あなたの旦那/彼氏、書き殺しますーー離婚するほどじゃない夫専門店

あなたの旦那/彼氏、書き殺しますーー離婚するほどじゃない夫専門店

last updateÚltima actualización : 2026-09-28
Por:  AmyActualizado ahora
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古い雑居ビルの3階。 少し重たいドアには、白い紙が1枚貼られている。 あなたの旦那/彼氏、書き殺します。 その下には、小さな文字で―― ※現実世界への効力はありません 店主は小説家。ここを訪れるのは、旦那や彼氏に言いたいことを溜め込んだ女性たちだ。 「本日は、旦那様ですか? 彼氏様ですか?」 愚痴を聞き終えた店主が差し出すのは、A・B・C、3つのメニュー。 Aは気づかせる。 Bは因果応報。 そしてCは――物語の中で完全に書き殺す。 離婚するほどじゃない。でも、今日だけはちょっと消えてほしい。 そんな女たちのために、今日も店のベルが鳴る。

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Capítulo 1

Case 01 今日の飯、どうする?(1/3)

「いらっしゃいませ」

私は、目の前の女性に椅子を勧めた。

「本日は、旦那様ですか? 彼氏様ですか?」

女性は一瞬、戸惑ったように瞬きをした。

「……夫です」

「かしこまりました」

私は赤いペンのキャップを外し、受付票を1枚取り出した。

店の名前はない。

正確には、大きな看板を出していない。

古い雑居ビルの3階。

少し重たいドアに、白い紙が1枚貼られているだけだ。

あなたの旦那/彼氏、書き殺します。

その下には、さらに小さな文字で、

※現実世界への効力はありません

とある。

私は小説家だ。

売れているかと聞かれると困る。

ただ、人の旦那を小説の中で懲らしめる仕事だけは、なぜか途切れない。

受付票の右上に番号を書く。

001

「奥様のお名前を伺っても?」

「高橋沙織です。38歳」

「ご主人は?」

「誠。42歳です」

私は順番に記入していった。

受付番号:001

対象:夫

夫:42歳

妻:38歳

結婚歴:9年

子ども:小学2年生の娘1人

本日の罪状:未記入

常習性:確認中

妻の我慢度:★★☆☆☆

本日の殺意:★★☆☆☆

希望コース:未定

私は受付票から顔を上げた。

「ではまず――」

いつもの質問をする。

「今日、何をされました?」

沙織さんは困ったように笑った。

「今日じゃなくて、昨日なんですけど」

「問題ありません」

「こんなことで来てもいいのかなって」

「内容を伺ってから判断します」

「あの……昨日、熱が出たんです」

「何度ですか?」

「39度2分」

赤いペンが止まった。

「高いですね」

「はい」

小学2年生の娘を迎えに行き、夕食を食べさせ、風呂に入れ、自分は薬を飲んでベッドへ倒れ込んだ。

夫は仕事だった。

そこまではいい。

夜8時過ぎ。

玄関のドアが開いた。

「ただいまー」

誠さんは寝室を覗いた。

「大丈夫?」

ここまではいい。

「薬飲んだ?」

これもいい。

問題は、その3秒後だった。

「で、今日の飯どうする?」

私は黙って受付票へ視線を落とした。

本日の罪状:39度2分の妻に夕食の判断を求める

と書く。

沙織さんが私の手元を見た。

「……分かります?」

「もう少し詳しく伺います」

「はい」

「ご主人は『作って』と言ったんですか?」

「それは言ってないんです」

「では?」

「『俺、何か買ってくるよ』って」

「それだけ聞くと、親切ですね」

「そうなんです!」

沙織さんが身を乗り出した。

「そこなんです!」

私は赤いペンを構え直した。

「続けてください」

「『何買えばいい?』って聞くんですよ」

「はい」

「知らないよって思いません?」

「39度2分ですからね」

「だから『何でもいい』って言ったんです」

「すると?」

