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姉の緊急手術、神の手を持つ私は執刀を拒否した

姉の緊急手術、神の手を持つ私は執刀を拒否した

By:  斧正Completed
Language: Japanese
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実家へ連れ戻されてからの10年間、私・高村渓音(たかむら けいと)は偽令嬢の高村静(たかむら しずか)と、本当の姉妹のように親しく過ごしてきた。 母でさえ、「あんたのことを一番大切にしてくれているのは、静なのよ」と言っていた。 私はかつて誓った――この命に代えてでも、このかけがえのない4人家族を守り抜くと。 姉の静が脳動脈瘤の破裂で緊急手術室へ運ばれた時、私はオフィスで、淡々と手術シミュレーターを使い、基本的な縫合動作の練習をしていた。 画面の中では、ロボットアームが正確に針を通し、糸を引いていく。 その動きは、まるで一つの芸術作品のように完璧だった。 数分後、恋人の梶原猛(かじわら たけし)がオフィスのドアを勢いよく開けて飛び込んできた。 そして私を見るなり、声を荒らげた。 「渓音!静さんが危ないんだ!彼女を救えるのは、君の微細剥離術だけなんだ。病院中の専門医が、みんな君を待ってる!手術できる時間は、もう1時間も残ってない!」 彼は期待を込めた目で私を見つめた。 私は国内で、このレベルの手術を行える唯一の医師だった。 そして私の両手は、「神の手」と呼ばれるほど高く評価されていた。 それでも私は、ただ淡々と「そう」とだけ返し、再び手術シミュレーターの操作に戻った。 父と母はほぼ同時にオフィスへ駆け込んできた。 母は私の腕を強く掴み、泣きながら叫んだ。 「渓音!静はあなたのお姉ちゃんなのよ!それでも見殺しにするつもりなの!?」 私はそっと母の手を振りほどき、右手を二人の前へ差し出した。 数えきれないほどの医学的奇跡を起こしてきたその手は、今、かすかに震えていた。 私は静かに告げる。 「残念だけど……昨日から、特発性振戦の症状が出始めた。父さん、母さん。この手は、もう使い物にならないの」

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Chapter 1

第1話

その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

3人の顔には、驚愕の色が浮かんだ。

彼らは、私の右手をただ見つめていた。

そのわずかな、けれど致命的な震えは、トップクラスの外科医にとって、医師生命の終わりを告げる宣告に等しいものだった。

母は唇を震わせ、信じられないものを見るような目で尋ねた。「ど、どうして……?昨日までは何ともなかったじゃない!ただ疲れてるだけなんじゃないの?」

「原因は分からない」

私は手を引っ込め、白衣のポケットに入れた。

「もしかしたら……運命なのかもしれないわね」

「運命?」

父は眉をひそめ、責めるような口調で言った。

「渓音、くだらないことを言うな!お前は……まだ私たちを恨んでいるのか?」

私は答えなかった。ただ、再び手術シミュレーターへ視線を戻した。

18歳の時、私は田舎から高村家へ連れ戻された。

そこで初めて知った。

高村家が18年間、大切に育ててきた娘――静は、本当の娘ではなかったのだ。

そして、本当の高村家の娘は、私だった。

私を育ててくれた義父母は、早くに亡くなった。

幼い頃から生活は苦しく、高村家へ戻った時の私は、ひどく臆病で、自分に自信を持てなかった。

そんな私に、一番温かく接してくれたのが、静だった。

彼女は私に礼儀作法を教え、綺麗な服を買ってくれた。

どんな時も私の味方をしてくれて、

「私たちは本当の姉妹なんだから、遠慮しないで」

そう言ってくれた。

父と母も言っていた。

「静も私たちの娘だ。どちらも大切な子供に変わりはない」

静の実家があまりにも貧しかったため、両親は彼女を不憫に思い、そのまま高村家に残して、2人の娘を一緒に育てることにしたのだ。

私は彼らに、そして静にも感謝していた。

必死に勉強して、彼らの誇りになろうと努力した。

この4人家族を、何があっても守り抜くと誓った。

あの時までは……

母は、私が黙り込んでいるのを見ると、突然涙をこぼした。

そして、私に向かって叫んだ。

「渓音!あんた、まだ根に持ってるんでしょ!

