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161話

Author: 籘裏美馬
last update Last Updated: 2025-12-25 18:27:22

ふわり、と香るシャンプーの匂い。

やわらかな感触。

すやすやと眠る、心地良い息遣い。

「──っ、こ、心っ、起きてくれ心っ」

俺は、真っ青になればいいのか、真っ赤になればいいのか分からない状態で、声を潜めて心に話しかける。

手洗いに行ったはいいものの、寝ぼけていた心は何故か俺が眠るリビングのソファにやって来た。

そう言えば、眠る前に心がソファで寝るから、と言っていた。

その事を気にしていたのだろう。

無意識にソファに来て、俺の代わりに自分がソファで眠ろうとしたんだろう。

だが、俺がソファを使っている今、心がここに来たら大変な事になる。

無理やり起こすのは可哀想だが、この状態じゃあ流石に不味い。

俺は自分の体の上に倒れ込み、すやすやと寝息を立てる心の肩を掴み、優しく揺さぶった。

「心、頼むから起きてくれ心」

さっきから、心の柔らかい胸元が俺の胸に当たっている。

厚手のバスローブではあるが、俺が着ているバスローブの胸元がはだけてしまっているせいで、心の胸の感触がはっきりと分かってしまって──。

このままじゃあ、不味い事になる。

「んむぅ……!」

「え、心?──うわっ」

揺さぶられるのが不快だったのだろうか。

心は不機嫌そうな声を上げると、俺に乗っかったまま、更に体を押し付けてきて──。

そのまま俺の体に自分の腕を回し、ぎゅうっと抱きついてきた。

「──っ」

その瞬間、俺の頭の中が真っ白になった。

暫く放心していた俺の足の間に入り込んだ心の太ももが、際どい場所に触れた事で、俺の意識が戻った。

不味い、本当に不味い。

このままだと、今心の目が覚めたら確実に幻滅される──。

俺は心を上に乗せたまま、慎重に慎重に体を起こし、ソファの上に上半身を起こした。

心の背中に手を回し、落ちてしまわないようにしっかり抱き寄せ支えたまま、なるべく揺らさないようにソファから足を下ろした。

そのまま心を横抱きにして、俺は寝室に向かう。

今、抱えているのは心じゃない。

でかいぬいぐるみ、テディベアのぬいぐるみだ、と必死に自分に言い聞かせる。

心を抱いたまま、何とか寝室の扉を開けてベッドに心を運んだ。

ころり、とベッドの上で寝返りを打つ心のバスローブがはだけ、柔らかそうな胸元が見えてしまった瞬間、俺の手はかつてないほどのスピードで布団
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