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第2話

作者: 万葉
いつも私が愛を求めても、慎吾はこう言うだけだった。

「言葉にしないと愛じゃないのか?お前と籍を入れること。それだけで十分だろ?」

十分なの?

私の目の奥に沈んだ暗さは、陽光でも晴れなかった。

私が返事をしないでいると、慎吾は赤信号で突然キスをしてきた。

「お前を手放すつもりなんてないよ、梨花」

彼の吐息が私の鼻にかかる。昔ほどのときめきはなく、ただ機械的に応えるしかなかった。

前は慎吾が運転中、路肩に停めた時でさえ、私が彼の手の甲をつつくと、「危ないからやめろ」と真面目に怒られたものだった。

しかし今は、後ろの車からクラクションが鳴り響く中で、慎吾は私と貪るように唇を重ねている。

青信号の残りが5秒になって、ようやく彼は息を乱したままアクセルを踏んだ。

「この人生で、結婚したいと思ったのはお前だけだ」

窓の外の景色がどんどん流れていく。

暁の家に着くと、荷物はすでに庭先に出されていた。

真由のために、私の存在をいち早く消したかったのだろう。

私は慎吾からスーツケースを受け取り、わざと体が触れないようにして邸宅へ入った。

「さようなら」

二度と振り返ることはない。

背後のエンジン音は、別れを惜しむ様子もなく消え去った。

私の胸にずっと居座っていた重苦しい感情も、ついに弾け飛んだ気がした。

暁は私の手から、無言でスーツケースを受け取った。

先に入ろうとせず並んで歩きながら、彼は私の横顔を窺うように言った。

「嫌だったか?

安心してくれ。君が嫌なら、絶対に手は出さないから……」

暁は一拍おいて、慎重に言葉を選んでいた。

「君がそうしたければ、別の話だけど」

予想外のことすぎて、私は少しだけ眉を動かした。

あの暁が、人の顔色を窺うなんて。

何度か慎吾の誕生会で顔を合わせたことがあるが、以前の印象は、空気も読めず話も通じない堅物だった。

暁は口を開けば、たちまち場を凍らせるような人だった。

それでも無口でいてくれたおかげで、一度のパーティーで三言も口を利かないのが救いだった。

かつて私が、なぜあんな空気を悪くする人を呼ぶのか、と慎吾に聞いたことがある。

「暁は子供の頃から感情を表に出さないガリ勉だったんだ。でも、付き合いは長いんだよ。

それに、三浦家は深津市で名の通った百年続く名門だ。資産は世界の富豪ランキングで三位に入るほどだ。

三浦家の当主が俺のパーティに来るだけで、箔がつくのさ」

そんな権力者が、代わりの女でしかない私の気持ちなど、気にするというの?

皮肉をこめて口元を歪ませた。

所詮は、あの時の慎吾と同じ富裕層のゲームなのだろう。

私は首を横に振って、「構いません。お好きになさってください」と答えた。

たとえ慎吾が言った通りに誰かに送られようとも、今の私にはどうでもいいことだ。

彼らのような連中は、いくらでも後ろ暗いやり方を持っている。

暁は何か言いたそうに口を開けたが、沈黙を選んだので私が話を変えた。

雇用主に余計な恥をかかせないのは、プロとしての基本的な心得だ。

「亡くなった初恋の人の代わりに、私がウェディングドレスを試着するんでしたよね?」

寝室の前に立ち止まり、「スケジュールは適当に決めておいてください」と言った。

暁が何か言いづらそうな漆黒の瞳を私に向けていたが、結局頷くだけで背を向けた。

あの表情は知っている。

これまで私を買ってきた男たちも、みな同じ目で私を見つめてきた。

複雑で、苦々しく、押し殺したようなその目つき。

その目には、誰にも言えない恋の秘密が隠れていた。

暁の動きは速かった。

翌日の午後、マイバッハは会員制のウェディングドレスショップの前に停まった。

ドレスよりも先に視界に入ったのは、慎吾が女と手を握り合っている姿だった。

こちらに気づいた慎吾は眉を跳ね上げ、くせでタバコに手をかける。

しかしその女性に視線を向けた瞬間、慌てて煙草を箱に押し込んだ。

「暁もそろそろ結婚が近いから、せっかくだし一緒にドレスを試そうと思って」

その言葉は横にいた女性に向けたもので、私のことなんて眼中にないようだった。

ようやく気づいたように慎吾は言った。

「これが例の奥さんか?結構可愛いな」

「奥さん」だと……

他人行儀で、吐き気がする。

だが、暁は付き合う気なんてさらさらなさそうだ。

表情一つ変えず、押し黙ったまま。

当然か。

暁ほどの大物が慎吾の尻拭いをしてやるだけでも、十分義理は果たしている。

そんな中、暁の静かな声が響いた。「妻を軽々しく評価するな」

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