私たちが静を少し可愛がったからって、それを恨んで……今、あの子を見殺しにするつもりなの!?

静があんたにどれだけ優しくしてくれたか、忘れたの!?

あんたが夜遅くまで勉強していた時、誰が毎日体を気遣って栄養のあるものを作ってくれてたと思ってるの!」

その言葉に、私の胸は一瞬、鋭く締めつけられた。

猛は慌てて母を支え、宥めるように声をかけた。「おばさん、落ち着いてください。渓音はそんな人じゃありません」

そう言ってから、彼は私へ向き直った。その瞳には、深い悲しみが浮かんでいた。

「渓音、君が今までつらい思いをしてきたことは分かってる。でも、静さんには何の罪もないんだ。

自分の感情だけで、医者としての使命を忘れるなんて……君らしくないよ」

父は普段、品位を重んじる大学教授だった。けれど今は目を赤くし、掠れた声で訴えた。「渓音……たとえ手が使えなくても、手術室に入って指示を出すだけでいい!静はお前の姉なんだ。目の前で死なせるわけにはいかないだろう!」

それでも私は表情を変えなかった。

ただ、手元の機器を静かに操作し続けた。

とうとう母は崩れ落ちた。

その場に膝をつき、声を上げて泣き始めた。

「どうして……どうして私は、こんな冷たい子に育ててしまったの!静はあんなに優しくて、いつもあんたに譲ってくれていたのに……

あんたは今……今、あの子を死なせようとしているの!?」

母の泣き声はあまりにも悲痛だった。

床を叩きながら泣き叫ぶ母の姿を見て、外にいた医療スタッフたちまで集まってきた。

疑いと軽蔑の視線が、次々と私に向けられる。

けれど私は、ただ小さく笑った。

「それも、あの人の運命なんでしょうね。私には、どうすることもできないわ」

そう言って、私は再び椅子に座り、手術シミュレーターの操作レバーを握った。

画面の中で、ロボットアームが再び動き始めた。

私は全神経を集中させる。まるで、外で起きているすべてのことなど、自分とは何の関係もないかのように。

そんな私の冷たい姿を見て、父の体がぐらりと揺れた。

猛は私を見つめていた。その表情には、失望の色が浮かんでいた。

彼は深く息を吸い込み、何か大きな決意を固めたようだった。

「おじさん、おばさん……もう彼女に頼むのはやめましょう」

彼は父と母に向き直り、力強い声で告げた。

「僕にやらせてください」

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第1話
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。3人の顔には、驚愕の色が浮かんだ。彼らは、私の右手をただ見つめていた。そのわずかな、けれど致命的な震えは、トップクラスの外科医にとって、医師生命の終わりを告げる宣告に等しいものだった。母は唇を震わせ、信じられないものを見るような目で尋ねた。「ど、どうして……?昨日までは何ともなかったじゃない!ただ疲れてるだけなんじゃないの?」「原因は分からない」私は手を引っ込め、白衣のポケットに入れた。「もしかしたら……運命なのかもしれないわね」「運命?」父は眉をひそめ、責めるような口調で言った。「渓音、くだらないことを言うな!お前は……まだ私たちを恨んでいるのか?」私は答えなかった。ただ、再び手術シミュレーターへ視線を戻した。18歳の時、私は田舎から高村家へ連れ戻された。そこで初めて知った。高村家が18年間、大切に育ててきた娘――静は、本当の娘ではなかったのだ。そして、本当の高村家の娘は、私だった。私を育ててくれた義父母は、早くに亡くなった。幼い頃から生活は苦しく、高村家へ戻った時の私は、ひどく臆病で、自分に自信を持てなかった。そんな私に、一番温かく接してくれたのが、静だった。彼女は私に礼儀作法を教え、綺麗な服を買ってくれた。どんな時も私の味方をしてくれて、「私たちは本当の姉妹なんだから、遠慮しないで」そう言ってくれた。父と母も言っていた。