沙織さんは、少し低い声で夫の真似をした。

「『何でもいいが一番困るんだよね』って」

私は何も言わず、受付票を書き直した。

妻の我慢度:★★☆☆☆ → ★★★☆☆

「あ」

沙織さんが気づいた。

「増えました?」

「こちらの判断です」

彼女が吹き出した。

「でも、これだけじゃないんです」

「でしょうね」

「え?」

「いえ。続けてください」

夫がスーパーへ行けば、

『マヨネーズどれ?』

と写真が送られてくる。

家の中にいるのに、

「俺の靴下どこ?」

テレビのリモコンが見つからなければ、

「最後に使ったの誰?」

旅行の日には、自分のバッグだけ持って玄関に立ち、

「まだ?」

娘を1時間公園へ連れて行った日には、

「今日、俺かなり育児したよな」

私は淡々と書き足していった。

常習性:常習

主な症状:妻を家庭内検索エンジンとして使用

「この前なんて」

沙織さんの声が少し低くなった。

「トイレットペーパーを使い切ったんです」

「はい」

「芯だけ残してありました」

「ご主人が最後に使ったのは確実ですか?」

「間違いありません」

私は追記した。

追加罪状:最後の1ミリを使用した者としての責任を放棄

沙織さんが受付票を覗き込む。

「そこまで書くんですか?」

「記録は正確に残します」

「病院みたいですね」

「似たようなものです」

「どこが?」

「溜めすぎると悪化します」

沙織さんは、また笑った。

けれど、その笑顔はすぐに消えた。

「でも私も分かってるんです」

「何をですか?」

「こんなの、大したことじゃないって」

彼女は指先を見つめた。

「浮気してるわけじゃないし、暴力もない。ギャンブルもしない。ちゃんと働いてるし、娘のことも可愛がってます」

「はい」

「だから、夫は悪い人じゃないんです」

私は赤いペンで、その言葉を丸で囲んだ。

夫は悪い人じゃない。

この店へ来る女性が、よく口にする言葉だ。

「離婚したいわけでもないんです」

「はい」

「ただ……」

彼女はしばらく考えてから、小さな声で言った。

「たまに、1回だけ消えてくれないかなって」

私は受付票を見る。

本日の殺意:★★☆☆☆

少し考えて、

★★★☆☆

にした。

「また増えた」

「妥当かと」

私は受付票を閉じた。

「高橋様」

「はい」

「当店では、離婚理由は必要ありません」

机の下から、黒い革張りのメニューブックを取り出す。

表紙には金色の文字。

WRITING KILL MENU

沙織さんの目が止まった。

私はそれを、彼女の前へ静かに差し出した。

「では、本日のメニューをご案内します」

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Case 01 今日の飯、どうする?(1/3)
「いらっしゃいませ」私は、目の前の女性に椅子を勧めた。「本日は、旦那様ですか? 彼氏様ですか?」女性は一瞬、戸惑ったように瞬きをした。「……夫です」「かしこまりました」私は赤いペンのキャップを外し、受付票を1枚取り出した。店の名前はない。正確には、大きな看板を出していない。古い雑居ビルの3階。少し重たいドアに、白い紙が1枚貼られているだけだ。あなたの旦那/彼氏、書き殺します。その下には、さらに小さな文字で、※現実世界への効力はありませんとある。私は小説家だ。売れているかと聞かれると困る。ただ、人の旦那を小説の中で懲らしめる仕事だけは、なぜか途切れない。受付票の右上に番号を書く。001「奥様のお名前を伺っても?」「高橋沙織です。38歳」「ご主人は?」「誠。42歳です」私は順番に記入していった。受付番号:001対象:夫夫:42歳妻:38歳結婚歴:9年子ども:小学2年生の娘1人本日の罪状:未記入常習性:確認中妻の我慢度:★★☆☆☆本日の殺意:★★☆☆☆希望コース:未定私は受付票から顔を上げた。「ではまず――」いつもの質問をする。「今日、何をされました?」沙織さんは困ったように笑った。「今日じゃなくて、昨日なんですけど」「問題ありません」「こんなことで来てもいいのかなって」「内容を伺ってから判断します」「あの……昨日、熱が出たんです」「何度ですか?」