LOGIN桐生は私の欲しい言葉をくれる。癒してくれる。だから、桐生の言葉は私の心を揺さぶる。しかし、こういう時こそ自分の気持ちをしっかり持つのだ。桐生の優しさに流されてはいけない。
「勝手なことを言っているのは分かっています。私から、その……キス、したのに。だけど、私が桐生さんに甘える訳にはいきません」 「どうして?」 「それは……」 「すぐに次の恋に踏み出せないことは理解しています。だけど、僕は桜井さんに甘えて欲しい。辛い時にあなたに寄り添える存在になりたい」 「桐生さん、私と会ったばかりですよね?私のこと何も知らないのに、どうしてそんなに優しくしてくれるのですか?」 私は桐生を見つめ、彼の返事を待った。 「僕自身を見てくれたから」 「それは、桐生さんが初対面の私の話を真剣に聞いてくれたからです。私は桐生さんに救われました。一人では到底抱えきれなかったから」 すると、桐生は私の腕を掴み自分の胸に引き寄せた。 「あの……/桐生さん?」 「こんなにも嬉しいこと初めて言われたから」 私は桐生の鼓動を感じた。私と同じくらい桐生の鼓動もはやかった。 「すみません。桜井さんのこと離したくない」 桐生は私を抱き締めている腕の力を強めた。そして桐生は私の耳元で問いかけた。 「桜井さんのことを知りたいし、僕のことも知って欲しい。だめですか?」 その聞き方はずるい。桐生に流されてしまう。 「……だめではないです」 「良かった」 桐生が心底、安心した声音で呟いた。すると、桐生は私を抱き締めていた腕の力を弱めて、私と向き合った。 「桜井さんを必ず振り向かせますので、覚悟しててくださいね」 「顔が近いです/」 私は桐生に至近距離で見つめられ、頬を赤らめた。 「わざとです。桜井さんの反応が可愛いので」 「もう//」 「ははっ、そうやってこれからは僕に桜井さんの色んな表情を見せてください」 「桐生さん、ずるいです。さっきから嫌って言えない」 私は恥ずかしさのあまり俯いた。 「そういうこと、僕の前以外で言わないでくださいね」 「言いません/桐生さん以外に言う人なんていませんから」 「本当にあなたって人は……」 「桐生さん?」 「ん?」 桐生とふと目が合った。桐生に見つめられると平常を保てなくなる。私は目を逸らし、何とか口を開いた。 「あの……私、そろそろ仕事に行かないと」 「それなら車で送っていきますよ」 「でも、桐生さんも仕事あるだろうし」 「それなら大丈夫です」 すると、桐生はテーブルの上に置いてあるスマートフォンを手に取り電話を掛けた。 「もしもし、今日の会議だが11:00に変更してくれるか。資料は僕のパソコンに送ってくれ。他は予定通りで」 電話を終えた桐生が私の元へ来た。 「仕事あったじゃないですか」 「でも11:00までは時間ができました。それに僕には優秀な部下が居ますので。心配ありません」 「どうしてそこまで……」 「どうしてだと思いますか?」 桐生は私に問いかけた。そんな聞かれ方をされたら自惚れてしまう。期待なんてしたくないのに。 「……わかりません」 「そうですか。それならもっと伝えないといけませんね」 「だから近いです/」 「桜井さんが素直じゃないから。本当は分かってるでしょう?」 桐生は私から逃げ場をなくした。優しい口調なのに彼の言葉に逆らえない。 「期待したくないのです。期待して裏切られるのはもう耐えられません」 「桜井さんは僕があなたを裏切ると思ってるのですか?」 「いえ、そういう訳では……」 「桜井さん、僕の目をみて」 私は恐る恐る顔を上げた。 「僕はあなたを裏切らない。絶対に」 「桐生さん……」 「桜井さんは幸せになるべき人だ。その相手が僕だと嬉しい」 桐生の言葉は冷えきった私の心に響いた。私は寝室のベッドに横になった。広すぎるベッドに一人で眠るのは寂しい。さっきまで一緒に居たのに、もう桐生のことが恋しい。会いたい。でも、桐生は忙しいひと。私の我儘を押し付けるわけにはいかない。私は目を閉じた。すると、あろう事か昨夜の桐生との営みばかり頭に浮かんできた。私はどうしてしまったのだろう。今すぐ桐生に触れて欲しくて、身体が疼きだした。私は身体を鎮めるために、深呼吸をした。いつの間に、私は桐生が居ないとだめな身体になってしまったのだろう。「だめだ、眠れない……」あんなに眠かったはずなのに、すっかり眠気が覚めてしまった。