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第 6 話

last update Tanggal publikasi: 2026-08-09 11:21:07
「お着きです」

「大神殿の代理司祭は」

「……お着きです」

終わった。

オスカーは心の中で、静かにそう思った。

今日の議題には、慈善事業の寄付金配分、北方街道の補修費、軍部の冬季備蓄、ノルヴァルト公国使節団への返礼品、王妃主催園遊会の人員配置が入っている。

財務卿は出費を嫌う。

軍務局長は冬支度を急いでいる。

神殿は孤児院への寄付を待っている。

ノルヴァルト公国は礼を欠けばすぐに冷える。

王妃執務院は人手が足りない。

本来なら、最初に軽い外交案件を置いて空気を整え、次に神殿への内示を済ませ、軍部と財務の衝突は国王が入室する直前に短く処理するはずだった。

いや、はずだった、というのもおかしい。

それを考えていたのはクラリスであって、オスカーではない。

「オスカー殿」

低い声に振り返ると、王妃執務院の古参女官長マルタ・リードが立っていた。

灰色の髪をきっちり結い上げた、王宮で最も背筋の伸びた女性である。

「クラリス様は?」

質問は短かった。

答えもまた短くなるしかない。

「いらっしゃいません」

「でしょうね」

マルタは一度だけ目を閉じた。

その表情に驚きはない。

あるのは、覚悟に近い諦めだった。

「昨夜、白薔薇の控えの間から出ていかれるのを見ました」

「では、事情は」

「全部ではありません。ただ、王太子殿下とミレーヌ様がご一緒だったことは存じております」

マルタの声は冷えていた。

王宮で長く仕えてきた者は、怒り方を知っている。

大声を出すのは三流。

本当に怒った時ほど、声を小さくする。

「本日の進行は?」

「正式な議題候補はあります」

「候補だけですか」

「候補だけです」

「……そうですか」

マルタは扇も持っていないのに、扇を閉じるような目をした。

「では、始まりませんね」

「はい。始まりません」

正確には、始めることはできる。

ただし、始めた瞬間に揉める。

それは始まったとは言わない。

そこへ、朝会の間の大扉が開いた。

王太子ジュリアス・ヴァレンティアが入ってくる。

金髪は整えられ、白と金の礼服もいつもどおり美しい。

ただ、顔色はよくなかった。

昨夜の夜会で、何かあったのだろう。

いや、何もなかったはずがない。

クラリスが夜会の途中で王宮を去ったのだ。

それでも夜会が大きく崩れなかったのは、最後に挨拶文だけは修正していたからだろう。オスカーはそう推測した。

ジュリアスの後ろには、ミレーヌがいた。

淡い黄色の朝用ドレスをまとい、髪には小さな真珠の飾りが光っている。

夜会の華やかさとは違う、清楚で可愛らしい装いだった。

彼女は朝会の間を見回し、少し緊張したように微笑んだ。

「皆様、おはようございます」

返礼はあった。

だが、温度は低い。

この場にいるのは、夜会で甘い笑顔を返してくれる貴族ばかりではない。

数字を持つ者。

軍を動かす者。

神殿の名で人心を支える者。

王宮の失敗を、家門の利益に変える者。

笑顔一つで動く相手ではなかった。

「オスカー」

ジュリアスが声をかけた。

「始めろ」

オスカーは、深く一礼した。

「殿下。本日の議題順につきまして、確認が必要でございます」

「議題順?」

「はい」

「書類に書いてあるだろう」

「候補はございます」

「ならば、上から始めればいい」

朝会の間の空気が、薄く軋んだ。

財務卿バルツァーが、わずかに眉を上げる。

軍務局長が腕を組む。

大神殿代理のフィオナ司祭は、表情を変えなかった。

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