「静も私たちの娘だ。どちらも大切な子供に変わりはない」静の実家があまりにも貧しかったため、両親は彼女を不憫に思い、そのまま高村家に残して、2人の娘を一緒に育てることにしたのだ。私は彼らに、そして静にも感謝していた。必死に勉強して、彼らの誇りになろうと努力した。この4人家族を、何があっても守り抜くと誓った。あの時までは……母は、私が黙り込んでいるのを見ると、突然涙をこぼした。そして、私に向かって叫んだ。「渓音!あんた、まだ根に持ってるんでしょ!私たちが静を少し可愛がったからって、それを恨んで……今、あの子を見殺しにするつもりなの!?静があんたにどれだけ優しくしてくれたか、忘れたの!?あんたが夜遅くまで勉強していた時、誰が毎日体を気遣って栄養のあるものを作ってくれてたと思ってる
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第2話
猛が名乗り出た瞬間、両親の目に再び希望の光が灯った。「猛くん……ほ、本当にできるの?」母は感激したように、彼の手を強く握った。猛は床に座り込んでいる両親に目を向け、それから私へ視線を移した。そして、まるで人の痛みに寄り添う聖人のような表情を浮かべ、沈痛な声で言った。「渓音が手を出したくない気持ちは、理解しています。何しろ彼女は『神の手』という名声を背負っている。失敗なんて許されないんです。でも……僕には、静さんが死んでいくのを、ただ黙って見ていることなんてできません!」一見すると、彼は私を思いやっているように聞こえる。けれど実際には、私を「自分の名声を守るために人の命を見捨てる人間」として、世間の前に晒したのだ。騒ぎを聞きつけて集まってきた同僚たちの視線は、さらに冷たく、軽蔑に満ちたものへ変わっていった。猛は両親へ向き直り、もう一度強く言った。「おじさん、おばさん、どうか僕を信じてください!渓音の微細剥離術については、彼女が行った手術にすべて立ち会ってきました。理論も、その本質も、頭の中に叩き込んであります。どうか僕に……従来の術式と渓音の理論を組み合わせて、静さんを救うために、命を懸けた挑戦をさせてください!」「よく言ってくれた!」父は感極まったように涙を流しながら言った。「猛くん……もし静を救ってくれたら、我々は……高村家の財産の半分を、お前に渡す!」その言葉を聞いた瞬間。それまで黙っていた私は、ゆっくりと顔を上げた。喜びを隠せない両親。そして、正義を振りかざすような顔をしている猛。その姿を見つめながら、私は心の中で静かに計算していた。高村家の財産の半分、少なくとも20億円以上。ただ……私はゆっくり立ち上がり、猛を見据えた。そして、冷たい笑みを浮かべる。「私の理論を使う?私の許可は取ったの?」猛の表情が一瞬固まった。けれどすぐに、痛ましそうな顔を作って私を見る。「渓音……こんな時に、まだそんなことを言うのか?今は人を救うことが先だろ!人を救うことと、特許は別問題だ」私は淡々と手を差し出し、はっきりと言った。「私の許可なくその理論を使って手術をするなら、あなたを徹底的に追及する。二度と白衣を着られないようにしてあげる」「お前……!」猛は怒りで顔を
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第3話
その後数日間、私は自ら休暇を取った。【本物の令嬢が偽物の令嬢を見殺し】【悪辣な妹・高村渓音】【恩を仇で返す女】――そんなワードが、次々と検索トレンドに上がった。私の生い立ちは、ネット上で根掘り葉掘り暴かれていった。ネットユーザーたちは、「田舎から戻ってきた娘が、嫉妬から優しい姉を陥れようとしている」という、ありきたりで下劣な筋書きを勝手に作り上げた。静のSNSアカウントも掘り起こされ、そこには彼女が私にどれほど優しくしてきたかという記録が並んでいた。そこに添えられた優しい言葉の数々が、かえって私という人間を、より醜悪に見せていた。私はスマホを見ることもなく、ただアパートに閉じこもり、古びた写真立てを何度も何度も磨いていた。