私は起き上がり、リビングへ向かった。「おはようございます」「おはようございます。桜井様、まだ休まれていいのですよ?」「少し横になったら楽になったので大丈夫です」「それは良かった」木村は私に微笑んだ。木村の笑顔を見ると、なぜか懐かしさを感じた。「あの、木村さんにお伺いしたいことがあるのですがよろしいですか?」「はい。もちろんです」「翼さんが好きな料理を教えてくれますか?」桐生は私の料理を美味しいと食べてくれる。桐生と食卓を囲む時間は私にとって特別だった。「アップルパイです」「アップルパイ?」木村の予想外の返答に、私は驚きを隠せなかった。「翼様は幼い頃から、私の作るアップルパイをよく食べてくれました。ですが、最近は作る機会も減ってしまって……」そうだったのか。ということは、久しく桐生はアップルパイを食べていないことになる。私も桐生の思い出の味を知りたい。「もし、よろしければ、そのレシピを私に教えてもらえませんか?」「もちろん、喜んで」「ありがとうございます!」「今から作りますか?」「でも、木村さんの勤務時間は終了しましたよね。それなのに申し訳ないです」「では、ここからは仕事ではなくプライベートということで」「そういうことなら……」木村の砕けた雰囲気に、私の肩の力を抜けた。木村は早速、冷蔵庫を覗いて材料を確認した。「食材が足りないわね」「それなら私が注文します。翼さん、私が一人で出歩くことをすごく心配してるんです。だから食材はネットスーパーで買うようにしています」「翼様から聞いてるわ。怖かったでしょう。知英さんが無事で本当によかった」なぜ、桐生の周りの人はこんなにも温かい人ばかりなのだろう。桐生
「ん……痛っ、」私は朝、目覚めると腰に鈍い痛みを感じた。胸元を見ると、桐生が付けた痕が残っていた。だが、この痛みも、桐生に愛された証拠だと思うと嬉しくなる。私は隣で眠っている桐生を起こさないように、そっとベッドから起き上がった。身支度を済ませた私は、早速、朝食作りに取り掛かった。桐生は今夜、会食の予定が入っている。私の手料理が食べれないことを桐生は残念がっていたので、朝食だけでも食べてもらいたい。愛する人のために、食事を作る日が来るなんて私にとって夢みたいだ。私は昨日、ネットスーパーで注文した食パンをトースターにセットした。その間に、フライパンで目玉焼きとベーコンを焼いた。それから簡単なサラダを作った。一通り朝食の準備が出来た頃、桐生がリビングへやってきた。「おはよう」「おはよう、翼さん」「朝から作ってくれたの?」「うん、大したものじゃないけど」「俺、昨日、無理させたのに」「大丈夫。私、身体は丈夫なの。座って?食べよう」「うん」桐生が椅子に座ったタイミングで、私はコーヒーを運んだ。桐生はブラックコーヒーしか飲まない。先日知った情報が役に立った。「いただきます」「どうぞ、召し上がれ」昨日と同じく、今日も桐生は美味しそうに私の料理を食べてくれた。二人で食卓を囲みながら、他愛のない会話をする。何気ない日常が私の心を満たしていく。「ご馳走様でした。美味しかった」「良かった」「食器は俺が洗うから、知英ちゃんは休んでて?」 「翼さんこそ、もうすぐ出勤でしょ。それまでゆっくりしてて」「分かった」連日、桐生は私のために早く帰宅してくれていた。自宅に仕事を持ち帰っていたことも知っている。なのに、私に疲れた顔ひとつ見せなかった。だからせめて、休める時は休んで欲しい。「あ、そうだ。知英ちゃん」「なに?」「今日の午後に、ハウスキーパーの木村さんが来るから。俺が本家に居た頃から、世話になってる方で、知英ちゃんのことも伝えてあるから良くしてくれると思う」「うん、分かった。私のこと伝えてくれたの?」「当たり前でしょ。俺にとって、知英ちゃんはこの世で一番大切な人だから」桐生の言葉はいつも真っ直ぐで、私の心の奥まで届く。幸せすぎて怖いとは、きっとこのことを言うのだろう。「知英ちゃん、そろそろ会社行くね」「うん、行ってらっしゃい」「行ってきま
