FAZER LOGIN警察と救急車は、あっという間に到着した。蓮と沙耶は、病院へ運ばれた。二人とも、重傷だった。私と海斗は病院で、蓮の手術が終わるまで待った。命に別状がないと知ると、ようやくホテルへ戻った。F国を離れる前に、海斗が私の代わりに蓮を見舞いに行った。戻ってきたとき、彼は私に指輪を一枚差し出した。「あの男が、これを『別れのプレゼント』だってさ。でも、俺にはどうも目障りで。捨ててもいいか?」その指輪は、かつて私たちの愛の証だった。けれど今、それを見ても、私の心には一片の波も立たなかった。私は自分の手で、その指輪を窓から投げ捨て、それから海斗と一緒にベッドに倒れ込んだ。私は海斗とF国を離れ、帰国した。私はこの数年で訪れた国々の写真を、母の遺影に見せてあげた。あの世でも、母が私たちと一緒に、この喜びを分かち合ってくれますように。私と海斗は、C国に腰を落ち着けた。半年後、娘が生まれた。ちょうどその頃、私は友人からメッセージを受け取った。蓮は、傷が癒えた後、会社を売ってアフリカへ渡ったという。彼の行方を知る者はいなかった。沙耶は実刑判決を受け、残りの半生は、おそらく刑務所で過ごすことになるだろう。沙耶が収監されたちょうどその日、私のスマホに突然、一通のメッセージが届いた。そこには、果てしなく広がる大草原が写っていた。草原を、野牛の群れが駆け抜けていく。荒々しく、自由に。その写真を見た瞬間、私は、きっと蓮から届いたのだろうと察した。F国で彼と再会したあと、私たちはもう二度と会うことはないのだろう。私たちは、それぞれ新しい人生を歩み始めていた。「ママ、だっこ」娘の声が耳元に響いた。その声を聞きながら、私は思った。過去のあれこれはもう私とは何の関わりもなく、今の私には、もはやどうでもいいことなのだ、と。(おわり)
蓮はとても執念深い人だった。今回F国で彼に会って、私は驚いたが、それと同時に、彼がまた必ずやって来るだろうことも、心の中ではわかっていた。だから私と海斗は、早めに世界旅行を終えて、C国に移り住むと決めていた。ところが、誰も思いもよらないことに、C国へ戻る前日の夜、私たちはホテルで泥棒に遭い、スマホもパスポートもなくなってしまった。仕方なく、私たちはF国にもう数日滞在するしかなかった。ある日、海斗が眠っていたので、私は一人で、ホテルの周りをぶらぶら散歩しようと外へ出た。ホテルの門を出た途端、蓮に会った。彼は、とても慎重な様子で私を見ていた。手にはチューリップの花束と、お菓子の入った箱を持っていた。「七海、これは君が一番好きな花だ。君に。それから、君が俺の作るブラウニーが一番好きだと言ってただろう。これは俺が作ったんだ。食べてみてくれ」私は花を受け取り、少し困惑しながら言った。「蓮、ここで私を待って、いったい何のつもりですか?お気持ちはありがたいです。でも、私はもう、チューリップは好きではありません」私はお菓子の箱を見て、いっそう困惑した。蓮は、家族に甘やかされて育った。付き合い始めた頃、私がブラウニーが好きだと言うと、彼はわざわざ作り方を覚えて、私のために作ってくれた。けれどその後、一緒にいる時間が長くなるにつれ、彼は二度と台所に立たなくなった。しかし今日、彼はとうに諦めていたことを、再び始めた。私はため息をついてケーキを受け取った。「蓮、そんなことをして、何になるんですか?」私たちの間は、とうに可能性がなくなっている。彼の今のこんな行いは、まったく意味がなく、それどころか私をとても苛立たせた。以前の蓮は、まぎれもなくエリートの男で、仕事こそが一番だった。それが今では、慎重に、私に取り入ろうとしている。その落差には、本当に耐えられない。これは、私の知っている蓮ではなかった。蓮は唇を引き結んで何も言わず、私がプレゼントを受け取ったのを見て、目元いっぱいに笑みを浮かべた。「蓮、私はもう結婚しています。私には私の生活があります。あなたにも、あなたの生活がある。できれば、もう二度と会いたくありません。このまま別れましょう。それが、お互いのためです。プレゼントは素敵です。でも、正
