略化された別の商会印。 それは、帳簿の上では小さな違いかもしれなかった。 しかし、仕立て場の針子たちにとっては違った。 触れば分かる。 裁てば分かる。 縫
分からない。 だから、書く。 「ミレーヌ」 「はい」 ミレーヌの声は少し震えていた。 「不一致記録を」 ミレーヌは羽根ペンを握った。 手が震えている。 だが、紙へ向かった。 用途追跡木札番号 NVT-S-007。記録上用途、施療院保温布用。輸出元目的、施療院病床用。現物、厚み不足。端印相違。等級不一致の疑い。要調査。 ニナが、低い声で言った。 「この布じゃ、病床の子は寒いです」 その一言が、誰よりも重かった。 財務院の数字よりも。 王宮の制度よりも。 商会の説明よりも。 布を裁つ手が知っている重さだった。 クラリスは、静かに頷いた。
レオンハルト本人はいない。 だが、王弟府調査官カレルが一歩だけ動いた。 ただ、それだけだった。 マルティンの表情が変わる。 彼は、ここで押し切れないと判断したらしい。 「……では、確認済みになるまで待ちます」 「待つのではなく、補足書類を提出してください」 ダンが言った。 「搬出先の正式名、変更理由、確認者名、用途木札番号」 マルティンは、悔しそうに紙を引っ込めた。 「商会へ戻って確認します」 「戻るなら、未搬出として記録します」 ダンは台帳に書いた。 リーヴェ商会代理人マルティン・ケイル、搬出変更を求める。用途追跡木札確認欄空欄、搬出先不特定のため未