「39度2分」赤いペンが止まった。「高いですね」「はい」小学2年生の娘を迎えに行き、夕食を食べさせ、風呂に入れ、自分は薬を飲んでベッドへ倒れ込んだ。夫は仕事だった。そこまではいい。夜8時過ぎ。玄関のドアが開いた。「ただいまー」誠さんは寝室を覗いた。「大丈夫?」ここまではいい。「薬飲んだ?」これもいい。問題は、その3秒後だった。「で、今日の飯どうする?」私は黙って受付票へ視線を落とした。本日の罪状:39度2分の妻に夕食の判断を求めると書く。沙織さんが私の手元を見た。「……分かります?」「もう少し詳しく伺います」「はい」「ご主人は『作って』と言ったんですか?」「それは言ってないんです」「では?」「『俺、何か買ってくるよ』って」「それだけ聞くと、親切ですね」「そうなんです!」沙織さ
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Case 01 今日の飯、どうする?(2/3)
「まず、Aコースです」私はメニューブックを開いた。Aコース『気づいてください、あなたの妻は家政婦ではありません』24時間、ご主人に奥様の頭の中を体験していただきます。洗剤の残量。娘の歯医者。学校の集金。麦茶。トイレットペーパー。クリーニング。来週の義母の誕生日。賞味期限が明日の豆腐。冷蔵庫の奥で3日前から静かに死にかけている半分の玉ねぎ。それらすべてが、脳内通知としてご主人へ送信される。「ピコン」沙織さんの眉が寄った。「……嫌ですね」「朝6時から開始します」「何時まで?」「翌朝6時まで」「寝てても?」「当然です」「怖い」「Aですので軽めです」「これで軽いんだ……」私はページをめくった。「続いて、Bコース」Bコース『名もなき家事・因果応報地獄』ご主人が、「靴下どこ?」と聞けば、靴下が逃げます。「リモコンどこ?」と聞けば、見つけるたびに30センチ先へ移動します。トイレットペーパーの芯を放置すると、翌朝2本。次の日は4本。その次は8本。「最終的には?」「家が芯で埋まります」沙織さんが笑い始めた。「そこでご主人が『なんでこんなことになってるの?』と口にすると」「はい」「すべての芯が一斉に答えます」私は真顔で言った。「お前だよ」沙織さんが口元を押さえた。「ちょっと見たい」「Bも人気です」「人気なんですね」「正式な統計はまだありません」「ないんだ」私は最後のページを開いた。「そして、Cコース」沙織さんの背筋が少し伸びる。Cコース『完全書き殺し』「……死にます?」「死にます」「本当に?」「小説の中で」「ですよね」「そこは非常に重要です」私は受付票を確認する。「ご主人が最もよく口にする言葉は?」「『どこ?』ですね」「例えば?」「財布どこ? 充電器どこ? 爪切りどこ? 醤油どこ?」「ちなみに醤油は?」「冷蔵庫のドアポケット」「毎回?」「毎回」私は書いた。自力探索能力:著しく低い「ほかには?」沙織さんが考える。「あ」「はい」「やっぱり、これです」少し低い声で夫を真似した。「今日の飯どうする?」私は赤いペンを置いた。決まった。「Cコースでは、それを使いましょう」「夕飯を?」「はい」「夕飯で人って死ねるんですか?」「
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Case 01 今日の飯、どうする?(3/3)
夫が目を覚ますと、体が燃えるように熱かった。体温計を脇から抜く。39.2℃「うわ……最悪」妻はいない。娘もいない。テーブルの上にメモが置いてあった。買い物に行ってきます。寝ててね。いい妻だ。夫はそう思った。喉が渇いた。「水……」冷蔵庫まで行くのが面倒だ。いつもなら妻に、「水取って」と言えば済む。だが今日は誰もいない。仕方なく体を起こした。その瞬間。ピンポーン。インターホンが鳴る。宅配便だった。荷物を受け取り、ようやく寝室へ戻ろうとする。今度はスマートフォン。娘の学校からだ。『来週の持ち物について――』知らない。妻に聞けばいい。そう思った瞬間、洗濯機が鳴った。ピー。ピー。ピー。「何だよ……」止めに行く。今度は炊飯器。ピーピー。食洗機。ピピピ。