LOGINそうだ、ガランハルド・スロット
ランドルの一人息子だったはずだ。こいつもこいつでいい性格しているんだよな…
女好きで見境ないし。よくランドルに怒られてた記憶がある。「この白豚!いい?私は貴方のような白豚と結婚する気は無いの。お父様に頼んで婚約破棄して貰うわ!そして私はガランハルドと結婚するの!」
「そ、そんな…君が婚約したいと言ったんじゃないか…だからこの婚約を受けたというのに…」 パルサティラの事だ。他の全て優位に立たないと気が済まない。それは人も物もだ。だから肖像画を見て、美男だと思って飛びついたんだろう。だが実際会ってみたら…全然違った。そんな所か…。3人のことを見てるとガランハルドが勢いよくオルラフィオ王太子殿下の顔を思い切り蹴り上げる。
蹴った足が顎に直撃していたこともあり、軽く脳震盪を起こしたのだろう。オルラフィオ王太子殿下は呻き声をあげながら膝をついてその場にうずくまった。「ふん。テッサリーニ国の王太子が聞いて呆れるな。そんな見てくれでよく王太子なんか務まるものだ。いいか。パルサティラは俺の女だ。」
オルラフィオ王太子殿下の前髪を引っ掴んで上を向かせると… 「俺たちの前に二度と顔を見せるんじゃねぇぞ。白豚が…。」 もう一度勢いよく顔を床にたたき落とす。 既にオルラフィオ王太子殿下は戦意喪失した目をしていた…周りの奴らも見て見ぬふりで、クスクスとオルラフィオ王太子殿下をみて笑っているだけだ。
仮にもこの国の貴族なのかと疑いたくなる。
こんなの見たら兄様は愚か父様や母様だって怒るだろう。
たまたま席を外していたようでよかった。
母様から問題を起こさないように釘を刺されているし、出来れば父様たちが来てくれるのが1番なんだけど、居ないからこそ行動に移したのだろうことは何となくわかる。「おい…行くのか?」
私が歩き出すとウェインが後ろからついてくる。「あぁ、ああ言うのは見ていて胸糞悪い。それに元々好青年だった男がああなるという事は何かしら理由があるのだろう。それに、あれを止めない方が後で母様たに怒られるぞ…」
「た、確かに…そうだな…。」
それに私は今の状態から一つだけ名案を思いついたのだ。問題も解決して、上手く行けば婚約者を作ることも出来るかもしれない。
そしたらピンクのドレスも着なくて済むし怒られないしで一石二鳥、いや三鳥くらいになるだろう。 もしかしたら新しい剣を買ってもらえるかもしれない…。私とウェインが歩いていくと、自然と道ができていく。
まだこちらに気づいていなさそうなガランハルドとパルサティラに向かって大きな声で声をかけた。「ガーラーン、ハールドくぅーん。ぱーるすてぃーらちゃぁあん。なーにしてるんですかぁ??」
どうやら一髪で声が届いたようである。よかったよかった。 「げっ…いたのか…」私を見た瞬間ガランハルドが後ずさった。
「いたのかって。それは失礼過ぎやしないですかね。私に1度も勝つことが出来ないガランハルド君。そんなに女の私に勝てないのが嫌なんですか?ガランハルド君は女々しいですねぇ。」 どうやら図星で何も言い返せないらしい。 ガランハルドとはウェインも交えて小さい頃から剣の稽古を一緒に受けていた。剣の師匠はランドル・スロット。ガランハルドの父親だ。
ランドルはこの国でも最強と名高い騎士で、父様からの信頼も厚い。だが、その息子は一度も私は愚か、ウェインにも勝つことが出来なかったのだ。
途中からは稽古にも顔を出さなくなったし、ランドルが呆れるほどの遊び人になっていた。 「あー、そうそうパルスティラちゃんもぉ、ガランハルドに騙されることに気づいた方がいいよぉ?」「な、なんてこと言うのよ!そんなことないわ!ガランハルドは…ガランハルドはね!私の事を心から愛していると言ってくれたもの!!それに私には白豚なんて似合わないわ!婚約は破棄よ!!」
ガランハルドの方を見るとコクコク頷いている。まぁ、こいつの愛がどうかは知ったことではない。1番聞きたかったのは婚約破棄という言葉。