風呂から出た私は、ドライヤーをし、スキンケアを済ませた。桐生が取り寄せてくれたスキンケアを使うようになってから、肌の調子がいい。イケメンは一日にしてならず。桐生もあの美貌を保つために努力しているのだろう。桐生はもう寝室に居るだろうか?私はそっと寝室のドアを開けた。しかし、そこには誰も居なかった。桐生のことだ。まだ仕事をしているのかもしれない。そこで私は書斎へ向かった。案の定、桐生は書斎で仕事をしていた。私は桐生の邪魔にならないように、ドアの隙間からそっと様子を覗きみた。風呂上がりの桐生はバスローブを着ていた。色気がダダ漏れている桐生から、私は目が離せなかった。「知英ちゃんって、覗きの趣味あったの?」どうやら、桐生に気付かれたようだ。私は観念して書斎に入った。「お仕事お疲れ様です」「ありがとう。知英ちゃん」桐生はバスローブにリムレス眼鏡という格好で、書類に目を通していた。お世辞ではなく、どんな格好をしても様になる桐生に私は見惚れた。「そういえば、知英ちゃんはどうしてここに?」「あの……寝室に翼さんが居なかったから」「へぇ。それで俺を探しに来てくれたんだ」「別に、そういう訳では……」「そうなんだ、残念」すると、桐生は椅子から立ち上がった。そして、書斎のドア付近に立っている私に近づいた。バスローブの隙間から、桐生の素肌が見えた。初めて見るわけではないのに、私は直視できなかった。「翼さん、仕事するんでしょ?」「終わった」「そうなんだ。お疲れ様」「ああ」桐生の顔が私に近づいた。私は後ずさったが、桐生が書斎のドアを閉めたことで、完全に追い詰められてしまった。こうなると、私に逃げ場はない。 「知英ちゃん、俺から逃げるの?」 「ううん。逃げるわけない」 私は期待した。桐生が私に何を与えてくれるのかを。「そう来なくっちゃ」「だけど、眼鏡は邪魔ね」私は桐生の眼鏡をそっと外した。私はいつからこんなにも欲張りになったのだろう。我慢することには慣れている。それなのに、桐生を求める気持ちだけは我慢できない。「どうして邪魔なの?」「分かってるくせに」「知英ちゃんに言って欲しくて」桐生は試すような視線を私に向けた。そんな風に見つめられたら、手を伸ばしてしまうではないか。私は桐生の首に両腕を回し、背伸びをしながら、彼
時刻は18時半を回ったところ。もうすぐ、桐生が帰ってくる。私は手早く夕飯のセッティングを始めた。家庭の味を知らない桐生の舌に、私の料理は合うだろうか。そういう私も施設で育った身。本当の家族の温かさを知らない。だからこそ、桐生と家族になれることを夢見てしまう。「ただいま」桐生が帰ってきた。私は桐生を出迎えるために、急いで玄関へ向かった。「おかえりなさい。翼さん、鞄かして?って、ちょっと/」「知英ちゃん、会いたかった」桐生は靴を脱ぐなり、私を抱き締めた。今日は桐生から煙草の匂いがしなかった。いつも愛用しているシトラスの香水が微かに香った。「翼さん、スーツ皺になっちゃう」「そうだね。着替えてくるよ」「うん。リビングで待ってる」私は桐生が着替えている間に、料理を温め直し、器に盛り付けた。桐生の家にある食器は、どれも高価なものばかりだった。私は食器を傷つけないように慎重に料理を盛り付けた。「それにしてもいい匂いだな」「あ!?びっくりした」「ごめん、あまりにも知英ちゃんが真剣に食器を見てるから、声をかけるタイミング逃して」「だって、翼さんの持ってる食器はどれも高級品だから傷つける訳にはいかないし」「気にすることないよ。俺に使われないより、知英ちゃんにたくさん使われた方が、この食器たちも嬉しいと思う」桐生は私を後ろから抱き締めた。そして、私の頬にそっとキスをした。「肉じゃがだ」「うん。翼さん、食べたいって言ってたから。口に合うかは保証できないけど」「知英ちゃんが作ってくれたことが嬉しいよ。ありがとう」「どういたしまして。翼さん、そろそろ離れて?料理が運べないわ」「どうしよっかな」桐生は私の耳を甘噛みした。キッチンで私は何をやっているんだろう。今は、桐生に流されてはいけない。私は桐生の腕を振りほどいた。「続きは食べたあとで、ね?」「本気で言ってる?」「もちろん」「ちょうど、明日は午後から出勤なんだ」「え?」「誘ったのは知英ちゃんだから」桐生は満足気に微笑んだ。______________________「いただきます」桐生は、食卓の真ん中に置かれた大皿に盛り付けられいる肉じゃがを一口食べた。果たして、私の料理は桐生の口に合うのだろうか?「美味しい!お店レベルだよ」「それは言い過ぎだよ」「いや、ほんとに」桐生は本
