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隣国の王太子殿下に求婚する。

last update Last Updated: 2025-07-20 21:00:00

「ハァハァ…ちょっと待ってください!パルサティラ嬢!少し話がしたいだけなのです。」

穏便に話をしたい私はゆっくりとパルサティラ嬢に近づくと後ろに後ずさっていく。それはそうだろう…この見た目でちょっと歩くだけで息切れするようなやつに近づいてほしいやつなどいないはずだ…

「わ、わわ私に近寄らないで!!!貴方みたいなデブで吹き出物だらけの豚と結婚できませんわ!あ、あああ、貴方なんか私の婚約者に相応しくないわ!!!」

「そ、そんなこと言わないでくれ…パルサティラ嬢。」

「やめてよ。汚らわしい…その汚い身体で私に触れないでちょうだい。この白豚!!」

勢いよく身体を押されて尻餅をつく。女性に押されただけで倒れてしまうとは…それにしてもこれでも豚と言われれば傷つくのだがな…。パルサティラ嬢が会ってもいない男と婚約しようとしたのも敗因の一つだと思うのだが間違っているだろうか。

それからの時間はやたらと長く感じた。

ただ呼ばれたから来ただけの夜会で、知らない男に蹴られ、婚約者であろう女には罵られる。違う国の貴族たちにも侮蔑のまなざしで見られるし…私は何のために来たのだろうか…そんな風に思っていた時…

1人の女神さまが手を差し出してきた。

「もし良ければ私と婚約をしないか?君の事は昨年、テッサリーニ国の建国祭で見かけて知っていた。国民のことをよく考えていて、私は好感を持ったよ。こういうことを女から言うのは邪道だと君は言うだろうか…嫌だったらこの手を振りほどいてくれて構わない。その…どうだろうか?」

「き、君は…?」

目の前の女性に光がさした。

「すまない。すっかり名乗った気でいたよ。名乗り遅れて申し訳ない。メロライン…。メロライン・ドラウゴンだ。ドラウゴン国の国王と王妃を親に持ち、4人の兄がいる。」

メロライン・ドラウゴン。

ドラウゴン国王族の唯一の姫で末っ子だったと記憶している。

ほとんど夜会やお茶会に顔を出すことはなく、深窓の姫とも呼ばれているのだとか…

しかし今、目の前にいるメロライン姫を見て何となくわかった。

きっと噂とは真逆のご令嬢なのだということが…。

今までの女性とは少し違う話し方。男兄弟が多いからだろうか。

白い陶器のような肌に、二重の大きな目。鼻筋はすっとしており、整った顔立ちをしている。

そんな女性が少し粗雑な話し方をすることにとても興味がわいた。それと同時にメロライン姫と一緒にいれば今の自分のことも好きになれるのではないかとそう思ったのだ。

「こ、こんな私でもいいのか…?」

「勿論だ。私は見た目よりも中身が重要だと思っているよ。こちらこそよろしく頼む。」

恐る恐るメロライン姫の手を取ると、メロライン姫はグイっと腕を引っ張り私を立ち上がらせる。

「皆の者。よく聞け。これよりテッサリーニ国、オルラフィオ・テッサリーニ王太子殿下は、ドラウゴン国、メロライン・ドラウゴンの婚約者となった。今後、我が婚約者のことを白豚と嘲笑った暁には、メロラインが全身全霊を持ってお相手しよう。」

ニヒルな笑顔を浮かべながら少し顎を上げて話すメロライン姫。皆が顔を青白くしている。

それから私の手をとって会場の扉を開けると、最後に振り返って、

「あぁ、そうそう。先程笑ったヤツらの顔は全員覚えているからな!楽しみにしておいてくれ。」

と一言言うとバタンと扉が閉まった。

会場内からはキャーという悲鳴にも似たような声が聞こえたが、私は敢えて聞こえなかったフリをした。

⟡.·*.··············································⟡.·*.

メロライン視点。

「ウェイン。父様達がどこにいるか知っているか?」

一応姫という立場である以上、婚約するのであれば私一人で決められる事では無い。父様と母様、それに兄様に許しを得る必要がある。

「お前、さっきのはその場を乗り切るための嘘かと思っていたが、全て本当なのか?」

「勿論だ。私が嘘をつくのが嫌いなのは知っているだろう?それに、オルラフィオ王太子殿下がこのような見た目になってしまったのは何か理由がある気がするんだ。」

1年前のオルラフィオ王太子殿下を見掛けた時は、今とは真逆という印象を持った。

服の上からでもわかる整った身体。普段から剣術や武術などの訓練をしていたことはわかる。

それがここまで変わるものだろうか。

答えは否だ。

「確かに。1年前とは全く印象が違うもんな。」

「あぁ、そういう事だ。オルラフィオ王太子殿下。この後お時間ございますか?」

ウェインの言葉に軽く相槌を打つと、オルラフィオ王太子殿下の予定を聞く。

仮にも王太子殿下。場合によってはすぐ帰国しなければならない…などもあるかもしれないからだ。

「礼が遅くなって申し訳ない。メロライン姫。助けていただいて感謝する。そ、それと…オルラフィオと呼ばれるのはあまり好きじゃなくてね。オルフィやラフィ、もしくはフィオと読んでくれないだろうか。それと、特に急いで帰国しない用事などは無いから時間はある。ほら…こんな見た目だしね。」

自信無さげに笑うオルラフィオ王太子殿下。この見た目になってから相当嫌な思いをしてきたのだろうことは何となくわかるが…どうも陰気臭い。

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