私の前で言ってくれるのを待っていた…。 「そうか…では私が承認になろう。パルスティラ。それでいいか?」 「え、えぇ。婚約破棄できるなら構わないわ!」 私の言葉に頷くパルスティラを見て私はにこやかに笑った。「オルラフィオ・テッサリーニ王太子殿下。君の話を聞かずに色々決めてすまなかった。」
オルラフィオ王太子殿下に手を差し出すとこちらを向くオルラフィオ。どうやら鼻血は出ているが涙は出ていないようだ。目は生気を失っているようだがまだ間に合うだろう。
「ここからは君が選んでくれて構わない。君がもし良ければ私と婚約をしないか?君の事は昨年、テッサリーニ国の建国祭で見かけて知っていた。国民のことをよく考えていて、私は好感を持ったよ。こういうを女から言うのは邪道と君言うだろうか…嫌だったらこの手を振りほどいてくれて構わない。その…どうだろうか?」私はオルラフィオ王太子殿下の手を握って話しかける。
「き、君は…?」
「すまない。すっかり名乗った気でいたよ。名乗り遅れて申し訳ない。メロライン…。メロライン・ドラウゴンだ。ドラウゴン国の国王と王妃を親に持ち、4人の兄がいる。」
自己紹介もせずに求婚してしまうのは何たる失敗だ。改めて自己紹介をすると、オルラフィオ王太子殿下は私の名前をポツリと発した。ボニファティウス国王陛下が亡くなってから、あっという間に1年が過ぎた。この1年は正直言ってとても忙しかった。フィオの王位継承の式典や、バル兄様が壊してしまった(断じて私では無い)王宮の建て替え。そして、トリドール侯爵たちの後始末。今だにやることは山積みだそんな中、今日私達は結婚する。「こんな忙しい時にいいのだろうか。結婚式なんて。」「良いんですよ。それにやっと王宮の建て替えも終わりましたし。結婚式をするのであれば丁度いいのでしょう。」王宮の建て替えは大変だったが自分たちが住みやすい間取りに出来る分、考えるのは1番楽しかったかもしれない。いちばん面倒だったのはトリドール一派の事だ。調べれば調べるほど出てくる余罪。ピリットンは結局誰の子供か分からず、イヴェッタは最後までボニファティウス前国王の息子だと言い続けていた。イベリコは自分は関係ないと叫んでいたが、トリドールの息子である以上の処刑以外の道はなかった。勿論、他の人たちもだ。反乱分子は早いうちに芽を摘んでおいた方がいい。そう考えたフィオは全員を処刑した。その他に変わったことといえば、私がテッサリーニ国に住むようになった事だろうか。ドラウゴン国とテッサリーニ国は友好国となり、国家間の行き来が以前よりも楽になった。そして、なぜかマーヤも一緒に残ってくれている。「マーヤは良いのか?本当はドラウゴン国に戻りたかったんじゃないのか?」「私の居場所はメロライン姫がいる所ですので。それにメロライン姫の近くが1番楽しいですから。」楽しいと言ってはいるが、絶対これは母様からのお目付け役として着いてきたと言った方が正しいだろう。「そ、そうか…。それならいいのだが。今日は確か父様や母様も来
「ゴホゴホッ!!オルラフィオか…。」「父上!!」トリドール達が捕まって数日後、ボニファティウス国王陛下が目を覚ました。お城が倒壊してしまった関係で、今はスポレトーレ家にご厄介となっている。フィオが国王陛下の背中を支えて何とか身体を起こすボニファティウス国王陛下。「お前には辛い思いをさせた。ゴホッゴホッ…何もしてやれなくて…ゴホッ…すまなかった…ゴホゴホッ」「父上、無理に話さないでください。」ロオー兄様の話によると、ボニファティウス国王陛下はずっと少量の毒薬を飲まされ続けていたらしい。致死量に届かない量を何年もずっとだそうだ。いくら致死量に届かないといっても身体は毒に蝕まれているし、限界がくる。もう少し遅れていたら間に合わなかっただろうとロオー兄様は言っていた。「すまぬな。お前があのような状態になった時、この国に置いておくのはまずいと思ったのだ。