私の傍には、もう別の男性がいた。蓮は足を止め、信じられないといった様子で私を見た。彼は声を震わせて、私に尋ねた。「こちらは……?」「僕はこの女性の夫です。あなたは、どなたですか?」私の夫・天野海斗(あまの かいと)は不機嫌そうに蓮を見た。今にも拳を振り上げて殴りかかりそうな構えだった。「君が……結婚しただと?!」蓮は、信じられないといった顔だった。彼の様子を見て、私は構わずにいようと思った。けれど、あの出来事も、時間が経つうちに、とうに過ぎ去った過去のことになっていた。私はうなずいた。「ええ、結婚しました。今は、とても幸せに暮らしています」その言葉を聞いて、彼は気まずそうにうつむいた。「七海、この何年も、俺はずっと君を探していたんだ。直接、謝りたかった。お義母さんのこと……」私は彼の謝罪の言葉を遮った。母が亡くなって、もう5年が経っていた。私はとても苦しく、蓮と沙耶を、そして自分自身を恨んだこともあった。けれど、過ぎたことは過ぎたことだ。恨みながらも、生きている者は、しっかり生きていかなければならない。「蓮、それはもう、過去のことです。亡くなった人は帰りません。生きている者は、前を向いて生きていかなければ。お母さんのことは、あなたを許すことはできません。けれど、恨み続けるつもりもありません。私たちは、もう連絡を取らないほうがいいのでしょう」彼の目の光は、その瞬間に消えた。彼は申し訳なさに満ちた目で私を見た。しばらく沈黙した後、彼の口元が、かすかに弧を描いた。「七海、この何年か、君は幸せにしていたか?」私はうなずいた。「母の希望を胸に、世界を見てきました。とても楽しかったし、本当に愛せる人にも出会えました」私が言い終わるか終わらないかのうちに、彼の目から涙がこぼれ落ちた。すすり泣く彼の姿を見て、私は小さくため息をつき、ティッシュを差し出した。昔の私は、彼が少しでも悲しむのを見ていられなかった。私が彼を愛していたから、同じように悲しくなったのだ。けれど今の私の心は、凪いだ水面のように静かだった。「なあ、よかったらカフェで座って話さない?」海斗は、蓮が大通りで泣いているのを見かねて、彼を道端のカフェへ連れていき、座らせた。海斗は、私が旅の途中で知
「どけ!」蓮は荒々しく、彼女を突き飛ばした。沙耶は全身が固まった。この男の前で、こんな扱いを受けたことは、一度もなかった。「蓮さん、どうしたんですか?」次の瞬間、沙耶は封筒の中の、その他の資料に目をやった。そこに一番目立っていたのは、彼女がさまざまな男との写真だった。さらに、病院の検査報告書と、彼女が協力者と密談していたチャットの履歴もあった。それらを見て、沙耶は一瞬、頭が真っ白になった。「沙耶!」蓮は資料を握りしめ、怒りに震えて沙耶を見た。「出て行け!二度と俺の前に姿を現すな!」目の前のものを見て、この一ヶ月の自分の行いを思い返し、蓮は憤然と自分の頬を張った。恋人として、婚約者として、彼は私が一番無力だったときに、傍にいて慰めるどころか。彼自身が、この悲劇のすべての張本人だったのだ。そんな認識が、蓮の胸を、息もできないほど苦しく締めつけた。彼は狂ったように、持てる人脈を総動員して、私の行方を探し始めた。……ヨーロッパ各地を旅する私は、本当に楽しかった。仕事の忙しさから解放され、一人で美しい世界を満喫して、私はまるで、もう一度生まれ変わったような気分だった。訪れる土地ごとに、私は母の写真を持って写真を撮り、母が話してくれた場所に、自分の足跡を残していった。そんな生活を満喫するたびに、以前の5年間を思い出しては、私はこの上なく後悔した。男一人のために、時間を無駄にした自分が、後悔でならなかった。恋のために、家族への情を大切にできなかったことが、何より悔やまれた。私はヨーロッパを半年以上旅し、それから世界各地へも足を延ばした。この数年、ずっと旅の途中だった。昔の友人が、ときどき私にメッセージをくれた。その内容はいつも、蓮が狂ったように世界中で私を探しているというものばかりだった。会社のプロジェクトは頓挫し、投資の資金は減り、会社は下り坂を転がり始めた。沙耶のほうは、友人の話では、蓮に会社を追い出され、彼女のしたことが大々的に広まったせいで、雇おうとする会社は一社もないという。彼女はあの街を去り、今は行方もわからない。そんな知らせを、私は気にも留めなかったし、構っている余裕もなかった。私はヨーロッパを巡り尽くし、それからアフリカへも足を延ばした。
