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5話

Penulis: 籘裏美馬
last update Terakhir Diperbarui: 2025-09-25 15:22:43

夕方。

病院から帰ってくると、玄関に瞬の靴がある事に気づき、私は急いでリビングに向かった。

バッグの中には、母子手帳とエコー写真が入っている。

大事なそれらが入ったバッグを胸に抱え、リビングの扉を開けたところで、中にいた瞬が肩越しに振り返った。

「…帰ってきたのか。どこに行っていた」

「瞬、おかえりなさい」

あのね、と言葉を続けようとした所で、瞬が酷く冷たい目をしている事に気づき、私は思わず言葉を飲み込んだ。

「麗奈が長旅で疲れ、体調を崩しているって言うのに、お前は呑気に遊びに行っていたのか。いいご身分だな」

まるで吐き捨てるように、瞬の口元は歪んでいる。

遊びに出かけていたと思われていたなんて。

病院に行っていたんだ、と。

瞬との間に子供ができたのだ、と。

その事を説明しようと、私は母子手帳とエコー写真を取り出そうとバッグを開けて、中からその2つを取り出した。

「瞬、違うの。遊びに出かけていたんじゃなくて、病院に行っていたの」

「──病院?」

「ええ、そうよ」

病院の単語に、瞬の目元が幾分か和らぐ。

瞬の瞳に、一瞬だけ私の事を心配するような感情が浮かんだが、それもすぐに消え去ってしまい、ここ最近で見慣れた冷徹な色が浮かぶ。

「これを見て、瞬」

瞬の冷たい態度にも、もう慣れた。

今までは冷たい態度や視線に傷付いたけれど、今ではもう慣れてしまい、過去のように傷付く毎日を送ってはいない。

私は冷たい視線を向け続ける瞬に、バッグから取り出した母子手帳と、エコー写真を目の前に差し出した。

背の高い瞬に、まるで掲げるようにして差し出した。それを見た瞬は、目を見開いて驚いた表情を浮かべる。

「これは…」

「瞬、私のお腹に赤ちゃんがいるの。私たちの子供よ」

嬉しくて、お腹に手を当てたまま笑顔で瞬を見上げる。

瞬は子供が好きだ。

まだ、私たちの仲が良かった頃。

出かけ先で家族連れや、小さな子供を見た瞬は眩しそうに目を細め、優しげな表情を浮かべていた。

そして、私に顔を向けると、いつか自分たちにも天使のように可愛らしい子供ができるだろう、と言っていた。

結婚する前に授かってしまったのは少し意外だったが、いずれは瞬との間に子供を設ける予定だったのだ。

多少順番が前後してしまっただけで、きっと瞬も喜んでくれるはず。

私が見つめる先で、食い入るようにエコー写真を見つめていた瞬が、表情を緩めたのが分かる。

ああ、瞬も喜んでくれた。

そう感じて、私が瞬の名前を口にすると、途端に瞬の表情が強ばった。

「…本当に俺たちの子供か?」

「──ぇ」

「鑑定をして、俺の子供だと分かるまでは、俺の子供だと認めない」

「な、なんでそんなに酷い事を言うの!?このお腹の子は、間違いなく瞬の子供なのに!」

「口ではどうとでも言えるだろ」

私が声を荒らげると、瞬はバツが悪そうに私から顔を逸らし、手の中にあった母子手帳とエコー写真を私に押し付けてくる。

どん、と押された私は、思わずその場から一歩、二歩と後退してしまう。

よろめいた私に、一瞬焦ったような表情を見せた瞬だけど、すぐに私から顔を逸らし、そのままリビングの扉に向かって歩いて行ってしまう。

「瞬!?どこに行くの…?」

「会社に戻る」

「帰ってきたんじゃ…」

「仕事が残ってるんだ」

瞬は私に一切視線を向ける事なく、それだけを言うと足早にリビングを出て行ってしまった。

バタン!と閉まる扉の音が広いリビングに響き、私は瞬に突き返されてしまった母子手帳とエコー写真を手に、だらりと腕を垂らしたまま呆然と立ち尽くした。

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