写真立ての中には、穏やかで知的な雰囲気をまとった中年の男性が写っている。私の恩師、周防文海(すおう ぶんかい)教授だった。3日後、ニュースが津波のように押し寄せてきた――【一途な恋人が緊急手術を行い、恋人の姉を奇跡の救出】【新たな神、誕生!梶原猛先生、超高難度の脳手術に成功!】報道の中で、猛は英雄として祭り上げられていた。彼はカメラの前で、深い感情を込めるように語った。「僕は、やるべきことをしただけです。高村渓音は僕の最愛の人です。彼女の姉は、僕にとっても大切な姉ですから」その発言は、妹である私の冷酷さを、さらに際立たせた。ネット上での私への罵声は、ついに頂点へ達した。そして、さらに大きなニュースが飛び込んできた。国内最大手の医療機器メーカーである大智医療会社が、猛との戦略的提携を正式に発表したのだ。改良版微細剥離術と、それに関連する手術器具の共同開発・普及を進めていくという。1週間後、院長から電話がかかってきた。その口調は、拒否を許さない命令そのものだった。「高村渓音。明日の午前9時、病院で市内の脳神経外科専門医による合同検討会を開催する。全世界に向けて生中継も行う予定だ。君はこの技術の特許所有者なんだから、必ず出席しなさい」これは招待ではなく、呼び出しだ。彼らは私に、猛の成功をこの目で見届けさせたいのだ。翌日、私は時間通りに病院の国際会議センターへ向かった。会場には、市内の脳神経外科専門医や各メディアの記者が一堂に集まり、無数のフラッシュが絶え間
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第4話
一瞬、会場全体の時間が止まったようだった。誰もが、まるで狂人を見るような目で私を見ていた。自分自身を通報する?一体、どういうことなのか。静と猛の笑みは、完全に凍りついた。父と母の顔にも、信じられないという表情が浮かんでいる。私は彼らの驚きを無視し、警察官へ向き直った。そして、会場全体を見渡しながら、落ち着いた、よく響く声で告げた。「私の姉である高村静、元恋人の梶原猛、そして大智医療会社は、共謀して私に長期間にわたり毒物を投与し、私の特許技術を盗もうとした疑いがあります」その一言で、会場の混乱はさらに大きくなった。「でたらめよ!」静が甲高い声で叫んだ。「あんたが私に毒を盛ったんでしょう!?証拠だってあるんだから!」「私があなたに?」私は冷たく笑った。そして院長へ視線を向け、データを出すよう求めた。「焦らないで。あの手術の映像を、みんなで確認しましょう。梶原猛という『新たな神』が、一体どうやって奇跡を起こしたのか……皆さんにも見てもらいたいから」私が突然矛先を彼へ向けたことで、猛の顔色が一気に変わった。彼は私を睨みつけ、責めるように声を荒げる。「高村渓音……お前はいつまで意地を張るつもりなんだ!まさか、人の命よりも『神の手』という肩書きを守るほうが大事だと言うのか!?」私は彼の巧妙な誘導には一切乗らなかった。警察官の立ち会いのもと、すぐに手術の完全な記録映像を大画面へ映し出させる。映像は鮮明で、手術の動きも滑らかだった。私は黙ったまま画面を見つめ続ける。そして、映像が最も重要な瘤の剥離工程に差しかかった瞬間。私は手を伸ばし、画面を指差した。「止めて」映像が停止する。「皆さん、ここを見てください」私は画面右下のタイムコードを指した。「12分03秒から12分06秒まで。この3秒間、映像にコマ飛びがあります」私は振り返り、冷たい視線を彼へ向けた。「梶原さん、この消えた3秒の間に、一体何が起きていたのか……説明してもらえる?」猛の顔は、すでに死人のように青ざめていた。「コマ飛びだって?機器の伝送エラーかもしれないだろ!そんなもの、何の証拠にもならない!」彼は必死に言い張る。静もすぐに弱々しい声で口を挟んだ。「渓音……猛は命を懸けて私を助けてくれたのよ。それなの
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第5話
