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第3話

Autor: 逆行の者
あの日、蓮が出ていってから、私たちは一度も顔を合わせなかった。彼は家にも帰らず、会社にも来なかった。

私は彼がどこにいようと、もう気にならなかった。それはもう、私には関係のないことだったから。

一週間後、蓮のアシスタントから突然電話がかかってきた。株主へプロジェクトの報告をしなければならず、プロジェクト責任者である私が、どうしても出席しなければならないという。

私は蓮と完全に別れると決めていたし、会社のことなど、もうどうでもよくなっていた。

けれど、アシスタントの少し哀願するような口調を聞いているうちに、このプロジェクトのために私がチームを率いて半年近くも必死に働いてきたことを思い出した。最後の最後で、それを水の泡になんてできない。

「わかりました。時間どおりに行きます」

私はやはり、引き受けることにした。

5年前、大学を卒業したとき、実は私は他の会社から内定をもらっていた。けれどそのとき、蓮の会社は大きな危機に直面していて、彼を助けるために、私は他の仕事のチャンスを捨て、迷わず彼と一緒に起業したのだった。

この数年、私は仕事を生活そのもののように生きてきた。それだけの努力を重ねて、私たちの会社は、これ以上ないほど小さなベンチャー企業から、注目を集める有望企業へと成長していた。

そのおかげで、佐伯家も私を受け入れてくれて、結婚の話をするため、私と母をF国へ招待してくれるまでになったのだ。

会場は、とても広く、豪華に設えられていた。

私が着いてまもなく、まだプロジェクトチームのメンバーに挨拶もできないうちに、蓮に脇へ引っ張っていかれた。

彼は、この数日私が元気だったかどうかも尋ねず、何日も帰らなかった理由を説明することもなかった。

その代わりに、口を開くや命令したのだ。

「七海、今回のプロジェクト報告は、君は壇上に上がらなくていい。会社で新しい発言者を手配した」

自分の目で見たのでなければ、目の前の蓮は、まるで別人とすり替えられたのではないかと疑ったかもしれない。

このプロジェクトは、立ち上げから今まで、私が総責任者だった。会社の上から下まで、私以上にこのプロジェクトの事情を知る者はいないと言ってもよかった。

なのに、この土壇場になって、人を替えると言い出したのだ。

蓮がどうして、こんなおかしい手配をしたのか、私にはどうしても理解できなかった。

壇上から、聞き覚えのある声が聞こえてくるまでは。

「株主の皆さま、ようこそお越しくださいました……」

着飾って堂々と壇上に立っていたのは、なんと沙耶だった。

彼女を見た瞬間、すべてを悟った。

会社を挙げて重視していた今回の説明会も、蓮の目には、好きな女に箔をつけるための、舞台でしかなかったのだ。

「これが、あなたが用意した人ですか?」

私は冷たい目で彼を見た。

蓮は鼻を触り、後ろめたくて私の目を見られずに言い訳した。

「君は結局、このプロジェクトの責任者だろう。この後、株主への詳しい説明には、君が必要なんだ。

七海、君が名誉や利益を追う人間じゃないことは、俺だってわかってる。それに君はもう、十分に成功している。

沙耶は違う。彼女は働き始めてまだ間もない新人だ。こんな能力を鍛える機会があれば、彼女の今後にとても役に立つんだ」

彼は言い訳を続けたが、沙耶に私の居場所を奪わせたことへの謝罪の言葉を、彼から一言も聞くことができなかった。

私はそんな蓮を見ながら、まるで彼のことを一度も知らなかったかのような気持ちになった。

以前、彼の目には私しかいなかった。喜びも失敗も私と分かち合い、私を抱きしめて、私の才能を褒めてくれた。

ところが、沙耶が現れて、蓮の秘書として会社に入ってから、すべてが変わり始めた。

彼は会社のことも日々の些細な出来事も、私と話してくれなくなった。頻繁に出張するようになり、その行き先すら、私ははっきり説明できなくなっていた。

それでも母は異変に気づいて、私に忠告してくれた。

「なな、最近蓮くんが家に来ないけど、喧嘩でもしたの?

彼の傍に、女性の秘書でも来たんじゃない?ちゃんと注意しなきゃだめよ……」

当時、母の忠告を聞いても、私はまるで気に留めず、かえって二人のことをかばっていた。

「お母さん、蓮の傍にいる秘書は、大学時代の後輩なの。蓮はずっと妹のように思ってるだけよ。

二人がもし付き合うなら、とっくに付き合ってるわ。今さらなんてこと、ありえないんだから」

今思えば、あのときの私は、本当に愚かだった。

こんな結末を招いたのは自業自得だろう。この人生で、男の口から出るでたらめを信じてしまったのだから。

蓮は長々と話しても、私が何も言わなかった。こんな私の反応を見て、彼はきっと、昔のように私がまた彼の言い分を受け入れたと思ったのだろう。

私がこんなに聞き分けが良いのを見て、彼はとても嬉しそうに言った。

「七海、最近忙しすぎて、結婚式の準備がどこまで進んだか聞くのを忘れてたよ。

あと一週間ほどで、俺たちは結婚式を挙げるんだ。嬉しいか?」

私は彼の言葉に答えなかった。

結婚式?

たとえ結婚するとしても、新郎は絶対に蓮ではない。

蓮は私の反応に気づかず、なおも一人で話し続けた。

「俺たちがもうすぐ結婚式を挙げることを、お義母さんもきっと喜んでくれる。

結婚式の日取りを、直接伝えたいんだが、どういうわけか、お義母さんの電話がまったくつながらない。

番号を変えたのに、君が教えてくれなかったのか?」

蓮は顔を伏せて、私に尋ねた。

けれど彼の言葉の多くは、実のところ、私の耳にはあまり入っていなかった。

壇上の説明が終わり、会場には拍手が響いていたからだ。

沙耶は口元に笑みを浮かべ、興奮した様子で礼を言い、壇を下りた。

彼女の様子を見て、私の顔にはいっそう冷たさが増した。

沙耶のスピーチでは、このプロジェクトの責任者はまるで彼女であるかのようだった。

けれど、このプロジェクトは始まりから今まで、彼女が一度だって力を貸したことはなかった。

会社でこのプロジェクトを知る者たちは、今ごろ沙耶を指さしてひそひそと話し、その目には軽蔑と蔑みが浮かんでいた。

もっとも、沙耶にはそんなものは見えていなかった。彼女の目には、蓮しかいなかった。

「蓮さん、さっきの私のスピーチ、なかなかできたでしょう?こんな自己表現の機会をくれて、本当にありがとうございます」

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