เข้าสู่ระบบ翌朝、目を覚ました綾香は、しばらくぼんやりと天井を見つめていた。
「……よく寝た」
途中で一度も目を覚まさなかったのは久しぶりだった。
最近は眠っていても、どこか頭の片隅で母や父、理央のことを考え続けていたような気がする。それが昨夜は違った。
枕元のスマートフォンを手に取ると、画面には昨夜の遥臣とのやり取りが残っている。
『寝たか』
『今から寝るところよ』『なら寝ろ』「……やっぱり変なの」
たったこれだけのやり取りなのに、見ていると昨日のことが次々と思い出された。
温かい紅茶を飲んだこと。遥臣の車で眠ってしまったこと。目を覚ました時、当然のように隣に彼がいたこと。そして、自分が屋敷へ入るまで見届けてくれたこと。
どうしてこんなに何度も思い出すのだろう。
遥臣はただ心配してくれただけだし、自分も少し疲れていただけだ。それ以上の意味なんてない。
「あれには関わるな。次は誰が死ぬか分からない」 杉浦の言葉を聞いた瞬間、綾香は何も言えなくなった。 祖父は母が何かを調べていたことを知っていた。そして母が亡くなった直後、その調査を打ち切った。 ただ娘を失って動揺していたからではない。 母の死と、調べていた相手に何らかの関係があると考えていたのだ。「祖父は……母が殺されたと思っていたんでしょうか」「そこまでは分かりません」 杉浦は慎重に答えた。「私も当時、同じようなことを考えました。ですが、会長はそれ以上何も話してくださいませんでした。私が聞こうとしても、『忘れろ』の一点張りで」「警察には?」「少なくとも、私が知る限りでは相談されていません」 もし祖父が母の死に疑問を持っていたのなら、なぜ警察へ行かなかったのだろう。 証拠がなかったから。 あるいは――。「祖父は、何か脅されていた可能性はありませんか?」「それも分かりません。ただ……」 杉浦が考え込む。「お母様が亡くなったあと、会長はしばらく身の回りのことに神経質になっていました」「身の回り?」「運転手を替えたり、予定を必要以上に外へ漏らさないよう言ったり。私にも、知らない番号からの電話には出るなと」 綾香は息を呑んだ。 今、自分がしていることと似ている。 理央に父の滞在先を知られないようにし、自分の調査についてもできるだけ話さないようにしている。「それは、母が亡くなってから?」「ええ。突然でした」「どのくらい続いたんですか?」「数か月は続いたと思います。ただ、そのうち何も言わなくなりました」 祖父は母の死からおよそ一年後に亡くなっている。 けれど、それまでずっと怯えていたわけではないらしい。「祖父が亡くなったのは病気ですよね?」「ええ
祖父の元秘書だった男性――杉浦正臣と連絡が取れたのは、その日の午後だった。 すでに会社を退職しているため、最初はどう接触するべきか迷ったものの、母の実家の会社へ問い合わせたところ、綾香の名前を聞いた杉浦本人から折り返しの連絡があった。『御影綾香さんですね。お母様のお嬢さんの』「はい。突然ご連絡して申し訳ありません」『いえ。もちろん覚えていますよ。ずいぶんお小さな頃ですが、何度かお会いしています』 綾香には記憶がなかった。 それでも、母が亡くなった頃まで祖父のそばにいた人物なら、話を聞く価値はある。「少し、お伺いしたいことがあるんです。母が亡くなる前のことで」 電話の向こうで、杉浦が黙った。 ほんの数秒の沈黙だったが、その反応だけで綾香はスマートフォンを握る手に力を込めた。『……電話では話しにくいことですか』「できれば直接お会いしたいです」『分かりました』 断られるかもしれないと思っていたが、杉浦はあっさり了承した。 翌日の午後、都内のホテルラウンジで会う約束をして電話を切る。 