給湯器まで、『お風呂が沸きました』と喋り始めた。「知らねえよ!」夫が叫ぶ。突然、家中が静かになった。リビングの床に、白い紙が1枚落ちている。では、本日の夕飯を決めてください。「……は?」玄関のドアが開いた。見知らぬ男が1人入ってきた。「今日の飯、何?」「誰だよ!」男は答えない。その後ろから、また男。「俺、何でもいいよ」3人目。「何でもいいけど魚は嫌」4人目。「昨日カレーだったから、それ以外」5人目。「簡単なのでいいよ」「ちょっと待て!」男たちは増えていく。10人。20人。50人。100人。全員が夫を見る。「今日の飯どうする?」「何食う?」「俺、何でもいい」「でもそれは嫌」「簡単なのでいい」「腹減った」夫は頭を抱えた。「自分で考えろよ!」その瞬間。100人の男たちが、ぴたりと黙った。全員が同じ角度で首を傾げる。「え?」「……」「それ、誰の仕事?」夫の背中を冷たい汗が流れた。逃げる。キッチンへ飛び込む。冷蔵庫を開ける。食材はある。キャベツ。豚肉。卵。豆腐。人参。冷凍したひき肉。ちゃんとある。でも――何を作ればいいのか分からない。夫はスマートフォンを手に取った。妻へ電話する。プルルル。プルルル。「もしもし!」『どうしたの?』「今日、飯どうする?」沈黙。『あなたが決めて』「俺、熱あるんだけど!」『知ってるよ』「39度2分!」『
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Case 02 既読はつく。でも返事は3日後(1/3)
「いらっしゃいませ」私は、目の前の女性に椅子を勧めた。「本日は、旦那様ですか? 彼氏様ですか?」「彼氏です」「かしこまりました」私は新しい受付票を1枚取り出した。右上に番号を書く。002女性は29歳。佐々木奈々さん。彼氏は31歳の会社員。交際2年6か月。結婚の話は、まだ出ていない。私は赤いペンのキャップを外した。受付番号:002対象:彼氏彼氏:31歳彼女:29歳交際期間:2年6か月本日の罪状:未記入常習性:確認中彼女の我慢度:★★☆☆☆本日の殺意:★☆☆☆☆希望コース:未定「ではまず――」私はいつもの質問をした。「今日、何をされました?」奈々さんは少し考えた。それから、困ったように言った。「……何もされてないんです」「何も?」「はい」彼女はバッグからスマートフォンを取り出し、テーブルの上に置いた。「何も、返ってこないんです」私は画面を見る。3日前。奈々さんから送られたメッセージ。今週の日曜どうする?その下には、既読の2文字。返信はない。「既読は、つくんです」「はい」「必ずつくんです」「はい」「でも返事が来るのは、だいたい3日後なんです」私は受付票へ書いた。本日の罪状:読む能力あり。返信能力なし。奈々さんが覗き込む。「……そう書くんですか?」「現状、最も正確かと」「でも、仕事が忙しい人なんです」「なるほど」「会ったら普通なんですよ。優しいし」「はい」「デートもします」「はい」「浮気してる感じもないし」「はい」「だから私が細かいのかなって」出た。私は赤いペンで、その言葉に丸をつけた。「ちなみに、3日後には何と返ってきます?」「『ごめん、忙しかった』とか」「日曜日の予定については?」「『どっちでもいいよ』」私は一度、ペンを止めた。「3日待たせて?」「はい」「『どっちでもいいよ』?」「はい」私は受付票の我慢度を書き直した。★★☆☆☆ → ★★★☆☆「あ」奈々さんが言った。「増えました?」「こちらの判断です」「まだあります」「どうぞ」彼女はスマートフォンを操作した。「これ、先月です」メッセージ。今日ちょっと仕事で落ち込んでる。少し話せる?既読。返信なし。翌日。返信なし。翌々日。返信なし。3日後。
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Case 02 既読はつく。でも返事は3日後(2/3)