お前まで彼奴に殺される訳にはいかなかった…」2年前。フィオが毒を盛られたことに国王陛下は気づいていたらしい。だが、証拠がなかった。「アドリアーナが亡くなった時、彼奴はお前も狙っていたんだ。オルラフィオを殺されたくなければ言う通りにしろ…とな…。オルフィまで殺されてしまえば、アドリアーナに顔向けできない。そう思った私は仕方なく彼奴の言うことを聞くことにした…」元々、ピリットンを王太子として国全体を自分のものとしたかったトリドール侯爵。しかし、ピリットンを王太子とするのは難しかった。「私は別にピリットンと王太子を交代しても構わなかったんですよ。そしたら命くらいは助かったでしょう。父上だってそんなことにならなかったはずだ…」「フィオ。それは簡単な話だ。」私が話そうとするとボニファティウス国王陛下は片手を上げて止め
「バル兄様…これはやり過ぎでは…」バル兄様の元に、トリドール侯爵を連れて行くと、ピリットンは素っ裸のまま、頭を持ってズルズルと引きずられている。「それを言うならメローラも人の事は言えないだろ?」いや、私は扉をノックしたのと開いただけなのですか…。バル兄様は絶対ピリットンの事を壁に向かって投げつけていると思う。もしかしたら?投げた先に、たまたま壁があっただけなのかもしれないけど。バル兄様と一緒に二人をズルズル引き摺りながら外に出ると後ろから何かがパラパラと崩れる音が聞こえる。「ま、まさか…?」そしてゆっくり後ろを向くと今度は大きな音を立てて城が崩れはじめたのである。「メローラ。急いで逃げるぞ!!」「はぁ…これ絶対後で怒られますよ。全部兄様が悪いんですからね!!私はただノックして扉を引いただけなんですから…」「ふん。どの口が言っているんだ。お前のそのノックが凶器なんだよ。」ノックが凶器なんてそんなことあるわけが無いだろ!バル兄様とどちらが城を破壊したのか言い合っているとフィオたちがこっちに向かって走ってくる。どうやら貴族達を連れて帰ってきたようだ。右からはマーヤが、左からロオー兄様とジーノが歩いてくる。ロオー兄様とジーノが担架を運んできているのを見る限り、何とか国王陛下は息をしているらしい。無事かどうかと問われると難しいところだけど…「それじゃあ、役者も集まったところだし、始めるか。」バル兄様の一言でトリドール、ピリットン、イヴェッタ王妃を目の前にある3本の木に吊るした。城が無くなった事で何事か様子を伺うようにワラワラとたくさんの人が集まってくる。バル兄様が大きな音を立てていたのも人を集めるためだったんだ
「王宮内に入る前に作戦を伝える。」テッサリーニ国に入るまでは少し緊張しているように見えたフィオも今は王太子の顔をしている。1年間、国を離れていた王太子だと言うのに、赤熱の騎士団の人達の揺るがぬ信頼。帰ってくるか分からない王太子をひたすら待ち続けるのは簡単なことでは無いだろう。それだけ、フィオはこの国の人たちに愛されている。ということだ。アニバル兄様が前に出てきたので静かに耳を傾ける。どうやらテッサリーニ国でもアニバル兄様は有名らしい。「できるだけ少数精鋭で動きたい。メローラは俺と一緒にトリドールとピリットンを捕縛する。ジーノはロオーデリヒを連れて国王陛下の元へ。」的確に指示を出していくアニバル兄様。ロオーデリヒ兄様を国王陛下の所へ連れて行くのは国王陛下の状態を確認するためだろう。ロオー兄様もボァ兄様までは行かないまでも医療に精通している。ロオー兄様もアニバル兄様の言葉を理解したのかこくりと頷いた。「マーヤは赤熱の騎士団員を数名連れてイヴェッタ王妃を捕縛しろ。オルフィはウェインと一緒にお前を嘲笑った奴ら全員連れてこい。わかったな?1人残らずだぞ?」「分かりました。全員連れてまいります。バル義兄上。ウェイン行くぞ。」いつの間にか、フィオがアニバル兄様のことをバル義兄上と呼んでいることにも吃驚したが、それ以上にアニバル兄様があそこまで言うことに驚いた。元々情に厚い人ではあるけど。私達が国の外に出ている間に仲良くなったらしい。「バル兄様があそこまで言うなんて珍しいですね。家族以外にあまり興味を示さないのに…」「何言っているんだ。お前と婚約した以上、オルフィは俺の義弟だ。守るのは当然だろうが!それにこの国はなんだか居るだけで胸糞悪い。メローラ。掃討するぞ。王宮は壊しても構わないと許可は得ているからな。」バル兄様が怒るのも無理は無い。それにしても、王宮を壊しても構わないって…本当かなのか…?フィオ…