その夜は、杉浦について分かる範囲で調べた。 祖父の秘書を二十年近く務め、祖父が亡くなった後もしばらく会社に残っていたらしい。経歴を見る限り、それ以上に気になる点はない。 理央や久世との接点も見つからなかった。 だからこそ、母が祖父に何を相談したのか知っている可能性がある。◇◆◇ 翌日。 約束の時間より少し早くラウンジへ着いた綾香は、窓際の席で杉浦を待った。 やがて現れたのは、六十代半ばほどの男性だった。「御影綾香さんですね」「はい。杉浦さん?」「お久しぶりです、と言っても覚えていらっしゃらないでしょうね」 穏やかに笑って向かいへ座る。「申し訳ありません。私、小さかったみたいで」「当然ですよ。最後にお会いしたのは十年以上
翌朝、目を覚ました綾香は、しばらくぼんやりと天井を見つめていた。「……よく寝た」 途中で一度も目を覚まさなかったのは久しぶりだった。 最近は眠っていても、どこか頭の片隅で母や父、理央のことを考え続けていたような気がする。それが昨夜は違った。 枕元のスマートフォンを手に取ると、画面には昨夜の遥臣とのやり取りが残っている。『寝たか』『今から寝るところよ』『なら寝ろ』「……やっぱり変なの」 たったこれだけのやり取りなのに、見ていると昨日のことが次々と思い出された。 温かい紅茶を飲んだこと。遥臣の車で眠ってしまったこと。目を覚ました時、当然のように隣に彼がいたこと。そして、自分が屋敷へ入るまで見届けてくれたこと。 どうしてこんなに何度も思い出すのだろう。 遥臣はただ心配してくれただけだし、自分も少し疲れていただけだ。それ以上の意味なんてない。「……もう、起きよう」 綾香は考えるのをやめ、ベッドから出た。◇◆◇ 朝食を終えると、まず父へ電話をかけた。『おはよう、綾香』「おはよう。ちゃんと寝た?」『寝たよ』「薬は?」『今から飲む』「忘れないでね」『分かってるって』 今日も声は元気そうだった。それだけで綾香はほっとする。「今日は何するの?」『昼から少し出かけようと思ってる。ホテルの人に近くを案内してもらうよ』「一人で遠くには行かないでね」『子供じゃないんだから』 その言葉を聞いた瞬間、昨夜のことが頭に浮かんだ。 自分も遥臣に、まったく同じことを言った。『どうした?』「何でもないわ」『変なやつだな』「お父様に言われたくないわよ」 父と話している間にも
カフェを出る頃には、外はすっかり暗くなっていた。「じゃあ、私帰るわね」「ああ。送る」「え?」 綾香は遥臣を見る。「大丈夫よ。一人で帰れるから」「知ってる」「じゃあ――」「一人で帰れるのと、送らないのは別だろ」 遥臣はそれだけ言って歩き出した。「ちょっと、勝手に決めないでよ」「嫌なら帰れ」「帰ろうとしてるのよ」「なら乗れ」「もう……」 相変わらず強引だ。 けれど、不思議と嫌ではなかった。 駐車場へ向かいながら、綾香は一度だけ後ろを振り返った。「気になるのか」「……何が?」「さっきから後ろばかり見てる」「別に」「そうか」 遥臣はそれ以上聞かなかった。 車に乗り込む。 エンジンがかかり、ゆっくりと車が走り出した。 車内では遥臣も余計なことを話さなかった。 それがありがたかった。 理央のこと。 長谷川のこと。 久世のこと。 母のこと。 考えなければならないことはいくらでもある。 それなのに今は、何も考えたくなかった。 窓の外を街の明かりが流れていく。「……九条先生」「何だ」「今日はありがとう」「ああ」「それだけ?」「他に何て言うんだ」「普通、どういたしましてとかあるでしょう?」「必要か?」「そういうところよ」「何が」 綾香は小さく笑った。 こんなふうに誰かとくだらない話をしたのは、いつ以来だろう。 シートへ身体を預ける。 張り詰め