私は静かに説明した。「私が休暇に入る前、オフィスで手術シミュレーターを操作していたことを覚えていますか?あれは練習なんかじゃなかった。私が改良していた小型手術ロボットの、最終プログラム調整をしていたんです。名前はハチドリ。直径はわずか5ミリ。恩師が生前に残した、最後の構想でした。そして……私がそれを完成させた。手術当日、それは通常の医療器具に紛れて手術室へ運び込まれました。独立した4K映像記録システムとデータ解析モジュールを搭載していて、あの手術で起きたすべての真実を記録していたんです」私の言葉に、会場全体が死んだような静寂に包まれた。誰もが呆然としたまま、ハチドリが送ってきた映像を見つめている。画面の中で、猛の手は肝心な場面で激しく震えていた。そして彼がメスを入れ、今にも重要な動脈を切断してしまいそうだった瞬間、彼が装着していた小型イヤホンから、冷静ではっきりとした声が響いた。「馬鹿!角度が違う!左に3度ずらせ!深さは0.5ミリ浅く!急げ!」猛はまるで操り人形のように、慌ててその指示に従った。そして、間一髪のところで最悪の事態を回避した。その後の映像は、もはや手術とは呼べないほどの茶番だった。猛は謎の声による遠隔指示に従いながら、必死に手術を終わらせただけ。彼は執刀医などではなく、ただ誰かに糸を引かれる、哀れな操り人形にすぎなかったのだ。生配信のコメント欄は、完全に爆発した。【嘘だろ……代役!?手術にも代役なんてあるのかよ!?】【マジかよ。梶原ってただの素人だったのか!?本当の英雄はイヤホンの向こうにいる人じゃん!】【これ、殺人未遂じゃないのか!?患者の命を何だと思ってるんだ!】猛は椅子に崩れ落ち、顔面は真っ青で、震える唇から小さな声が漏れた。「ありえない……どうして、お前が……」私は彼を無視し、顔色を失った両親へ視線を向けた。2人も完全に言葉を失っていた。そして私は続けて、USBメモリの中にある別のファイルを開いた。大画面には、詳細な科学検査報告書が次々と映し出される。「これは、過去3か月間、毎週一度行った私の血液検査の結果です。これは毛髪サンプルの検査報告です。そしてこちらは、家にあるウォーターサーバー、私専用のコップ、さらに母が私のために作ってくれた栄養のある
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第6話
「ありえない……こんなこと、絶対にありえない……」父はそう呟き、瞳から涙を止めどなくこぼした。苦しみに打ちひしがれる2人の姿を見ても、私の心にはもう何ひとつ波紋は広がらなかった。猛と大智医療会社の幹部たちは、すぐに身柄を拘束された。その瞬間、母が突然、狂ったように私に駆け寄って、私の腕を掴み、泣きながら必死に訴えた。「渓音!お姉ちゃんを許してあげて!あの子は一時の過ちを犯しただけなのよ!きっとあの男に騙されたんだわ!お願い……私たちが跪くから、今回だけは許してちょうだい!」母と父は、またしても私の前に跪こうとした。数日前とまったく同じだった。姿勢も、表情も、何もかも。ただ、あのときは人の命を救うために、私へ手術を頼んでいた。そして今は、犯罪者を見逃してほしいと懇願している。私はそんな2人を見つめ、突然、どうしようもなく滑稽に感じた。「許してあげて?」私はゆっくり、噛みしめるように問いかけた。「あなたたちは……これですべてが終わると思っているの?」私の言葉に、周囲にいた全員が息を呑んだ。まさか……まだ、もっと恐ろしい真実が隠されているというのか。私は目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んだ。そして再び目を開けたとき、そこにあったのは、底知れない悲しみと憎しみだけだった。「それでもまだ、静は利用されただけの無実の被害者だと思っているの?違うわ」私はスタッフに指示を出し、USBメモリに保存されていた最後のファイルを再生させた。