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貸金庫

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-08-20 07:09:41

「お嬢様」

 橘の声に、綾香は一瞬息を止めた。

「何?」

「旦那様から、書類をお探しになっていると伺いましたので」

 扉の向こうから、いつもと変わらない落ち着いた声が返ってくる。

「ええ。今探してるところ」

「お手伝いいたしましょうか」

「大丈夫よ。もう少しで見つかりそうだから」

「承知いたしました」

 それだけ言って、橘の足音が遠ざかっていく。

 綾香はしばらく動かなかった。

 完全に聞こえなくなってから、ようやく息を吐く。

(……何を慌ててるのよ)

 父に頼まれて書類を探していただけだ。

 貸金庫の書類を見たところで、何も後ろめたいことはない。

 それでも、橘には知られたくないと思ってしまった。

 綾香はもう一度ファイルを開いた。

 先ほどの書類を確認する。

 母の名前。

 銀行名。

 貸金庫利用料。

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