病院を出た綾香は、スマートフォンを見ながら歩いていた。 母の実家。 祖父が亡くなる前に関わっていた会社。 当時、祖父のそばにいた人間。 調べることは、まだいくらでもある。「綾香」 突然名前を呼ばれ、足が止まった。 聞き慣れた声。 顔を上げる。「……理央」 病院の前に、理央が立っていた。 いつもの穏やかな笑みを浮かべている。「やっぱり綾香だった」「どうしてここに?」「近くまで来たから。見覚えのある人がいるなと思って」「そう」 偶然。 そう言われれば、それまでだ。 けれど。『長谷川さんにも会った?』 昨日の言葉が頭をよぎる。「最近、よくここに来てるの?」 綾香の背筋が冷たくなった。「どうして?」「この前も来てたみたいだから」「誰から聞いたの?」「そんなに警戒しなくてもいいよ」 理央が困ったように笑う。「九条先生に、お父さんのことで相談してるのかなって思っただけ」「お父様のことなら、今は落ち着いてるわ」「そうなんだ。それならよかった」 口調は優しい。 表情も変わらない。 それなのに、綾香は逃げ道を塞がれていくような感覚を覚えた。 どこまで知っている? 病院へ来ていることだけ? 母の記録については? 長谷川は? 久世は?「九条先生とは、最近よく話すの?」「お医者様なんだから、相談することくらいあるでしょう?」「もちろん」 理央は微笑んだ。「ただ、ずいぶん親しくなったんだなと思って」「そうかしら」「前は、そんなに会ってなかったよね」 綾香は答えなかった。 理央の視線が、じっと自分へ向けられている。「何か、僕には言えない相談でもしてる?」「どうしてそうなるの?」「最近の綾香、少し変わったから」 心臓が跳ねた。「昔のことを調べたり、九条先生のところへ何度も来たり」 どこまで。 どこまで知られているのだろう。「綾香」 理央が一歩近づいた。「何か困ってるなら――」「綾香」 別の声が重なった。 振り返る。 白衣ではなく、シャツの上に薄いジャケットを羽織った遥臣が病院から出てきた。「九条先生」「まだいたのか」 遥臣は綾香の前まで来ると、理央を見る。「橘か」「九条先生。昨日ぶりですね」 理央は穏やかに頭を下げた。「綾香がお世話になっているみたいで」「
『余計なことを話さない方がいい、と』 綾香はそのメッセージを何度も読み返した。 長谷川と会ったことを、誰かが知っている。 それだけではない。 長谷川が自分に何かを話したと考えている。『相手は誰だと思いますか?』 返信する。 しばらくして。『分かりません』『理央では?』『声が違いました』 綾香は眉を寄せた。『久世は?』『久世さんの声をはっきり覚えていません。三年前に数回会っただけなので』 理央ではない。 だからといって、久世とも限らない。『何と言われたか、できるだけ正確に教えてください』 長谷川から返事が来る。『昔のことを余計に話さない方がいい。今の生活を大切にした方がいい、と』 脅迫と呼ぶには曖昧だ。 けれど、意味は十分に伝わる。 黙っていろ。 そういうことだ。『警察には?』『これだけでは何とも言えないでしょう』 確かにそうかもしれない。 だが。『着信履歴は消さないでください』『分かりました』 綾香はスマートフォンを置いた。(どこから漏れたの?) 東亜アセットへ電話したこと。 長谷川とカフェで会ったこと。 どちらかを誰かが知った。 もし東亜アセット側からなら、久世よりも先に長谷川の周辺を疑うべきかもしれない。 けれど今の時点では何も分からない。 分からないまま動けば、またこちらの行動を知られる。 綾香は立ち上がった。「……病院に行こう」 母の記録は遥臣に預けてある。 今まで撮った写真もあるが、原本をもう一度確認したかった。 久世という名前がなくても。 今なら気づけることがあ