「社長、何かいい事でもありましたか?」「なぜ?」「表情が穏やかですので」「あった。楽しみもあるしな」俺は芹沢の運転する車の後部座席で、会議の資料を読んでいた。今回の契約が締結できれば、桐生コーポレーションにとっても大きな利益となる。「社長、首に何か……」俺はその痕を指でなぞった。知英は俺の想像していたよりも何十倍、いや、何百倍と独占欲が強かった。その証拠に、俺に痕をつけた人間は知英が初めてだ。「可愛いだろ」「仲がよろしいようで。しかし、お父様には知られないようにご注意を」「ああ。その時が来たら、こちらから乗り込むさ」俺の人生は俺が決める。もう誰にも奪わせない。______________________会議は滞りなく終わった。先方との情報交換は実に有意義な時間だった。俺は社長室で一息ついた。それも束の間、芹沢が社長室のドアをノックした。コンコンコン……「入れ」「失礼します。社長、水野様が今夜、食事でもどうかと仰っておりますがいかが致しますか?」「もちろん断れ。どうせ、ホテルに連れ込む気だろ。前は薬を盛られたからな。変態野郎に付き合う時間はない」「承知しました」下心が見え見えの女社長を相手にするのは、少々骨が折れる。以前の俺ならば、その下心さえも利用して契約を掴み取っていた。しかし、今の俺はそんな陳腐でくだらないものなど興味がない。今夜は、知英の待つ家に早く帰るのだ。それが俺の最優先事項なのだから。「社長、水野様が取引を全面停止すると仰っていますがどうなさいますか?」誘いを断られたからって、やることが幼稚過ぎる。こんな相手と対等にビジネスが出来る訳がない。こちらの方から願い下げだ。「芹沢、それで水野社長が満足するのなら好きにやらせろ」「承知しました」さぁ?どう出る?俺を支配していると勘違いしていたのだろう。だったら教えてやる。あんたが居なくてもこの会社は成り立つってことを。______________________「社長、水野様が正式に取引を停止しました」「そうか」「それから水野様が、社長が懇意にしている取引先にも近づいているようですが……」「なるほど。あの人がやりそうなことだな」「手を打ちますか?」「いや、今は泳がせろ。うちと離れたいものはそれでいい」「承知しました」芹沢は俺がこの会社の社長に就任した
翌朝、目を覚ますと、規則正しい寝息をたてて、桐生が眠っていた。寝顔も美しい桐生に、私は見惚れた。「ほんとに綺麗」「何が?」「起きてたの!?」「うん、誰かさんが俺の顔を触るから」桐生は私を手招きした。そして、私の額にそっとキスをした。「おはよ、知英ちゃん」「お、おはよう/」「さてと、今日は何しよっか?」「翼さん、仕事でしょ?」「折角、現実を忘れてたのに」桐生は項垂れた。私はそんな桐生を抱き締めた。「夕飯作って待ってるね」「それ言われたら、頑張るしかないだろ」私は気づいた。桐生が、〝俺〟と言っていることに。私の前で桐生が自分らしくいられるのならば、こんなに幸せなことはない。私には桐生の全てを受け止める覚悟がある。「知英ちゃん、起きるからキスして」「どうしよっかな」すると、桐生は私の膝に頭を乗せた。甘える桐生が可愛くて、愛おしい。私は桐生の髪を優しく撫でた。「ね、どうして私の前で煙草吸わなかったの?」「知英ちゃんが、煙草の匂い嫌いだと思って」「翼さんは本当に人のことをよく見てるね」「知英ちゃんだけだよ。他の人は興味無い。俺は、知英ちゃんにだけ好かれればそれでいい」この発言を真顔で言える桐生の愛は、どれほど重いのだろう。その愛が全て私に向いている。私は桐生のお陰で、愛される喜びを知った。「これからは、私のために我慢しないで。翼さんのやりたいようにして。私は翼さんを信じて、傍に居るから」すると、桐生は起き上がった。そして、引き出しから煙草を取り出した。「ここに隠してあったんだ」「わるい」「謝らないで」桐生は煙草を一本咥えた。私はライターを手に取り、煙草に火をつけた。私の行動に桐生は驚いた表情を浮かべた。そんな桐生に私は微笑んだ。「知英ちゃん、君って子は……」 「なぁに?」「我慢しなくていいんだよな?」私は頷いた。桐生の欲情した瞳が私だけを見ている。桐生は私に何をくれるのだろう。最高の快楽か、それとも初めての快感か。桐生は私を壁際に追い詰めた。そして、ゆっくりと顔を近づけた。私は反射的に目を閉じた。「口開けて」私は桐生に言われた通りに小さく口を開けた。「ゆっくり吸って」「ゴホッ……ホッゴホッゴホッ……」「むせちゃったね」口の中が煙草の匂いと味で充満している。正直、私の口には合わなかった。「ど