決めていた結婚式の時刻は、とうに過ぎていた。教会の中には、新郎である蓮と、新郎側の招待客しかいなかった。このときの蓮は完全に慌てふためいていた。私に電話をかけても、まったくつながらなかった。「七海は、いったい何をしてるんだ?どうして結婚式に現れないんだ?」結婚式は、ついにただの茶番劇になった。沙耶は、そんな結果を見て、心の中でほくそ笑んでいた。「蓮さん、七海さんは、この結婚式のことなんて、全然気にしてないんだと思いますよ。あんな女、蓮さんのことを愛してるかも怪しいです。あんな女のために怒ることないですよ。外にはあんなに大勢のお客様がいるんです。いっそ私が花嫁をやりましょうか?とりあえず、この式を済ませてしまえばいいんですから」沙耶はそう言って、身代わりの花嫁になろうと、ろくでもない提案をした。「七海に、何かあったんじゃないか?」蓮は理由もなく胸騒ぎがして、沙耶の言葉などまったく聞かず、そのまま教会を飛び出した。あとには、顔を見合わせるばかりの招待客が残された。沙耶は歯を食いしばり、後を追った。家に着くと、屋敷はとうにもぬけの殻だった。私の痕跡は、すべてきれいに片づけられていた。蓮はがらんとした部屋を呆然と見つめた。こんな事態は、彼が一度も想像したことのないものだった。傍らの沙耶は、興奮を隠しきれなかった。彼女は心の歓喜を必死に抑え、悲しげな表情を作って蓮を慰めた。「蓮さん、七海さんのような女は、去るのに一言も残さないんですよ。どうしてまだ、そんな女のことを心に置いておくんです?あの女、蓮さんのことなんて愛してないんですよ」蓮は彼女を無視して、部屋の中をぐるりと回り、私が机の上に置いていった封筒を見つけた。彼は、ほとんど震えながら、その手紙を開いた。中には、かつて彼が私に贈った指輪と、母のF国での死亡報告書が入っていた。母の死亡報告書に記された日付を見て、蓮はたちまち、あの日のことを思い出した。私たちを迎えに行かなかったのも、私の電話をブロックして、助けを求めるすべを奪ったのも、彼だった。「違う、こんなこと、本当のはずがない!」蓮は地面に膝をつき、悔恨と自責の涙を流した。私たちは長年一緒にいた。彼は私のすべてを知っていた。父は、私が幼い頃に亡くなった。私にとって
「社長にも、七海さんにも、会社にも申し訳ないって泣いていて……あの演技ときたら、アカデミー賞をあげないのが惜しいくらいですよ」アシスタントの話を聞いて、私はようやく悟った。蓮が出ていったのは、私に時間を無駄にしないと悟ったからではなく、会社に、もっと心を引かれる、慰めるべき存在が待っていたからなのだ。アシスタントとの電話を終えて切ると、私は荷物を手に家を出た。そのとき、アシスタントからまた動画が届いた。動画では、沙耶がカッターナイフを首に当てて泣き叫んでいた。蓮は傍で慌てて顔を真っ赤にし、沙耶にナイフを下ろすよう、必死に懇願していた。痴話喧嘩を繰り広げる二人の様子は、私にはただ見苦しいだけだった。そのとき蓮から電話がかかってきた。つながるや否や、電話の向こうから騒がしい声が聞こえてきた。「七海、すぐ会社に来てくれ。君が沙耶を許して、SNSの声明を削除してくれれば、この件はもう終わりにする」「それは私には関係のないことです」私は嫌悪を込めてそう言った。この二人の行為が、ますます気持ち悪く思えてきた。本当に、去り際まで私を不快にさせるつもりらしい。蓮は私がそんな返事をするとは思っていなかったようで、電話の向こうはしばらく沈黙した。私には、沙耶が泣き叫びながら、死ぬと喚き、命をかけて私に謝ると言っているのが聞こえた。さらに、説明会で私の手柄を横取りしたのは仕方のなかったことだ、自分は新人で、良い実績が必要だったのだと言っていた。けれど、新人の時期を経験しなかった者などいるだろうか。どうして沙耶だけが、人の労働の成果を盗めるのか。蓮と親しいからっていうだけで?そのとき蓮が口を開いた。その声には、決然とした響きがあった。「七海、今日のことを君が解決しなければ、もし沙耶に何かあったら、俺たちはこれで完全に縁を切る」なんと冷徹な言葉だろう。このときの蓮は、5年前の彼を、ぼんやりと思い出させた。あの頃、彼の家族は彼の起業に反対し、私を受け入れることすらしなかった。当時の彼も同じように、家と縁を切ると冷徹に脅し、家族を折れさせたのだった。あの頃、彼が守っていたのは私だった。それが今では、沙耶に変わっていた。私は突然、すべてがひどくつまらなく感じられた。「蓮、声明は削除します。あなたのためでも沙耶の