それは音声データ――私が静の部屋にあるぬいぐるみの中に隠していた録音機が記録したものだった。そこに残されていたのは、静と猛の密談だった。録音の中で響いた静の声は、普段の優しく穏やかなものとはまるで違っていた。そこにあったのは、むき出しの悪意と憎しみだった。「高村渓音なんて何なの?ただ運よく、いい家に生まれただけじゃない!高村家のすべては、もともと私のものになるはずだったのよ!18年間、私はずっとお姫様だった。それなのに、あの子が戻ってきただけで、どうして全部奪われなきゃいけないの?父さんと母さんの愛も、高村家の財産も、それにあなたも……全部、私のものなのに!あいつの手を壊して、医者としての未来もめちゃくちゃにしてやる。父さんと母さんに、どちらが本当に誇る
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第7話
真実は、ついに白日の下へさらされた。あまりにも衝撃的などんでん返しに、会場全体……いや、ネット中までもが、異様な静寂に包まれた。父は、生涯をかけて「家族」を誇りにしてきた、品位ある大学教授だった。そんな彼が、すべての真実を知った瞬間、体を激しく震わせた。次の瞬間、突然血を吐き、そのまま真っ直ぐ後ろへ倒れ込んだ。母は人とは思えない悲鳴を上げ、その場で意識を失った。現場は一瞬にして騒然となった。警察がすぐに事態を収拾し、猛には手錠がかけられ、そのまま連行された。医療スタッフも駆けつけ、倒れた両親の救護にあたった。一方、車椅子に座る静――つい先ほどまで、涙を流しながら哀れな被害者を演じていた女は、今や顔面から完全に血の気が引いていた。「高村渓音!どうしてあんたは、田舎でそのまま死んでくれなかったのよ!」彼女は甲高い声で叫び、車椅子から私へ飛びかかろうともがいた。しかし、すでに体に力が入らず、そのまま床へ倒れ込む。その姿は、見る影もなく惨めだった。警察は彼女もその場で取り押さえた。私は静かにステージの上へ立っていた。まるで、孤独に佇む一体の彫像のように。現場を指揮していた警官が私のそばへ歩み寄り、低い声で尋ねた。「高村先生、イヤホン越しに指示を出していた人物は誰ですか?その方にも事情聴取に協力していただく必要があります」私は首を横に振り、会場の後方にある、人目につかない隅を指さした。そこには、私と同じくらいの年齢の男性が立っていた。服装は質素で、穏やかな目をしている。最初から最後まで、ただ静かに状況を見守っていた人だった。「彼は森田黙(もりた もく)。私の先輩です」私は静かに告げた。「そして、恩師のもう一人の後継者でもあります。手術の日、彼は隣の観察室で、ハチドリが送ってくるリアルタイム映像を確認しながら、指示を出していました。私たちがこうしたのは、ただ人の命を救うためだけではありません。梶原猛と大智医療会社が、この技術を自分たちだけの力で完成させる能力などなかったことを証明するために、最も完全な証拠の連鎖を残す必要があったんです」黙は私に軽く頷くと、自ら警察のもとへ歩いていき、事情聴取に応じた。私は知っていた。彼には、何の問題も起こらないと。なぜなら、私たちがしたこ
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第8話
事件の後の処理については、何の心配もなかった。ハチドリが記録した動かぬ証拠を前に、猛と静は精神的な防壁を完全に崩され、すべての罪を認めた。2人は複数の罪状で起訴され、これから待っているのは長い刑務所生活だった。大智医療会社も、数々の違法行為の疑いで捜査対象となり、株価は大暴落し、倒産寸前まで追い込まれた。そして、私の両親は、一晩で20歳も老け込んだかのように見えた。2人は私のアパートの前まで押しかけてきて、何度も何度も謝罪し、泣きながら許しを乞うた。家に戻ってきてほしい、と。「渓音、父さんと母さんが間違っていた。本当にすまなかった……!」「私たちにはもう、あなたしかいないの。