「まず、Aコースです」Aコース『未読不安・24時間体験』彼氏から送られたすべてのメッセージを、彼女側では読んでいる。ただし――一切、返さない。「24時間だけですか?」「はい」「既読は?」「つけます」「つけるんだ」「そこが重要です」朝7時。彼氏。おはよう既読。返信なし。昼12時。今日何してる?既読。返信なし。夕方5時。忙しい?既読。返信なし。夜9時。大丈夫?既読。返信なし。深夜0時。怒ってる?既読。返信なし。奈々さんが笑い始める。「ちょっといいかも」「Aは軽めです」「十分効きそう」「ただし24時間です」「短い」「では、Bへ進みます」私はページをめくった。Bコース『全世界・返信3日後』彼氏が送ったすべての連絡に対し、世界中が3日後に返信します。「世界中?」「はい」会社。友人。家族。宅配業者。飲食店。病院。すべてです。「例えば?」「彼氏が上司に送ります」本日の会議、14時でよろしいでしょうか?上司。既読。3日後。了解「会議終わってる」「そうなります」彼氏がレストランに予約。今夜2名空いてますか?既読。3日後。空いております「遅い」「非常に」「これ好きです」「Bですから」私は最後のページを開いた。「そして、Cコース」奈々さんが少し姿勢を正す。Cコース『完全書き殺し・72時間後に返信します』「……今回はどう死ぬんですか?」「まず確認させてください」「はい」「彼氏は返信をしない間、何をしていると思います?」「ゲームしてます」「確実ですか?」「オンラインになるので」私は赤いペンで書いた。返信不可。ゲーム可。「なるほど」「あとSNSは更新します」「返信不可。SNS更新可」「ストーリーズも上げます」「非常に活動的ですね」「でしょ?」私は原稿用紙を取り出した。一番上に題名を書く。『72時間後に返信します』奈々さんがそれを見る。「嫌なタイトル」「いい意味で?」「最高の意味で」「では」A。B。C。3つのページを彼女へ向けた。「本日は、どのコースになさいますか?」奈々さんはAを指さした。「Aでも十分なんですよ」「はい」「でもBも捨てがたい」「はい」「世界中から3日後って、
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Case 02 既読はつく。でも返事は3日後(3/3)
彼は目を覚ますと、スマートフォンを手に取った。朝7時32分。奈々からメッセージが来ていた。おはよう。今日仕事?彼は画面を開く。既読。返信はしない。あとでいい。まずゲーム。ログインボーナスを受け取る。SNSを見る。昨夜の飲み会の写真を1枚投稿する。それから仕事へ向かった。駅で会社の同僚へメッセージを送る。電車遅れてる。10分くらい遅れる既読。返事なし。「まあいいか」会社に着く。上司へ報告。到着しました。すみません既読。返事なし。昼。同僚をランチに誘う。今日どこ行く?既読。返事なし。「……ん?」仕方なく1人でコンビニへ行く。午後。取引先へメール。明日の打ち合わせ、15時で問題ありませんでしょうか既読。返事なし。夜。友人へ。今週飲まない?既読。返事なし。彼は少しだけイライラした。家へ帰り、宅配アプリで夕食を注文する。注文を受け付けました。その後、何も来ない。1時間。2時間。「遅すぎだろ」問い合わせを送る。注文どうなってますか?既読。返事なし。結局、カップ麺を食べた。翌朝。会社へ行く。昨日の取引先から、まだ返事はない。上司からもない。友人からもない。「何なんだよ」昼。母親にLINE。今度の日曜そっち行くかも既読。返信なし。「母さんまで?」夜。奈々へ送る。今週末どうする?既読。返信なし。10分後。忙しい?既読。返信なし。20分後。寝た?既読。返信なし。彼はスマートフォンを見つめる。「……何だよ」翌日。世界はさらに静かになった。誰も返してくれない。彼が何を送っても、既読。既読。既読。既読。読む。でも、返ってこない。会社の会議時間も分からない。友人との予定も決まらない。宅配も来ない。母親も返さない。奈々も返さない。彼はイライラして、SNSを開いた。投稿する。最近みんな返信遅くない?すぐに閲覧数が増える。見ている。みんな見ている。なのに。コメントはゼロ。「見てんなら返せよ!」彼が叫んだ。その瞬間。スマートフォンが震えた。ようやく上司から返信。3日前に送った、電車遅れてる。10分くらい遅れるへの返事だった。了解彼は画面を見つめる。「今?」続いて母親。3日前
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