モルガン家のことが片付いてから数日後。私達はテッサリーニ国を目指していた。理由は簡単。テッサリーニ国をトリドール家から取り戻すためである。今回はアニバル兄様を筆頭に、ロオーデリヒ兄様、マーヤ、ウェイン、そしてオルラフィオを合わせた5人だ。本当はミル兄様も来たがっていたのだが、母様から謹慎を言い渡されてしまったのである。夜会の後の母様は鬼の形相でミル兄様を怒っていた。あれを止められる人は恐らくいないと思う。でも誰もそれを止めようとはしなかった。言ってしまえば自業自得だからだ。確かに、パレスティラがラグネリアに毒を盛った事はパレスティナ自身が悪い。ただ、そういう行為に走ってしまったのはミル兄様がパレスティラの縁談を適当に流してしまったことが原因だ。ミル兄様の面倒という気持ちは分からないでもないが、それでも誠意を見せることは大切だろう。「本当はもう少しパレスティラに言いたいことがあったんじゃないか?フィオも…」「あぁ…本当はね。たださ、あの状態を見てしまうとね…それに私よりもラグネリアの方が辛いだろうに許すと言ったんだ。それを聞いたらもういいかなって思ったんだよね。」確かに、あの時のラグネリアはかっこよかった。ウェインが水をかけようとした瞬間、ウェインの手に軽く手を添えて「ウェイン。もういいです。確かに私は辛い目に合いました。ですがそのお陰で見えていなかったものに気付くことが出来たのです。それに友人も出来ました。だから、私は許します。」あの時のラグネリアは女神そのものだった。「それに、私が1番仕返ししたいのはトリドール家とこの2年弱私を蔑み続けた貴族たちだ。今からあいつらがどんな顔するかと思うと楽しみでならないよ。」そうか。色々あったから忘れていたけど、フィオがドラウゴン国に来てから1年くらい経っていたんだな。本当にこの
「何もしなくても今全て話してくれたようだぞ。モルガンよ…」可愛がっていた娘が、怒りの余りに全てを話してしまうとはモルガン本人も思っていなかっただろう。「それだけじゃないのよ。その女はね、私からスラッハミール様を奪おうとしたのよ!!」「「え?」」ミル兄様とラグネリアの声が重なる。ミル兄様とラグネリアの婚約は昔会ったと聞いたことはあるがそれは小さい頃の話だ。ラグネリアの母が母様の侍女をしていた時に面白半分で話していたと聞いたことがある。「も、もしかして、ラグネリアの婚約者が…」ミル兄様だと思っているのだろうか。「スラッハミール様なんでしょ?だから私の縁談断られたのよ。全部知っているんだから!!」いや、それ出鱈目もいい所ですよ。パレスティナよ…。「えっと、誰に聞いたか分かりませんが私の婚約者はウェインライト・ガーフィールですよ。先ほど国王陛下も仰ったではありませんか。」「え?」その言葉に皆頷く…「スラッハミール様の婚約者じゃ…」「ありません。」「え…?だ、だ、だってお父様が、お前からスラッハミール殿下を奪ったのは貴女だと…えぇぇぇぇぇええ!!」パレスティナの声が会場内に響き渡る。その後からぽつりぽつりとパレスティナが話し始めた。初めて会った時からミル兄様のことが好きだったこと。でもその隣にはいつもラグネリアが居た。おそらくそれは母様の侍女の娘だからと特別にミル兄様ののころで侍女見習いをさせてもらった時だろうとラグネリアは言っていた。「縁談の話が出た時、とても嬉しかったのです。ですがスラッハミール様