お願いだから、一緒に帰ってきて……」私は、すっかり老いた2人の顔を見つめた。胸の中にあったのは、憎しみでも愛情でもなかった。ただ、何も残っていない荒れ果てた心だけだった。私は静かに口を開いた。「2人は娘を1人失った。でも私は……本当の意味で『家』を持ったことなんて、一度もなかった。それと、高村グループの株式50%の受け取りを、私は拒否する。そして、2人とは法的な親子関係をすべて解消する」そう言って、私はドアを閉めた。2人の声を、すべて遮るように。残りの手続きは、弁護士に任せた。……その後、私が最初にしたことは、自分の名義で記者会見を開くことだった。会見の場で、私は正式に発表した。微細剥離術に関するすべての特許権を、無償で国に譲渡すると。そして、この手術の名称には、その真の創始者である周防教授の名を冠されることになる。微細剥離術は、正式に「周防手術」と名付けられた。次に向かったのは、恩師の墓前だった。私は判決文の写しを墓前で燃やした。青白い煙が細く立ち上る中、私は再び、先生の穏やかな笑顔を見たような気がした。「先生……あなたのものを、取り戻しました。誰にも汚されない、きれいな形で……」私は墓前に三度深く頭を下げた。この10年間、私は自分の居場所ではない家に馴染もうと必死だった。愛される価値があるのだと証明しようとして、がむしゃらになっていた。でも今、ようやく夢から覚めたのだ。私が3番目にしたことは、病院へ向かうことだった。院長を訪ねて退職届を差し出すために。院長は驚いた顔をした。
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第9話
1週間後、職員から電話がかかってきた。猛が私に会いたがっているという。断るつもりだったけど、彼が恩師の名前を口にしたと聞いた瞬間、気持ちが変わった。「本当は……君が羨ましかったんだ」ガラス越しに、猛は苦笑を浮かべながら私を見ていた。「同じ周防教授の弟子だったのに、僕は何をやっても君には敵わなかった。体調不良を理由に、途中で諦めて研究を離れるしかなかった。教授は君にすべてを託した。君はそれをすぐに自分のものにして、何でも完璧にやり遂げていた」彼の告白に、私は一瞬だけ驚いたが、すぐに平静を取り戻して尋ねた。「それが、高村静と手を組んだ理由なの?」彼は一度うなずき、それからゆっくりと首を横に振った。「違う、ただ……悔しかっただけだ。本当に君を殺そうと思ったわけじゃない……」当時、微細剥離術の核心となる構想は、私の恩師である周防教授が半生をかけて築き上げた、未完成の研究だった。あの頃、私と猛は周防教授のもとで学ぶ同期の弟子だった。けれど猛は体調不良を理由に、結局研究を離れ、別の指導教授のもとへ移った。それでも、その後、私たちは恋人になった。毒を盛られるまでは、私は本気で信じていた。彼は心からこの分野を愛しているのだと。「先生が突然、心筋梗塞で亡くなったあと……君は先生が残したすべての研究資料と初期データを引き継いだ。僕は思ったんだ。どうしてだって。もし僕が続けていたら、僕だって『神の手』になれたんじゃないかって……」「いいえ。あなたには無理だったわ」私は彼の言葉を遮った。「医者の使命は、人を救うことよ。名声を手に入れることじゃないわ。あなたの心も、手も、もう汚れすぎている。先生の研究を受け継ぐ資格なんて、あなたにはない」猛の目が赤く染まった。私は立ち上がり、そのまま背を向けた。すると、背後から彼の声が追いかけてきた。「渓音……君は本当に、一度でも僕を愛したことがあるのか?」私は足を止めなかった。そんな問いに、もう意味などなかった。……私は10年間暮らしたその街を離れた。誰にも告げることなく。両親がどうしても譲渡した株式もすべて売却した。その一部は、恩師の名前を冠した医学基金を設立し、経済的に苦しい医学生たちの支援に充てた。残りは、私が育ったあの田舎町へ匿名
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